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死んでもいいからキスがしたい  作者: Anzsake
キョウチクトウ
35/50

4.4

帰りのバスで横に紀章先輩が座る。何だか気まずくて目線を合わせないでいると、目の前にお菓子の袋を見せてきた。

「食うか?」

ゆっくりと手を伸ばしてお菓子をいただく。

「あ、ありがとうございます」

しばらく沈黙が続くが、紀章先輩が声をかけてくる。

「なぁ、あれから考えてたんだけどよ」

真剣な顔では無く、何か期待のようなワクワクした表情をする。

「キスしたら死んじゃうとして、力はキスと関係あると思うか?」

言われてみればそうだ。キスと関係あるならそれではまるで一切力を使わせる気がないという事だ。

「…人生で一度きりの大技的なのも有り得ますよね」

杖を着いたあの人は「力は人を傷つけるよりも人を幸せにする方が力を使う」とも言っていた。もしも彼女の力が「キスした相手を幸せにする」とかならどうだろう。

「それだと、死ぬ前提にならないか?それは流石にないだろ」

そう一蹴される。また考え込む。

「何にしろ、力と代償の両方が分かる人間が居ないと話は進まないか」

そう紀章先輩が結論づけた。僕も賛同する。



学校に着いた時には昼過ぎだった。荷物をおろしてバスを見送る。動く影を捉えて校舎の方を見ると、窓から身を乗り出して手を振る人影が見える。愛理ちゃんだ。空き教室の窓から肩まで出してこちらを見ている。危ない。

「行ってこいよ。話の続き、期待していいか?」

紀章先輩がそう背中を押す。

「進捗があれば、また」

そう言って校舎の中に入る。


「おかえりなさいませ」

普段より改まってお辞儀をする彼女と合う。普段はフードを被るので髪は結ばず肩までおろしていたが、今日はフードを取り後ろで一つ結びをしている。初めて見る髪型も似合っている。

「ただいま戻りました」

そう丁寧に返して笑い合う。別に特別長かった訳でもないし、別に戦いに出ていた訳でもないのだが、それでもこうして帰ってくる喜びがある事が嬉しい。

「お母さん、来週辺りには退院できるそうです」

「本当に?一安心かな。でも退院した後もまだ気をつけないとね」

「はい。恩返しできるよう頑張ります!」

二人で空き教室を出る。ここは暑いので場所を変えたい。

「…山の中の神棚、ですか?」

「うん。愛理ちゃんは中身はなんだと思う?」

合宿の出来事を話していて、彼女はなんと答えるだろうと聞いてみる。「うーん」と悩む仕草をする。

「誰かの記憶とか?ですかね、日記みたいな」

確かにそれも怖い。そういう日記には、最後にとんでもない事が書いてあるのがオチだろう。

「で、中身は何だったんですか?」

「開けないよ、そんな怖いし罰当たりな」

よくもまぁスラスラと言えたものだ。石なんて言えないし仕方ないけど。

「確かにそうですね」

素直に笑う彼女を見て少しだけ申し訳なくなる。



愛理0.8

懐かしい運動場も、立ってみるとこんなに小さかったんだと思う。他の子達が集まってた複合遊具も、今なら簡単に登れそう。

「愛理ちゃんはよくあそこで遊んでたよね」

女の人がそう言って砂場の方を指さした。そちらにゆっくりと歩く。大きな木の木漏れ日で砂場は他よりも少し涼しい。園児が作ったであろう砂の山。私もよく作ってたっけ。

その子の名前は未だに思い出せないけれど、よくここで地面に絵を描いたり、木の下で座って話をしていたことを思い出す。どうして今思い出したのだろう。ポッケに入ってる石をハンカチで包んで取り出した。その子が居なくなった後砂場に落ちていたこの石は、何故だかその子が帰ってきたのだと思って拾ったのだ。

「君は、君の事を忘れる」

そんな言葉が頭に湧いてくる。その子の声も覚えてないから自分の声で聞こえるその言葉は、確かその子が発した言葉だ。

きっとその子が私の事を忘れるように私に呪いをかけたのだろう。それが今、ここに来て思い出した。

何だかおかしくって、少し笑ってしまった。思い出したからといって、私のこれからはやっぱり何も変わらない。


「あの、色々とありがとうございました」

そうお辞儀をする。園長先生も女の人も笑顔で見送ってくれた。

「またいつでもおいでね」

「はい、では」

すっかり夕方になった見覚えのある知らない街を歩く。ここは人が多くて住みにくいな。大人になったら、もっともっと田舎の方で、ゆっくり生きていたいな。こんな変な私には、そういう生き方の方が良いと思う。


自分のことを思い出した事で、私の中には1つの欲求があった。

「人を愛したい」

こんな私でも愛してるって言ってくれるような、私の為に命をはってくれるような、そんな人に会えたらいいな。そんな風に考える気持ちが強くなった。

そうしてただぼんやりと、ひとりぼっちの空き教室で本を読む。ここは何故だか人が来ない。理由は知らない。

ただ流れる雲と進んでいくページを目で追ってた昼休み。ドアが開いた。そうして私は颯稀くんに出会った。

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