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SWORD of C 〜 人斬り令嬢《ブルートザオガー》と呼ばれた少女  作者: 無色
Episode:7

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地獄の蓋

「あーあー。えらい盛り上がってもて」


 ユーフェイは、どうする?とエリザベートに向いた。


「どうするも何も。私たちもやりましょう」

「元帥さん相手にするよりはテンション上がるんやけど……あんま見たくなあんよね。可愛い子の死に顔は」

「ご心配無く。あなた如きに殺されるほど、ブルー様への愛は些細なものではありませんので――――――――ぁ?」


 エリザベートの言葉が途切れる。

 喉が、腹が、地面から突き出たそれによって貫かれた。

 花。

 滴る血で赤く、エリザベートの身体を突き破って美しく咲く花であった。


「あァ」


 エリザベートは何のことは無いと、血を刃に変え花茎を切断。

 腹、喉と順番に身体から引き抜き、千切れたそれを乱雑に地面に放った。


「なかなかキレイな魔術ですね。植物を操る魔術……それにしてはだいぶ異質なようですが」

「異質なのはお互い様やろ。長いこと生きてるけど、そんな歪んだ魔術見るのは初めてやわ」

堕天使系(ネフィリム)は他三系統と違いそれぞれが唯一無二(オンリーワン)の固有魔術ですから」

「固有っていうのはどうやろね。実際堕天使系(ネフィリム)は稀有やけど、それはただ同じ時代に、同じ様にイカれた魔術師が存在せんと、同じ権能を持たんかったってだけやろうし」

「おもしろい考察ですね。だとするなら、これだけの堕天使系(ネフィリム)が同じ時代に生まれ(つど)ったのは、偶然ではないのかもしれませんね」

「せやねぇ。ま、どーでもいいんやけどそんなこと」


 ユーフェイは人差し指をスッとエリザベートへ向けた。

 足元から伸びる巨大な食虫植物が口を開け、エリザベートの顔面を覆う。

 葉の内側から分泌される強酸性の消化液が、惨たらしく彼女を融かした。


「だから、死にませんってば」


 融けた顔の表皮ごと食虫植物を剥ぎ取り、肉と神経が露わになった顔で涼し気に言ってみせる。

 ホラーめいたのは一瞬、エリザベートはすぐ元の容姿へと再生した。


「不毛だとは思いませんか? 殺しても死なない相手を殺すのは」

「まあ、やりようなんやない? 死なんのと負けんのはイコールじゃないやろ」


 途端、エリザベートはふらつきを覚えた。

 頭を押さえ、身体に起きた異変に嘔吐する。


「ぉえ……けほっ……なんれふか、こへ、は……」

「酔っ払うのは初めて? キツイやろ。度数九十超えの老酒(ラオチュウ)をイッキ飲みしたみたいなもんやから」

「酔っ払ふ……?」

「不死でも痛みも効かんくても、殺す手段なんか万よりある」


 ユーフェイは建物の壁に生えた花を撫でながら、ゆっくりとエリザベートへ距離を詰めた。


「ウチが生み出す花は、人に幸せを与える。幸せとは陶酔、酩酊、高揚、快楽、解放という名の万能感、全能感。人が忘我するほどに求める全て」

「ぐ、っ……!」


 地面に膝をつくエリザベートの髪を引っ張り上げ、ユーフェイは冷たい笑顔で睥睨した。


「小さく固めれば幸せの味の飴玉。一度味わったらもう虜。幸せからは誰も逃げられん。堕ちて潰えて朽ちて果てるだけ」 


 コロン……桃色の飴玉をエリザベートの口の中へ転がし入れる。

 身体の自由が利かないエリザベートは、無抵抗にそれを受け入れるしかなかった。


「つらいこと全部忘れて逝けるなんて、考えうる限りの幸せな最期やろ」


 飴玉が口の中で溶ける。

 濃厚な甘露が喉の奥へと流れるのと同時、麻薬的な快感がエリザベートを走った。

 瞳の中で火花が爆ぜ、体感時間が引き延ばされるような、言葉に出来ない多幸感に包まれる。


「あ、は、ァ――――――――!!」


 涙、鼻水、涎、その他の体液という体液が、とめどなくエリザベートから音を立てて溢れ花畑をしとどに濡らした。

 その表情は恍惚。

 今まで味わった痛みよりも、死よりも、熱く、甘く、鮮烈で、刺激的で、そして何より背徳的な、筆舌に尽くし難い幸せの毒。

 常人ならば一粒で廃人になるほどの依存性、中毒性を内包した飴玉であるが、ユーフェイは呆けたところへもう一粒、もう二粒……とエリザベートの口の中へ押し込んだ。

 このまま放置することも出来た。

 だが、ユーフェイ=シャオリーは知っている。

 裏の世界に生きる彼女は何度も目撃し、体験してきた。

 堕天使系(ネフィリム)という怪物を。

 この世の理の何れからも外れた彼らは、いつの時も異形として、異物として、異端として、異常として君臨した。

 ユーフェイ=シャオリーは知っている。

 堕天使系(ネフィリム)とは、やり過ぎて尚、足りぬ者であることを。


「!」


 咄嗟に建物の屋上へと飛び跳ねた。

 ユーフェイはたしかに見た。

 廃人になるほどの幸福を堪能しながら、歪んだ笑みでこちらを見射るのを。


「気ィ持ち……良すぎひィィィ……!! オホッああダメヤバい大変気持ちひヤッべ絶頂()くの止まんね下品なのキメちゃうゥゥゥ……!! こんなの……は、じ、め、てええええーーーー!!!」


 身体から漏れ出た体液が、エリザベートの手の中で剣の形を成す。

 数メートルと離れた地上で、汚泥の如く濁った体液の刃を構える。

 天才と違い、彼女に剣才など無い。

 だが……誰よりも斬られてきたからこそ、その身体は――――――――


「クヒッ!!」


 人斬り令嬢(ブルートザオガー)の剣を覚えている。


「アヒャヒャヒャあァ〜!!」


 自動障壁が発動したタイミングで、ユーフェイは斬りかかられたのに気が付いた。

 

「こんなのブルー様には見せられにゃい〜!! 下品で〜はしたなくて〜可愛くなァい〜!! 秘密ッ、絶対秘密絶対絶対ヒミツねェ〜!!」

「血の流れを意識的に加速させて、従来の魔術師特有の身体能力を更に……ほんまに、何回イラつかされたらええんやろなぁ!!」

「イラついてるゥ?! 生理なんじゃないのォ?!」

「もう来ォへんよ、そんなもん……!!」

「滾れ、堕天使の血(アスモデウス)!!」

「咲き狂え、堕天使の蜜(アスタロト)!!」


 鮮血令嬢(カーミラ)妖精令嬢(ティータンニーヤー)

 もしも地獄があるのなら。

 それはきっと、今この場所のことを指すのだろう。

 その日、貧民街(スラム)の一角が帝都(シュレイン)から消滅した。

 読んでいただきありがとうございます!


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m(_ _)m

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