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嫌悪と愛着の狭間 土屋千(つちや せん)

嫌いだと思っているものに、なぜか目が離せなくなることがあります。

 俺は桜が嫌いだ。

 心の中でつぶやきながら、上を見上げる。

 桜の花びらが舞い散る中、俺は区内清掃に参加して草むしりに明け暮れていた。

 はあ、とため息をつく。

 周りには誰もいない。

 若いからだの、力がありそうだからだのと如何にもまっとうな理由で押し付けられ1人、広場の草むしりをしている。

 まあ、世代の違う老人たちの話に気遣うよりはマシか、と思いながら一つ、また一つと、俺は土に根を張って今日まで生きていたものを刈る。

 特にそこに罪悪感はなかった。

 桜の花びらだって、今はこんなにキラキラと風で舞っているが、結末はチリトリの中に入れられて色が変色するだけ。

 なのに、人は桜がきれいだという。

 こんな刹那的なものを? と俺は心の中で嘲笑っていた。

 刈った草を両手で持つ。

 砂ぼこりが舞ってゴホッ!ゴホッ!と咳が出るが、気にせずに一輪車に入れて指定の場所へ運ぶ。

 そんなことを往復でやりながら、休憩時間になって、区長さんに呼ばれた。

 公民館にはいると緑茶のよい匂いがする。

 子どもたちも参加していたようで、ワイワイと騒ぐ声が聞こえた。


「あら、千くんじゃない! やぁだぁ、こんなに大きくなって!」

「ご無沙汰してます」


 昔よく遊んでもらっていたお婆さんに声をかけられ肩を叩かれた。俺は行儀よいふりをして、お婆さんに案内されながら靴を脱いだ。

 すると、ふと、玄関の隅に溜まったゴミのなかにひらり、と桜の花びらが入っていた。

 ひとひらの花びらに俺は何故か、目が離せなかった。

 風がひゅううう、と吹いて、ゴミが舞う。

 ゴミを片付けなければ、と思い近くにあったホウキとチリトリで花びらとゴミを掃く。

 ロール状に巻かれた花びらは綺麗さを失い、埃まみれになっていた。

 チクリ、と心が痛んだ。

 お前は、ここにいるべきじゃない。

 なぜかそんなことを思った俺は、コンクリートの玄関に膝をついて花びらをゆっくり丁寧にもとに戻す。

 ホコリを払い繊細に扱うと、柔らかな花びらの感触が人さし指に感じられた。

 風がもう一度吹いたので、投げるように花びらを風に乗せると空高く舞い上がっていた。

 ああ、何をしてるんだか……。

 俺は桜が嫌いだが、あいつのことはなぜか、好きなのかもしれなかった。


「千くん! お茶淹れたわよー!」


 お婆さんに声をかけられて、俺は公民館に入っていく。また会うときは、あいつはきっと色を変えているだろう。

嫌いだと思っていたものほど、心に残ることがあります。

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