不協和音 2
「真唯佳様、ちょっとお願いしたいことがあるのですが」
テストも無事に全て返却された。
自分としてはそこそこの結果で乗り切ったと思い、リビングでくつろいでいた日曜の夕方。
叉夜に声をかけられ、アイロンが当てられた真唯佳と彬の制服が渡される。
ついでに彬の部屋に持っていって欲しいと頼まれて、彼女は何気なく依頼を了承した。
2階に上がり、自分の分を自室にしまい、彬の分を隣の部屋に届けようと扉をノックした。
——返事がない。
あれ、どこにいったのだろう。家の中にはいるはずだけど。
そう思いながら、そーっと扉を開けて中を覗いてみる。
部屋にはいなさそうだ。
仕方ないな……たまにはしまってあげるか。
そう思い、部屋の奥のクローゼットにカッターシャツをかけ、彼女はすぐに部屋を出ようとしたところ。
——なんだろ、これ。
彬の机は基本的に本が山積みで、P Cモニターも3面、ドンっと置いてある。
それは以前から知っていたが——。
本ではない、大きめのカタログのようなものが脇机に十冊ほど積まれていた。
彼女はなぜか気になってしまい、表紙をめくってみると、女性の大きな写真が何枚も挟まっている。
お見合い写真だ。
気になって、その下の冊子も真唯佳は手に取ってみる。
「——何をしてるんだ?」
突然の声に、ビクッと彼女の体全体が激しく揺れる。
いつの間にか、彬が腕組みをして、入り口に寄りかかっていた。
「あ、ごめん。洗濯物を届けにきたんだけど、目に入っちゃって、つい……」
真唯佳は慌てて冊子を閉じ、言い訳するように言う。
「だからって、勝手に人のものを見ていいわけないだろう。出しっぱなしにしていた僕も悪いけど、それが国家機密だったらどうするんだ」
呆れたようにため息をつきながら、彼女を責める彬。
静かな口調だが、はっきりと非難がこもっている。
「だから、ごめんって……。そんな、書類やデータには勝手に手を出さないよ。ただ、以前叉夜から彬はお見合いしてるかもって聞いたから、気になって……」
その言い繕う態度がさらに彼の神経を逆撫でした上に、見られたくないものに触れられてしまい、苛立ちを隠そうとしない彬。
「君には関係ないだろう」
そう捨て台詞を吐く。
「まぁ、そうなんだけど」
真唯佳がむっとしたように肩をすくめる。
そんなの不貞腐れた態度にまた苛ついて、彼はさらに言葉を足してしまう。
「そういえば最近、各務とやりとりしてるんだって?念のため聞くけど、僕たちの秘密を話したりしていないだろうね」
以前、彬から「用心しろ」と忠告を受けていた相手に話が飛ぶ。
「なっ、何よ唐突に……!そんな話をするわけないし。っていうか、それこそ、私が誰とどんな話をしようと勝手でしょ、彬には関係ないじゃない!」
図星を突かれたわけでもないのに、なぜか触れられたくないところを突かれた気がして、真唯佳は思わず声を荒げる。
そして、ドスドスと足音を立てながら、そのまま部屋を出ていった。
売り言葉に買い言葉、最悪である。
彬はベッドにどかっと腰をかけ、頭を抱え込み、ふぅーっとため息をしたのだった。
――――――――――
「なんなのよ、あいつ。兄貴ずらしてさ」
次の日のランチタイム。
彬の部屋でお見合い写真を見てしまったことや、勝手に私物を触って怒られるどころか、蒼とやりとりをしていた事を指摘してきた事を鈴乃に話すが、真唯佳はまだ腹の虫が治らない。
「まぁまぁ、それだけ大事にされてるってことではないですか、姫様」
そう言って宥める鈴乃。
「で、彬くんのお見合い相手はどんな人かわかったの?」
鈴乃の興味は、むしろこちらである。
「やー、それがさ。二冊ほどしか見れなかったし、一瞬だったからわかんないけど、どちらもゴージャスでいかにも貴族!って感じだったことしか」
そう、真唯佳は前置きをしつつ
「でも正直、どっちもピンとこないなー。あんなのが趣味なのかぁ、ちょっと幻滅」と感想をこぼす。
すごい言われようである。
「よー、お二人さん」
そう言って、二人に陽気に声をかけてきたのは蒼である。
一緒して良いかも聞かずに、彼はちゃっかり空いた席に座っている。
「ねー、蒼くん。ほっといてって感じよね!」
「???」
真唯佳を見つけて無邪気に同席して、いきなり彼女にすごい剣幕で脈絡のない同意を求められ、返答に困る蒼。
「そういえば、初のテスト結果はどうだった?」
咄嗟に話題を変えて、助け舟を出す鈴乃。
それだけではない。
さっきまで槍玉に上がっていた本人にも愚痴を言うだけにとどまらず、彬が異国の貴族で、しかもお見合い中なんて個人情報をバラしたら、再び彬からお説教を食うのは、鈴乃の目に見えていた。
「ふふふ、さすが天才。ばっちりの80点越え連発ですよ。パーフェクトとは言えないまでも、まずまずの結果ではないでしょうか。」
鈴乃のそんな気も知らず、違う話題に変わったので、誇らしげに言いながらピースをする蒼。
「赤点だったら居残りで追試だけど、その心配はなさそうね。これで心おきなく球技大会の練習に参加できるね」
あれこれアドバイスをした甲斐あって、蒼の点数は思ったより悪くなかった。すっかり機嫌をよくした真唯佳は、さっそく次の学校行事の話題を持ち出す。
「球技大会、ですか?」
きょとんとした顔で聞き返す蒼。
すでにクラスのあちこちではその話題で盛り上がり始めているが、転校してきたばかりの彼はまだ把握していなかったらしい。
「そう、クラス対抗。結構盛り上がるし、見てても面白いよ。種目はサッカー、バレー、バスケ。男子はサッカーに出るとモテるってよく言われてるけど……蒼君、背が高いから、バレー得意ならそっち選んでもいいかも」
「女子もサッカーをするんですか?」
真唯佳の説明に「へぇ」と相槌を打ちながら、蒼が首をかしげる。
「女子はソフトボールとバレー、バスケ」
「真唯佳ちゃんは、もう競技決めたんですか?」
「まだだけど……たぶんソフトかな。うちの部活、外で活動してるでしょ?わざわざ体育館に練習しに行かなくていいし」
「バレーは室内なんですか?」
「女子が体育館を使うから、男子は屋外コートになると思うよ」
真唯佳が丁寧に教えると、蒼は「なるほど、なるほど……」と何度もうなずきながら、細かいことを確認していくのだった。




