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死んでもいいからキスがしたい  作者: Anzsake
キョウチクトウ
36/50

4.5

駅を出て左に向かい、花屋を通り過ぎて2つ目の交差点の角の何の看板も下がっていない二階建ての建物。よし姉が石を届けに来たのはここだ。ガラス製の扉は少し重いが普通に開いた。

愛理ちゃんを連れてくるか悩んだけれど、まずは一人で来てみようと考えた。こんな変な話は確信を持てるまで話したくない。扉を開けるとすぐに階段がある。少し急で狭い階段を登ると木製の扉がある。扉に着いたガラスの向こうに見覚えのある人を見かけて扉を開けた。

「いらっしゃい。待っていたわ」

応接間のようなところで、女性は座ってお茶を飲んでいる。反対の席には既に来客用のお茶まで出してある。

事前に連絡を入れた訳では無い。ここも、記憶を頼りになんとなく来ただけだ。「座って」と促され反対に座る。

「また会えて嬉しいです。颯稀といいます。」

女性はあの時と同じく脇に白い杖を置いている。どうやら視覚障害者用の杖らしい。ハイライトの薄い黒目は真っ直ぐこちらを見ている。

「私は足立、芳亜の弟くんよね」

何だか頭の中を覗かれてるみたいで変な気分だ。だけど話が早く進むならそれで良い。

「相談があります。力を持った人はどう見分ければいいですか?」

足立さんはお茶をテーブルに置いて答える。

「今は無いわ」

「今は?」

「芳亜の力は知ってる?」

「石の力の内容を知る力ですか?」

足立さんが微笑んで頷く。

「あれみたいな力を持った人が出てこれば、分かるんですけれど」

何だかゆったりとしていて不思議な人だ。本当にあのよし姉と上手くやっているのか心配になる。

「力を使うと死ぬ。みたいな代償ってあるんですか?」

「無いとは言えないわ、代償はその力に関係した物になる事が多いから。過去に1度だけ見た事はあるけれど、稀だと思うわ」

随分とふわっとした事しか分からないらしい。

「石について調べてはいるけれど、実際分からない事ばかりよ」

そう愚痴のように言いながら足立さんはお茶を飲む。


「・力を授かった人は頭でその力の内容が分かる。

・力には相応の代償を生きてるうちに払う。

・死んだ場合はその力を持った石が体のどこからか出てくる。

・石は所有している人間が力の内容を把握していれば自由に力を使える。」


そう淡々と話した。付け加えるように指をひとつ上げて言う。

「生きているうちに、代償を支払い切る場合もあるわ。もっとも、死んで支払いを終える人が殆どだけれど」

「支払い切った時は、どうなるんですか?」

「もちろん、代償なしで力を使える」

雨が降ってきた、この建物の中でも音がわかる。窓を見ていると足立さんが微笑む。

「すぐ止むわ、気にしなくて大丈夫よ」

ふと気になった。聞いていいのか迷ったが、知りたいので聞いてみる。

「足立さんは、どんな力を?」

童顔で丸い目を細めて口を抑えて笑う。その仕草や

話し方が見た目とそぐわず、なんだかモヤモヤする。

「あまり無闇に人に話すものではないけれど、芳亜の弟だし大丈夫かな?」

カップに残ったお茶を飲みきって足立さんがこちらを見る。そういえば、視覚障害者の杖があるけれど随分慣れた手付きでお茶を飲むものだ。

「私の力は未来視。代償は視覚ね」

そう言って自分の目を指さす。慣れたものなのだろう。そこに不安や不満の表情は無い。

「一切見えていないのですか?」

「うーん、ある程度の光は分かるわ。でも実際、目の前のカップを目で見たことは無い」

「ではどうやって?」

「ほんの少しだけ先の未来を見ればいいの。私の未来視は私が見た未来しか見えない。遠い未来なら曖昧だけれど、1秒先ならほぼ確実よ」

それでも一秒のラグはあるけど、と笑いながら言う。視界が一秒先を移す目で身体を動かすというのはどういう感覚なのだろう。普通に動かす為にどれだけ頑張ったのだろう。


雨も上がったところで立ち上がってお辞儀をする。足立さんも立って手を振る。愛理ちゃんよりももう一回り小柄な足立さんは、確かに「女の子」の見た目をしている。見た目だけではとても歳が近いとは思えない。

「…最後にひとつ。力を授かる条件は、恐らくは力を持った人のことを強く願う事。あなたが力を欲していないのならば気をつけなさい」

「…分かりました。ありがとうございます」

そう言って木製の扉を開ける。夏の雨上がりはジメッとしていてあまり良い肌心地では無い。頭の中で整理するが、やはり愛理ちゃんの事は愛理ちゃんに聞くしか無いのだろうか。

そこでふと、どうしてこんなにも固執しているのか疑問になる。別に僕は彼女に力を使って欲しい訳では無い。彼女がいま何が出来て、何をもって幸せに生きられるのかが分かればそれで良いのでは無いだろうか。

この体験はいつか彼女が何かを思い出した時に、横で支えてあげられる時に使うことにしよう。

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