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第46話 積み重ねる力

 リーヴェルの東門が見え始めた頃、空はすっかり夕暮れの色に染まっていた。


 街道の向こうには、帰路につく商人の荷車が何台か並び、町の外壁に沿って長い影を落としている。風には昼間の熱がわずかに残っていたものの、岩山から離れるにつれて空気は涼しくなり、草原を渡る風が汗ばんだ頬を心地よく撫でていった。


「……やっと帰ってきたぁ」


 トーマが両腕を持ち上げ、大きく背伸びをした。


 腰の短剣が揺れ、革製の胴着が小さく軋む。


「おい、まだ町の中に入っておらんぞ」


 バルドが笑いながら注意すると、トーマは振り返って舌を出した。


「わかってるって。でも、今日は本当に疲れたんだよ」


「まあ、それは同感だな」


 ドランも頷いた。


 彼の背中には採掘道具と黄鉄鉱の試料が入った革袋があり、長い道のりを歩いてきたせいか、いつもより肩が少し下がっている。


 バルドの荷物には、旧採石道で討伐した森狼の死体が包まれていた。


 血が漏れないよう布を重ね、革紐でしっかりと固定してある。持ち帰る途中で何度か包み直したものの、時間が経てば品質が落ちる可能性もあるため、四人は寄り道をせずに戻ってきた。


「ギルドに着いたら、最初に素材を見てもらいましょう」


 ユウキが言うと、ドランは頷いた。


「ああ。それから依頼の報告だ。調査内容も忘れないうちに整理しておきたい」


 ユウキは腰のショートソードへ視線を落とした。


 昨日購入したばかりの剣には、森狼との戦闘でついた細かな汚れが残っている。


 新しい装備で臨んだ、初めての本格的な調査依頼。


 森狼との戦闘。


 四匹の石喰いモグラとの遭遇。


 そして、魔物たちの生態を利用した撤退。


 一日を振り返るだけでも、さまざまな出来事が頭に浮かんでくる。


 何より、全員が無事に帰ってこられた。


 その事実が、今は何より嬉しかった。


「……ユウキ?」


 隣を歩くトーマが顔を覗き込んできた。


「何か考えてた?」


「うん。今日はいろいろあったなって」


「本当だよね。でもさ、俺たち、前より少しは冒険者らしくなったと思わない?」


 トーマはそう言って笑った。


 その笑顔を見て、ユウキも自然と頬を緩める。


「……うん。少しずつだけどね」


 四人は夕暮れの街道を進み、リーヴェルの東門をくぐった。


 ◇◆◇


 冒険者ギルドの扉を開くと、いつもの賑わいが出迎えてくれた。


 夕方ということもあり、依頼を終えた冒険者たちが次々と戻ってきている。受付の前には数人の列ができ、奥のテーブルでは防具を外した冒険者たちが、今日の出来事を話し合っていた。


 ユウキ達が建物へ入ると、受付にいたセシリアが顔を上げた。


「あら、ネクシアの皆さん。お帰りなさい」


 柔らかな笑顔に迎えられ、ユウキはほっと息を吐いた。


「ただいま戻りました」


「皆さん、お怪我はありませんか?」


「はい。全員無事です」


 ユウキが答えると、セシリアは安心したように微笑んだ。


「それは何よりです。今日は旧採石道の調査依頼でしたね」


 ドランが依頼書を取り出し、受付へ差し出す。


「調査と採取はひととおり終えた。報告したいことがいくつかある」


「承知しました。それでは、まず報告内容を確認させてください」


 セシリアは受付台の上に記録用紙を広げた。


 ユウキ達は、旧採石道で確認した魔物について順番に説明していく。


 最初に遭遇した森狼。


 ランク1の個体で、レベルは3。


 食事中だったところを発見し、警戒しながら退こうとしたものの、向こうから襲いかかってきたため討伐したこと。


 そのあと、旧採石場付近で石喰いモグラを四匹確認したこと。


 四匹には体格や行動に違いがあり、最も大きな個体は岩盤へ何度も突進してきたこと。


 地中への潜行と奇襲が可能で、地面の振動に敏感だったこと。


 そして、黄鉄鉱のある場所へ集まる習性が見られたこと。


 セシリアは途中で何度か質問を挟みながら、丁寧に内容を書き留めていった。


「……石喰いモグラが四匹、ですか」


「はい。少なくとも、俺たちが見た範囲では四匹いました」


 ユウキが答えると、セシリアは少しだけ表情を引き締めた。


「最近、旧採石道で地面が不自然に崩れていたという報告がありました。もしかすると、その魔物たちが関係しているかもしれませんね」


 バルドが頷いた。


「十分に考えられます。あの魔物は浅い地面を掘り進むのが得意なようでした」


「ありがとうございます。こちらは調査担当へ共有します」


 セシリアは記録用紙へ追加の書き込みをすると、今度は鉱石試料の提出を求めた。


 ドランが革袋を開き、布に包んだ黄鉄鉱を取り出す。


「指定された試料は三つだ。品質は中程度のものを揃えたつもりだが、確認してもらえるだろうか」


「もちろんです」


 セシリアは試料を確認すると、専門の担当者を呼んだ。


 しばらくして現れたのは、鉱石の鑑別を担当している職員だった。


 職員は黄鉄鉱を一つずつ手に取り、色合いや割れ目、結晶の状態を確認していく。


 最後の試料を置いたところで、満足そうに頷いた。


「……うん。三つとも問題ないね。依頼の条件を満たしているよ」


 その言葉を聞いた瞬間、トーマの顔がぱっと明るくなった。


「やった!」


 ユウキも思わず笑みを浮かべた。


 魔物との戦闘を避けるため、採取場所を変えた判断。


 バルドの経験。


 ドランの丁寧な作業。


 そして、四人の連携。


 それらが、きちんと成果へ繋がったのだ。


「……では、依頼達成ですね」


 セシリアが微笑んだ。


「お疲れさまでした。基本報酬は銀貨三枚です」


 彼女は銀貨を数え、受付台の上へ並べた。


 チャリン。


 小さな金属音が響く。


 ユウキはその三枚を見つめた。


 自分たちが調査を行い、情報を集め、試料を持ち帰ったことで得られた報酬。


 金額以上の重みを感じる。


「さらに、魔物の行動に関する情報も有用ですので、追加報酬の対象になるか確認を進めます。ただし、こちらは担当者の審査が必要になります」


「わかりました」


 ユウキが答えると、セシリアは書類を整えた。


「正式に決まりましたら、お知らせしますね」


 今すぐ受け取れるのは、基本報酬の銀貨三枚。


 追加報酬は、まだ確定していない。


 ドランはその点を確認し、持参した小さな帳面に記録した。


 装備を購入したあと、四人の共有資金は銀貨十二枚だった。


 今回の依頼報酬が加わり、銀貨十五枚。


 ただし、このあと宿代や食費も必要になる。


 決して、余裕があるわけではなかった。


 ◇◆◇


「そういえば、魔物の素材も持ち帰ったんですよね?」


 セシリアが尋ねると、バルドが背中の荷物を下ろした。


「ああ。森狼を一匹だ」


「でしたら、素材買取窓口へお願いします。グレンさんがいらっしゃるはずです」


 ユウキ達は受付を離れ、ギルドの奥へ向かった。


 そこには以前、素材の扱いについて説明してくれたグレンがいた。


 短い茶髪に、使い込まれた革の前掛け。


 四十代ほどの男は、机の上に並べられた素材を確認していたが、ユウキ達の姿を見ると片手を上げた。


「おう。お前ら、戻ってきたのか」


「はい。今日は素材を見てもらいたくて」


 ユウキが答えると、グレンはバルドの荷物へ目を向けた。


「……なるほど。何か仕留めたな」


 バルドは布を広げ、森狼の死体を作業台へ置いた。


 グレンはすぐに手袋をつけ、身体の状態を確認し始める。


「森狼か。ランク1の魔物だな」


 彼は毛皮を指先で持ち上げ、傷の位置を確かめた。


「……肩と胴に切り傷があるな。それに後脚の骨も傷んでいる」


 ユウキは少しだけ申し訳なさを覚えた。


「戦闘でついた傷です」


「そりゃそうだろう。倒すために戦ってるんだからな」


 グレンは笑った。


「ただ、素材として売るなら、傷の位置や深さで値段が変わる。そこは覚えておくといい」


 彼はさらに毛皮を調べ、牙や爪の状態を確認する。


「牙と爪は使えそうだ。毛皮は傷があるから高値にはならんな。それに、持ち帰るまでに少し時間が経っている」


 グレンは手元の帳面を開いた。


「この状態なら、まとめて銀貨一枚と銅貨四枚だ」


 ユウキは目を丸くした。


「……銀貨一枚も?」


「おう。牙や爪が無事だからな。ただ、毎回この値段になるとは思うなよ。傷が多かったり、状態が悪かったりすれば下がる」


 ドランが頷く。


「よくわかった。解体の知識も必要だな」


「ああ。でも、最初から全部覚えようとしなくていい。まずは危険な場所で無理に解体しないことだ」


 グレンはそう言ってから、ユウキ達の顔を順番に見た。


「それより、今日は討伐依頼だったのか?」


「いえ。魔物の生息調査です」


 ユウキが答える。


 グレンは少し驚いたように眉を上げた。


「調査中に森狼と遭遇したのか。なら、無事に帰ってきただけでもよかったな」


 トーマが苦笑する。


「実は、ほかにも魔物がいたんです」


「ほう?」


「石喰いモグラが四匹もいて……」


 トーマは身振りを交えながら、岩盤の上へ避難したことや、黄鉄鉱を使って注意を逸らしたことを話し始めた。


 グレンは途中で口を挟まず、最後まで聞いていた。


 そして、話が終わると短く頷く。


「……いい判断だったな」


「本当ですか?」


 トーマが尋ねる。


「ああ。四匹相手に無理して戦う必要はない。しかも採取依頼なら、目的を達成して帰る方がずっと大事だ」


 その言葉に、ユウキは少し安心した。


 自分たちの判断は、間違っていなかったのだ。


 グレンは森狼の素材を奥へ運ぶよう職員へ指示すると、代金を差し出した。


 銀貨一枚と銅貨四枚。


 ドランはそれを受け取り、共有資金へ加えた。


「……ありがとう」


「また何か持ってきたら見てやるよ。ただし、命より高い素材なんてそうそうない。そこだけは忘れるな」


 ユウキは深く頷いた。


「はい。ありがとうございました」


 ◇◆◇


 ギルドを出た頃には、空が濃い橙色へ変わっていた。


 町の通りには夕食の支度をする匂いが漂い、宿屋や食堂の前では客を呼び込む声が聞こえてくる。


 四人は宿へ戻る途中、広場の近くで足を止めた。


 トーマが大きく伸びをする。


「……今日はもう、ご飯食べて寝たいな」


「気持ちはわかるが、装備の手入れくらいはしておこう」


 ドランが答えた。


「森狼との戦闘で剣にも汚れがついたし、バルドの盾も傷んでいる」


「ええ……」


 トーマは少し肩を落とした。


 その反応に、ユウキは思わず笑ってしまう。


「俺も手伝うよ」


「本当? じゃあ、お願い!」


 バルドは二人のやり取りを見ながら、穏やかに微笑んだ。


 そして、ふと思い出したように口を開く。


「……そうだ。明日は、少し時間を取って鍛錬をしてみないか?」


 その言葉に、ユウキが顔を上げた。


「鍛錬、ですか?」


「ああ。今日の戦いで、いろいろ課題が見えただろう」


 バルドは左腕の盾へ視線を落とした。


「わしも、盾の構え方をもっと練習する必要がある。武技を使うだけじゃなく、普通の防御も上達させたい」


 トーマが頷く。


「俺も! 足場をちゃんと確認しながら動く練習がしたい」


「わしは鎚の扱いと、道具の手入れだな」


 ドランも続けた。


 ユウキは三人の顔を見渡した。


 自分にも、鍛えたいことがある。


 剣術。


 身体強化。


 感知技能。


 そして、治癒魔法。


 略奪によって手に入れた技能も、ただ持っているだけでは使いこなせない。


 それに、もう一つ気になっていることがあった。


「……俺、MPも鍛えてみたいです」


 ユウキが言うと、トーマが首を傾げた。


「MPって、鍛えられるの?」


「うん。繰り返し使うことで、最大MPが増えることもあるらしいんだ」


 ユウキが答えると、ドランが興味深そうに頷いた。


「……なるほど。魔力容量も訓練によって成長するというわけか」


 バルドは少し考えた。


「なら、武技の訓練と合わせてできそうだな」


「はい。ただ、無理に限界を超えて使うのは危険みたいなので、まずは普通にMPを使い切るところから試したいです」


 ユウキは慎重に答えた。


 MPを0まで消費すること自体は、特別な精神的疲労を引き起こさない。


 しかし、残りMPを超える魔法や武技を無理に発動しようとすれば、頭痛などの負担が生じる可能性がある。


 最初から危険な方法を試す必要はない。


「……それなら、明日は訓練の日だな!」


 トーマが嬉しそうに言った。


 ユウキも頷いた。


「うん。みんなで強くなろう」


 ◇◆◇


 翌朝。


 リーヴェルの空には薄い雲が広がっていた。


 町の外れにある練習場では、数人の冒険者が木剣や盾を使い、互いに訓練を行っている。


 ユウキ達は邪魔にならない場所を選び、四人で向かい合った。


 地面は踏み固められており、旧採石道のように小石が散らばっているわけではない。


 それでも、場所によっては浅い窪みがあり、足を置く位置を意識する必要があった。


「……まずは、昨日の動きを思い出してみよう」


 バルドが言った。


 トーマは短剣を抜き、軽く身体を動かす。


「俺からやっていい?」


「ああ。ただし、最初はゆっくりな」


 トーマは頷き、地面に置いた小さな木片を目印にして動き始めた。


 前へ出る。


 右へ回る。


 短剣を突き出す。


 そして、後退する。


 最初の数回は問題なかった。


 しかし、動きを速くした途端、後退する足が目印の木片へ近づきすぎた。


「……あっ」


 トーマは慌てて足を止めた。


 バルドが頷く。


「今のだ。敵を見ることに集中すると、足元が疎かになる」


「……うん」


 トーマは一度深呼吸し、再び構えた。


 今度は前へ出る前に、後退する位置を確かめる。


 そして、ゆっくりと短剣を突き出した。


 右足を引き、身体を横へ向ける。


 先ほどより、動きが安定していた。


「……よし」


 トーマは小さく呟いた。


 その様子を見て、ユウキも剣を構えた。


 今日の自分の課題は、間合い。


 森狼との戦闘では、敵の動きについていけず、最初の攻撃を仕掛けることさえできなかった。


 ガルドから教わった基本を思い出し、剣をゆっくりと振る。


 踏み込む距離。


 刃の届く位置。


 攻撃したあと、剣を引き戻す動作。


 何度も繰り返しているうちに、肩へ余計な力が入っていることに気づいた。


 ユウキは一度剣を下ろし、握り方を調整した。


「……もう少し、力を抜いた方がいいかな」


 独り言のように呟き、再び構える。


 次の一撃は、先ほどよりも滑らかだった。


 けれど、まだ満足できない。


 剣術Lv.1。


 技能としては、まだ初歩の段階。


 しかし、だからこそ、今できることを積み重ねる必要がある。


 ユウキは足の位置を確認し、もう一度剣を振った。


 ◇◆◇


 しばらくして、四人は武技の訓練を始めた。


 最初はバルド。


 盾を構え、身体の重心を低くする。


「……堅守!」


 魔力が身体へ巡り、盾を支える腕と姿勢が安定する。


 消費MPは二。


 バルドはそのまま数秒間構えを維持し、ゆっくりと息を吐いた。


「……なるほど」


 彼は一度盾を下ろし、足の位置を確かめた。


「武技を使っても、基本の姿勢が崩れていれば意味がないな」


 ドランが頷いた。


「魔力が補助してくれるからといって、身体の使い方まで任せられるわけじゃない」


 続いて、トーマが短剣を構える。


「……双牙突き!」


 二本の短剣を連続して突き出す。


 魔力が腕の動きを補助し、通常よりも速い突きが繰り出された。


 しかし、二撃目のあとに上半身が前へ傾き、姿勢がわずかに崩れる。


「……うわっ」


 トーマは慌てて足を引いた。


 バルドが声をかける。


「最後の一撃まで出したあと、どう戻るかも考えるんだ」


「……わかった!」


 トーマは頷き、再び動きを確認した。


 ドランは片手鎚を構えた。


「……重打!」


 魔力が腕へ巡り、鎚を振り下ろす動作が補助される。


 ドランは地面に置かれた練習用の木材へ狙いを定め、正確に打撃を加えた。


 ゴッ!


 鈍い音が響く。


 木材がわずかに動いた。


「……悪くないな」


 ドランは鎚を引き戻し、打撃の角度を確認した。


「ただ、実戦では動く相手を狙わないといけない。今のままじゃ、まだ足りん」


 最後に、ユウキが剣を構えた。


 目の前には、練習用に置かれた木の標的がある。


 ユウキは深く息を吸い、魔力を身体へ巡らせた。


「……二段斬り!」


 剣が斜めに振り下ろされる。


 一撃目が木の表面を捉え、続く二撃目が反対方向から打ち込まれた。


 コンッ!


 木材が小さく揺れる。


 ユウキは剣を引き戻し、呼吸を整えた。


 消費MPは二。


 現在の最大MPは九。


 満タンの状態からなら、二段斬りを四回使用できる。


 しかし、最後にはMPが一残る。


 ユウキはその点を考えながら、身体強化や治癒魔法の使用も組み合わせることにした。


 ただし、治癒魔法を使うためだけに誰かを傷つけるわけにはいかない。


 今日は剣術と身体強化を中心に訓練し、必要に応じて消費するMPを調整することにした。


 ユウキはもう一度剣を構えた。


 魔力が身体を巡る感覚。


 剣を振り下ろすときの重さ。


 足を踏み込むタイミング。


 それらを意識しながら、繰り返し武技を使用していく。


 やがて、MPは残り一となった。


 ユウキは剣を下ろし、少しだけ考えた。


 今の残りMPでは、二段斬りをもう一度使うことはできない。


 無理に発動しようとすれば、限界を超えた魔力使用になる。


 しかし、今日はそこまで試すつもりはなかった。


「……今日は、ここまでにしておこう」


 ユウキは静かに呟いた。


 MPを使い切ることも大切だが、無理に限界を超える必要はない。


 日々の鍛錬は、一度で成果を出すものではない。


 積み重ねてこそ、意味がある。


 そう考えながら、ユウキは剣を鞘へ収めた。


 ◇◆◇


 訓練を終えた頃には、太陽が高く昇っていた。


 四人は練習場の端へ移動し、水を飲みながら休憩していた。


 トーマは地面へ座り込み、足を伸ばしている。


「……やっぱり、訓練って疲れるね」


 ドランが笑った。


「戦闘より安全なだけで、楽なわけじゃないからな」


 バルドは盾を外し、傷んだ箇所を確認していた。


「それに、今日一日で急に強くなるわけでもない」


 その言葉に、ユウキは頷いた。


「……でも、少しずつなら変われると思います」


 ユウキは剣の柄を見つめた。


 灰の鉱山にいた頃、自分は何も知らなかった。


 武器の扱い方も。


 魔物との戦い方も。


 仲間と連携する方法も。


 けれど、今は少しずつ学んでいる。


 略奪によって得た力もある。


 しかし、それだけではない。


 自分自身が経験し、考え、努力することで身につけていくものもある。


 それらを積み重ねることが、本当の意味で強くなるということなのかもしれない。


「……よし!」


 トーマが突然立ち上がった。


 三人が顔を向ける。


「俺、明日も練習したい!」


 その言葉に、ユウキは思わず笑ってしまった。


「さっきまで疲れたって言ってたのに?」


「それとこれとは別!」


 トーマは胸を張った。


「俺、もっと強くなりたいんだ。次に魔物と戦うときは、足元で失敗しないようにしたいし」


 ドランも静かに頷いた。


「わしも、今日の訓練でいくつか課題が見えた。武技だけじゃなく、道具の扱いも見直したい」


 バルドは盾を持ち上げ、穏やかに笑った。


「なら、しばらくは依頼と鍛錬を両立させよう」


 ユウキは三人の顔を順番に見渡した。


 それぞれ、年齢も経験も違う。


 選んだジョブも違う。


 けれど、強くなりたいという気持ちは同じだった。


「……はい」


 ユウキは静かに頷いた。


「俺も、もっと頑張ります」


 そのとき、ふと胸の奥に小さな疑問が浮かんだ。


 略奪によって得た技能は、自分の力と言えるのだろうか。


 他者から奪ったものを使っているだけではないのか。


 そんな思いが、時折心の中をよぎる。


 しかし、今日の訓練で気づいたことがあった。


 どんな力であっても、使いこなすには経験が必要だ。


 誰かから奪った技能であっても、それをどう使い、何のために役立てるのかは自分自身が決めることになる。


 ユウキは手を握り締めた。


 力を手に入れること。


 その力を使いこなすこと。


 そして、力を使う理由を見失わないこと。


 そのすべてが大切なのだろう。


 遠くでは、練習場に響く木剣の音が続いていた。


 剣を振る者。


 盾を構える者。


 魔法の詠唱を練習する者。


 さまざまな冒険者が、それぞれの方法で力を磨いている。


 ユウキはその光景を見つめながら、小さく息を吐いた。


 自分たちも、ここから成長していく。


 誰かに与えられた運命だけではなく、自分たちの意思で未来を選ぶために。


 そして、いつか。


 本当に守りたいものを守れるようになるために。


 ユウキ達の冒険は、今日も少しずつ前へ進んでいた。


――第46話 完。

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