舞踏会 後編
ユージンのターン! 後半部分があっさり過ぎたので、加筆しました。
外の風は1曲踊って火照った体にとても心地よいもので、テラスのテーブルに用意された冷たい柑橘系のジュースは体の中から熱を冷やしてくれる。
室内の喧騒から逃れた2人は、ただ静かに身体を休めていた。
(今日のユージン様は強引で意地悪だわ。でも先ほどは助かったかも・・・あのまま踊っていたら暑さに参ってしまいそうだったのよね。踊っていたときもユージン様があんなことするから熱くなってくらくら・・・・・)
アナスタシアはつい先程のことを考えている間にいらぬ方向へ意識がいってしまい、振り払うように別の事を考えようと庭の方に意識をむけた。
淡い灯りが照らされた庭は警備の兵は居るのだろうが近くに気配はなく、どこからか噴水とは違う水の流れる音がしていた。
そして思った事がそのまま口に出る。
「これは川の流れる音かしら・・・。」
アナスタシアのささやきにユージンが反応して答えた。
「よくわかったな。庭に水をひいて常に流れるようにしてある。少しでも涼しくなればと先代の王の時に造られたんだが、少しは気分は良くなったか?」
そう言ってすっとアナスタシアの頬手をにやって顔色を確かめ、自然に首に手を触れる。
「ひゃっ」
指が長くてそれでいて骨太の男らしい手を首に感じて変な声がアナスタシアから出ると、ユージンは慌てて手を引っ込めて気まづそうに、
「すまない。母がよく具合の悪い時に熱がないか首に手をあてて確かめていたからつい・・・。」
「いっいえ、びっくりしただけですので・・・次は気をつけて下さいませね。」
アナスタシアの返答に、ちょっと意外な顔をしてそれから悪戯っぽく微笑みながら、
「良かった。破廉恥な方とはもうお会いできませんとか言われるかと思って焦った。」
「わざとでしたの?でしたらもうお会いしませんわ。」
「断じてわざとじゃない。許してくれないか?」
「では庭を案内して下さいませ。それで先程のことは許しますわ。」
「喜んで。」
ユージンはアナスタシアの手をとり、テラスから繋がっている外階段を降りて庭に出た。
道の脇には木製の枠と紙で作られたランタンの様なものが木にかけられ照らされていた。
「このランタンは紙ですのね。木に火が燃え移ったりしないのですか?」
「大丈夫だ、理由はアケボシのおかげと言ってもいいかな。今は火の属性の精霊が王家に不思議と多いんだ。だからある程度こちらの都合に従ってくれる。」
「そういうものなのですね。」
「そうだ・・・ジハネという国は王家の側にいる精霊に左右されやすい。今が異常に暑いのも何代も前から青龍が側に現れていないことだけでなく、今代に朱雀が居るのが原因と言われている。」
青龍というものが、こちらに来た時の季節を表す精霊だということはわかったが何を意味するのかはアナスタシアには分からなかった。それに、朱雀と火の精霊を分けた意味も。
なぜなら、話しているユージンの顔が真剣でそして痛そうで聞くことも躊躇われた。
そうこうしているうちに、水の音が大きくなり川の側に出た。川の脇には水に落ちないように木の柵がしてある。
「アナスタシア嬢、今から灯が消えるが驚かずに待ってくれないか。」
アナスタシアがうなずくと、ランタンの火が消え始め辺りが暗くなる。
すると、何処からともなく淡い小さな光が灯りはじめ、何十個と宙にふわふわと飛びながら現れた。
「綺麗・・・。」
一見すると暗い中に突然の灯りなので怖くなりそうだが、その灯りはなんとなく優しい感じがするのだった。
「この国では精霊の卵と呼ばれている。清浄な場所にしか現れないうえに、今の季節にしか光らない虫なんだ・・・貴女に見せる事が出来て良かった・・・。」
「・・・本当に精霊の使いのようですね。」
あっという間に、流れるような光の束になり虫と言われて気にならないくらい綺麗で、目が離せない美しさがその場を占領していた。
ユージンは意を決したように腕に添えられたアナスタシアの手を空いた手を持ち上げ、手の甲に口付けた。
アナスタシアは手に暖かくて柔らかいものが当たったのはわかったが、急すぎて何が起こったのか頭が理解しなかった。
驚いてユージンに向き直ると、ユージンは憂いのこめた目でアナスタシアを見つめていた。
(あっ、精霊の卵の光が映り込んでいるわ。ユージン様の目って本当に黒いのね。)
あまりに驚きすぎて関係のないことを考えはじめてしまったアナスタシアだが、ユージンの言葉に我に返った。
「アナスタシア嬢・・・。実は貴女が俺の婚約者候補になるだろうことが分かってて国に呼んだ。」
「えっ・・・」
「イヴァンから婚約破棄されて落ち込んでいる貴女を見て、俺ならそんな事しないと思ったんだが・・・事態を楽観的にみてた俺が悪かった。」
「そうでしたの・・・」
「改めて、俺との事を考えてくれないか?それまで貴女の父上に話をもっていくのを国王には待ってもらう。」
「申し訳ありませんわ・・・よくわからなくて・・・考えます。」
ユージンの告白に、頭がついてこなかった。今日は刺激が強すぎてアナスタシアはいっぱいいっぱいになっていた。
ユージンの手から離れて、一人その場を離れた。名前を呼ぶユージンの声が聞こえた気がしたが、ただ逃げたかった。
どのくらい歩いたか、目の前に東屋が見えたのでそちらに向かって歩を進ませる。そして中を確認せずに東屋へ入った事をアナスタシアは後悔するのだった。
「おや、アナスタシア様。・・・おひとりですか。ユージンと一緒に出られたと思ったのだが。」
東屋のベンチに座ろうと中に入ると、死角のベンチにあの嫌な視線をよこしていた第一王子が寝そべっていた。
「レン殿下がいらしたのですね。おくつろぎの所、失礼致しました。」
そういって踵をかえして出ようとしたアナスタシアだが、レンに腕をとられて反動でベンチに座り込む。
「急ぐ必要はないだろう。顔色も良くないようだ、休むが良い。」
そう言って、アナスタシアが出て行かないように手を取り腰に手を回した。それは、ユージンの時と違ってとても気持ちの悪いもので、身の危険を感じるものだった。
「レン殿下、お心遣いありがとうございます。この灯りがそう思わせるだけですわ。皆が心配しますので戻ろうと思います。」
「気にする必要はない。・・・それとも私が怖いかな?・・・そうだな、ユージンより先に花を手折ってしまおうか。」
そういって、おもむろにレンが顔を近づけて来ようとする。足を踏ん張るが腰を抑えられているので、逃げることもできない。
アナスタシアは無駄な抵抗かもしれないが取られていない片手と顔をそらしてなんとか防ごうと頑張っていた。
「ご婦人に無理をなさるのは如何かと。」
「っち」
何やら聞いたことのある声が聞こえて、そらした顔をもどすと目の前に黒い手帳がレンの顔を隠していた。さらに手帳の先を見るとユートが居た。
「ユート様・・・ごきげんよう?」
「・・・助けない方が良かったのだろうか?」
その言葉に、アナスタシアは大きく首を横に振って抗議した。
「ふん、お前か。どうせ国王から探してくるように言われたのだろう。先に戻る。」
レンはそう言って、不機嫌に東屋を出て行った。
アナスタシアはレンが出て行ったことで、ほっと一息をつき。立ち上がってユートに一礼をする。
「助かりました、ありがとうございます。で、ユート様は何故こちらに。」
「常々、トラブルに遭う方だ。私は王家の侍従の家系なんだ、いつも舞踏会で第一王子を探す羽目に陥っている。」
本当にうんざりしたような言い方をするユートに、おもわずアナスタシアは笑ってしまった。
「楽しそうだね。・・・妬けるな。」
入り口から一連の原因になったユージンの声が聞こえてドキッとする。
先程のことを思い出して顔を合わせるのは気まずかった、だから自然と顔が下がっていく。
そんなアナスタシアをみて、ユージンは困ったような悲しいような顔をして、
「先程は悪かった。俺は先に戻るよ・・・ユート、後で何があったのか教えてくれるか?それと、アナスタシア嬢をよろしく頼む。では、また逢えることを楽しみにしている。」
そう言って離れて行こうとするユージンに、
「怒ってないです。ただ、わからなくて。」
そう言って、アナスタシアはユージンを見た。
「ただ、先ほどは気持ち悪かった・・・」
「もうしない・・・」
「いえ、違うんです。ユージン様だと嫌じゃないのに・・・」
「こわっこわかっ・・・」
身を震わせ自らの体を抱きしめたアナスタシアの目には涙があふれてきて、少しずつ頬を濡らしていく。
ユージンは少し躊躇したが、美しい紫の瞳からあふれる涙を指でぬぐい、包み込むこむように優しく抱きしめた。
アナスタシアは流されるまま、ユージンの胸元にもたれかかり思うまま泣くのだった。
どのくらい時間がたったろうか、背中をやさしく撫でながらユージンは大丈夫だと囁いてくれる。
それがとても心地良くてアナスタシアは泣き疲れ眠りについてしまうのだった。
次に気がつくと朝で、家の布団で起きた時は王宮でないことにホッとしたが、眠ったままで馬車に乗せられて帰って来たことを思うと恥ずかしくて、朝の支度になかなかターニャを呼べなかった。
(きっとまた顔が赤くなってそうだもの・・・)




