いざサンリへ
前話ですが、投稿の後、当日の11時に加筆してます。
「一言申し上げておく、私は何も見ていない。」
「いえそれは無理が・・・」
「なんのことか分からない。」
「・・・それにしても、なぜユート様がこちらへ?」
「サンリ行きのセルゲイ殿下の供に任命されたわけだが、王命の為拒否権はないと申し上げておく。」
ユートは会うなり、そう言ってセルゲイと共に馬車に乗り込んだ。
それは数刻前、タケダ公爵邸でサンリへ一緒に向かうために集まった際の出来事である。
長期休暇に入り約束通りサンリへ向かうのに、モエの帰郷に合わせて一緒に行くことになり、どうせならということでタケダ公爵邸に集合して同じ馬車に乗ろうという話になった。
で、向かった先で待って居たのはモエだけでなく、なぜかユートもいたのだった。
もちろんアナスタシアは先日の醜態を思い出して、ユートの顔を見るなりうろたえたわけで、その姿をみたユートが押し切り、アナスタシアは否定するのもおかしいと思って引き下がるということをやっていた。
先に乗り込んだセルゲイは2人の様子を見て、乗り込んだユートに話しかける。
「何やら面白いこと話しているね。僕も詳しくは知らないんだ。・・・ねぇ、話してくれるよね。」
「この旅行にセルゲイ殿下の話相手が必要だとユージン様が王に話されました。さすがに気心が知れているとはいえ同性が居ないと退屈されるだろうと。」
「言う気が無いのかな?・・・まぁいい。旅は長いしね、ぜひ話相手になってくれると嬉しいな。」
無邪気な笑顔を見せながら、目の奥が笑っていないセルゲイにそら恐ろしいものをユートは感じていた。
そうこうするうちにモエとアナスタシアが馬車に乗り込み動き出した。
「あら?初めてみるバレッタね。」
アナスタシアの横髪を編んで後ろでまとめている紺色に小さいイエローダイヤが散りばめられているバレッタをみてモエが問いかけた。
「え、えぇ。ユージン様からいただいたの。」
「舞踏会の思い出にってところかしら。ユージンもやるわね。」
「ふぇっ、えっどこでそれを・・・」
「アナスタシアのドレスをイメージしたものでしょ。それに私たち舞踏会でお話ししましたわよ、やっぱりあの時から体調が悪かったのね。」
「暑さに体がついていかないみたいで・・・心配をおかけしますわ。」
モエの勘違いに、あの日マノフ王国の色を身に纏っていて良かったと胸を撫で下ろした。バレッタはあの日2人でみた「精霊の卵」のことを意味していた。嫌なことを思い出すなら捨て置いて欲しいと書かれていたが、それを上回るユージンとの思い出があったのでアナスタシアは身に着けている。
あの時以来、自分がユージンに惹かれているのではないかと思い始めていた。マノフ王国に居た時はこのまま第一王子と結婚するんだろうと思っていたので、恋をするということがアナスタシアはわからなかった。
第一王子とは差し障りのない相手だと思っていたので、手を触れようが目を合わせようがそれによって心が動くようなことは無かった。周りの令嬢達が王子と目が合うだけで幸せだと話していて、私の事が羨ましいと言っていたが、なぜ嬉しいのかも羨ましいのかも分かっていなかった。
でも今は、ユージンの手紙にうつった彼のうつり香だけで嬉しくなっている自分がいるのである。そんな自分にまだ慣れていなくて、距離が離れる今回の旅行は心を落ち着けるいい機会だった。
サンリまでは2日かけて移動するとはいえ、初めての景色にあれこれと話している間に時は過ぎていくものである。
その日の宿泊地で出された蕎麦が、ガレットと同じもので作られていると知って気に入ったアナスタシアをみたターニャが次の朝にはそば打ちを完璧にマスターしていたりとあったが、1日目はおおむね順調だった。
そして2日目は、この旅一番の名所を通るのである。
目の前を塞ぐ様に連なっている山が見える、麓から中腹へ登るとそこには馬車が2台は余裕で通れる大きな穴が空いていた。
「凄いなぁ、これが大トンネルか〜。思っているよりも明るいね。それにしてもどうやってこれを作ったのか気になるなぁ。」
「この大トンネルは国王の精霊である玄武の力で掘られ、ユージン様の朱雀の力で灯りが常時ともっている。」
「精霊って本当に反則な力だよね。これを見ると侵略しようとか考えないよ。」
「こちらに関しては大精霊が顕現している今だからこそ出来た大技ですが。」
「そういえばユージン様も、朱雀と火の精霊ってわけてらしたわね。」
トンネルの中を通りながらセルゲイが感嘆の言葉をあげ、ユートが説明するということが行なわれていた、その中で大精霊と話しているユートの言葉に先日の気にかかったことを聞くのだった。
「季節が、青龍、朱雀、白虎、玄武と分かれているのは知っていると思うが、これが初めの精霊の眷属の4大精霊を表している。そしてそれぞれにも同じ性質をもった眷属の精霊がいる。王族の血族のもとに精霊が現れるが、大聖霊が現れた時代は数多くない。」
「朱雀が大精霊、その眷属が火の精霊っていうことはわかりましたわ。」
「ユージン様のアケボシ様は朱雀で、レイ様の精霊は火の精霊になるとだけ、申し上げておく。」
そう言って、これ以上は説明しないと口を閉ざしたが、暗にレイがユージンを敵視しているのは精霊が関係していると言っているようなものだった。
トンネルを抜けるとサンリへと入る。サンリは四方を山に囲まれた盆地で、さらに高地の為、寒暖差を利用した野菜や果物が特産の領地として有名である。
「そろそろ着くわよ。」
堀をこえ木製の大きな門をくぐると、建物よりも果樹園がひろがっていることが目に入ってきた。
「この日除の様に連なってるのはなんですの?」
「これはブドウ。袋が下がっているでしょ、その中に実が入っているのよ。その先の木は桃よ。」
「この木になっているのが桃ですのね。伏せっていた時に食べてこれ以上美味しいものはないって思ったのよ。」
「気に入ってもらえて良かったですわ。あのトンネルが出来るまでは痛みやすくて学園までは運べないくらいでしたの。」
城内に植えられている種類は数多くあり、途中で馬車から降りて説明を受けながら屋敷へと歩を進めていく。
「あら、あちらで収穫されていますのね。」
木に登って収穫作業をしている大人と子供の姿が見えた。そして、声で人が近づいていることに気づいた子供が振り返りこちらに向かって駆け出してくる。
「ねぇちゃんお帰り〜〜〜」
「お姉様とお呼び!」
「とおちゃん、かあちゃん、すっごく綺麗なお人形みたいなおねえさんが来たーーー。」
「タロウ!!」
「あらあら、こんな姿で申し訳ありませんわ。母のカナデと申します。モエがお世話になっております。」
「こちらこそモエ様には助けてもらってばかりです。」
「もうっ、ほら着替えて。先に屋敷に入っているわ。」
頰被りをした道中で見た農家の姿をした夫人に動揺しながらもアナスタシアは公爵令嬢として鍛えられた精神で乗り切った。
「えっと・・・」
「話は後ですわ、部屋に入って休みませんこと?」
そう言って、モエは屋敷へ入るよう促した。




