諦めと可能性の狭間 財前樹(ざいぜん いつき)
諦めているつもりでも、どこかで可能性を捨てきれない。 そんな時間の話です。
遊園地には桜がよく映える。
とはいっても、日本人が惹かれがちな桜はアトラクションの多いこの場所では引き立て役に過ぎない。
歩くたびに地面に落ちた花びらがふわりと舞う。
これもいつかしなびて、ちりとりの中へと入っていくのだろう。
「よっ、また来ちゃった」
俺は誰も乗っていない観覧車で暇そうにしていた職員のおばちゃんに声をかけた。
彼女はフッ、と口角を上げて手を差し出した。
「切符」という合図。俺は入り口で購入した乗り物券をその手に乗せた。
「物好きだねぇ、いい年の男がこんなオンボロ観覧車に毎週乗りに来るなんて」
「乗ってみなよ、意外と気持ちいいもんだぜ?」
「やなこった、あたしゃ高所恐怖症なんだよ」
おばちゃんが入り口を開ける。ちょうどよいタイミングで彼女が一つの観覧車のドアを開けるので、俺はそのなかにすぐに入った。
徐々に登っていくこの時間が俺は好きだった。このゆったり感、だけどほんの少しだけ非日常を感じられる。
彼女の言う通り、俺は物好きなのだろう。
職場の飲み会に今週参加したのだ。
珍しく来た俺に、暇な奴らは質問の嵐だった。
苦手な同期たちにはマウントを取られ、皆が酔っ払い、すぐに家の話や女の話が続く。
うちの嫁さんはどうのだの、彼女がどうのだの、それに俺は全く聞きもせず枝豆に集中していた。
それが面白くなかったのか、彼女のいない俺を「変わっている」と言い出す奴らが多かった。
特段、欲することもなかった。
30を超えて口づけすらしたことないというのも、自分のアイデンティティにさほど打撃はないと。
ただ、あのとき、明確に溝を感じた。
あの夜、観覧車が動いていたなら俺はすぐにでも乗りたかっただろう。
頂上付近に来ると、一層遊園地が小さいことを実感させられる。地方遊園地なんてこんなものだ。
近くで見ればほんのり桃色の桜も、白い集合体にしか見えない。
ふと下を見ると、俺の他に小学生っぽい男女2人が乗っていた。透明な観覧車のなかで口づけを交わしていた。
「お熱いねぇ」
俺は負け惜しみのように吐き出した。
あんな世代の子からも俺は溝を引かれるのか。
もしもう一度あれくらいの年にまで戻れるのなら。
……なんてな。
諦めたはずのものほど、ふとした瞬間に思い出すことがあります。




