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泉北の女神様  作者: 大和 政
第6巻
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お祖父ちゃん

 俺のせい……だ。

三琴は言った。

「咲ちゃんは鬼なの。」と。

 五十年前、泉北に大水害を引き起こした鬼なのだと。

その大水害を食い止めるために三琴のお爺ちゃんは咲を封印したのだと。

その咲の封印を、俺は、何も知らずに解いてしまったんだ。

だから……なんで……。でも……なんで……。

 もう取り返しがつかない。

どんな事情があったって、どんな理由があったって、なかった事にはできない。

川が溢れて、田畑が水浸しになって、街中の人が避難して……。

 全部、俺のせいだ……。

街をこんなにしてしまった自分が許せなかった。

 でも……どうして……。咲はどうしてこんなことをしてるんだ。

まるですべての責任を咲に押しつけようとしている自分が許せなかった。

責任の取りようもないしでかした事の大きさが胸を締め付ける。

けれど、「この雨が俺のせいだ」なんて誰にも言えるはずもなく、だた俺は避難所となった体育館の天井を見つめながら涙を流すしかなかった。


 あと七日。

こんな雨が降り続いたらどうなってしまうのか。

泉北にはもう誰もいなくなってしまうんじゃないのか。

俺の……せいで。

俺が……咲の封印を解いたせいで……。


 もう嫌だ。もう嫌だ。もう嫌だ。

何を考えても思考はこの雨の事に辿り落ちてしまう。

周囲の人の話し声が気になってしまう。目線が俺を見ているような気になる。

 咲……助けてくれよ。


 手にしたスマホを一層強く握りしめたとき、ヴヴ、ヴヴとバイブが鳴った。

三琴からの電話だ。

『吾田三琴』の文字の下の緑の『通話』と赤の『キャンセル』。

俺は一瞬、赤いボタンに指を添えてから通話のボタンをスライドさせた。

一体、なんの用なんだよ。

 思い当たる事なんて山ほどあった。

三琴の言葉を聞かなかった事、咲の封印を解いた事。

いくら責められても言い訳の……償いのしようもない事だけど、けど、いま、せめて俺の事を責めてくれるのは、全ての事情を知っている三琴だけだった。

「三琴……なんのようだ……」

 喉から胃袋が出てきそうな声で、ようやく絞り出した俺の声に三琴は開口一番「お祖父ちゃんがいなくなったの!!」と叫び声を響かせた。

 えっ?!

「お祖父ちゃん、昨日までずっとこの雨を止めるための祈祷をしてて、でも裏の川の水位も上がってきて、それで昨日から避難したんだけど、いつの間にかいなくなってて……」

「じいちゃんが……」

 とにかくこの話は誰かに聞かれたらマズイ。

俺は咄嗟に「ちょっと待ってくれ」と告げて、慌てて体育館の外に飛び出した。

「それで三琴のじーちゃんが……いなくなったんだな。」

 あの時、俺が咲の封印を解いたときのじーちゃんの表情が思い浮かぶ。

あの驚愕と絶望とが入り交じった表情。

そして咲が姿を消した後、じーちゃんは封印を解いた俺のことを一言も責めず、ただ「儂の所為(せい)や」と言葉を漏らした。

一体何がじーちゃんの所為なのか。

あの時はもうあまりの事が起きすぎて頭が一杯で気に留める事もできなかったけど、じーちゃんの様子も何かが奇妙(おかし)かった。

「分かった。すぐ行く。」

 俺は雨合羽を頭から被って大豪雨の中に駆け出した。


 こんな大豪雨の中でも泉北高速が動いていたのには助かった。

『視界不良のため現在速度を落として運転しております。』

そんな車内アナウンスを流しながら電車はゆっくりと栂・美木多駅に停まり泉ヶ丘の駅に近付いていた。

電車から降りる人影は(まば)らで閑散とした改札口の前にポツンと三琴が立ち尽くしていた。

「それで、じーちゃんは……どうしたんだ?」

 会って挨拶もそこそこに早速本題を切り出した俺に三琴は「分からない……」と首を振った。

「お祖父ちゃん……ずっと祈祷してたの。

食事も……寝る暇も惜しんで。

なんとかこの雨を止めるんだって。

でも昨日いよいよウチも避難しなくちゃいけなくなって、

流石に昨日の夜はお祖父ちゃんも一緒に上神谷の体育館に避難したんだけど、今朝起きたらいつの間にかいなくなってて……」

「寝る暇も惜しんで……どうしてそんな……」

「分かんないよ!!

フラフラになって倒れるまで祈祷して、

どうしてって聞いても、何を言っても、『お前には関係ない。』『これは儂の問題や。』ってそう言って何も答えてくれなくて……」

「じゃあじーちゃんは……」

「どこかで祈祷してるんだと思う。」

「三琴、お前の家は?櫻井神社で祈祷してるんじゃないのか?」

「お祖父ちゃんがいなくなって、真っ先にお父さんが見に行った。

(うち)にはいなかった。って。」

「じゃあ……」

「多分、和田川のお社だとおもう。

お祖父ちゃんがこの雨を止めるために、もう一度咲ちゃんとお話しするために祈祷しているのは間違いないと思うから、咲ちゃんと関係ない場所で祈祷するはずがないと思うの。

お願い!翔!!

一緒に和田川のお社に行って!

お父さんもお母さんも二人とも鬼の事なんて知らないから、どうして和田川のお社にお祖父ちゃんがいるのか説明できない。

どうにかして和田川のお社に行ってお祖父ちゃんを見つけても、説得して連れ帰るなんてできない。」

「分かった三琴。行こう。」


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