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ディスタンス  作者: ぷかぷか
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 改札口からでてS谷サンマルクへ足早に目指す。

 これから会う不安を押し殺しながら、ウルフがいるかどうか目を走らせた。


 入り口に立っている男性が幸を見つけると笑顔で手を振っていた。実は、幸は前回あまり顔を見ていなかったのでウルフがわかるのか心配だったが、杞憂だった。まだ足の固定具があったからだ。

 幸はおどおどしながらウルフに会釈をした。


「初めましてっていうのも変だよね。

 ウルフこと大上翔太です」


 名刺とともに自己紹介をしてきた。



「あ、初めまして。宮本幸です。名刺持っていなくてすみません。

 えっと、おおがみしょうた…さん?」



「そうそう、おおがみ。転じてウルフ。安易だけどね。

 幸ちゃんか。幸ちゃんの言っていることがよくわかるよ。

 とりあえず座ろう。俺が買ってくるよ。何がいい?」



「アイスカフェオレのでかいやつで。あ、これお代です」


「アイスカフェオレな。今回はおごらせて」



 さっさと注文口に行ってしまった。

 固定具はあるがもう松葉杖はない。思わず頼んでしまったが、大丈夫そうだ。


 ウルフさんはリアルでも強引そうで優しそう……。


 幸はまだ緊張が解けず、所在なくテーブルを探し、窓際の席にぽてんと座った。

 ちょうど大上も注文した飲み物を持ってきて、二人掛けのテーブルで向かい合って座った。



「ようやくあえたね。いやぁ、長かった。

 ……幸ちゃん、俺の言うことわかる?」


「あ、はい。今のところ、だいたいわかります」


「なんだか無理やり聞き出したようでごめんな。

 というか、俺も久しぶりにない頭で必死で勉強したのよ。

 聞こえない人のこととかね」


「は?」


 今日は、もう、ビックリすることばかりだ。


「幸ちゃんが怖がってることをなくせば、会ってくれるかなと思った」


 大上は抱えていたバックからタブレットを取り出した。


「これね、音声を認識して文字を表示してくれるアプリを入れたんだよ」


「はい?ごめんなさい。なんといったんですか?」


「見てて。」


と大上はウィンクしてタブレットを起動させ、操作する。


「これは、音声を認識して文字を表示してくれるアプリです」


すると、タブレットのディスプレイに文字が表示された。


「えぇぇぇ? 凄い」


「だからね、こうすれば会話できるかなぁと思って」


もちろん、タブレットにも表示される。


「これ、大上さんが作ったんですか?」


「いや、もうあったのを拝借してきた。

 試用段階だったみたいだけど、どんどん改良されていくと思うよ。

 もう簡易版がスマホ用に出ていると思う。

 また、教えてあげるよ」


「はぁ、夢みたい」


 残念ながら、幸の言葉は変換ミスが多く日本語にはならなかったが。


「こいつ、幸ちゃんの言葉は拾えないみたいだな。

 それとね、集団だと音声を拾いにくいみたいなんだ」


「何もないより全然いいですよ。凄い」


 思いがけず、会話が弾んだ。タブレットを通して、TDGの話も、個人的な話もどんどん広がっていく。


「え?ギルドの皆さん、大上さんが何の勉強をしていたか知っていたんですか?」


「うん、幸ちゃんが聞こえない人かもしれないってことも、知ってるよ」


「え、そうなんですか?」


「俺が勉強したことを、みんなにも教えたんだ。だから、もう、大丈夫だろう?オフ会、いっしょに行こう?

 知らないことがいっぱい見えてくるよ」


「まだ、怖いです。とっても緊張してしまって。一対一なら何とかなるんだけれど、大勢だと、気疲れしちゃって。

 テルーだったら気にしなくてもいいことを、リアルでは気にしてしまう。自分を見せることにすごく抵抗があったんです」


 幸は言葉を慎重に選びながら、ぽつりぽつりと話す。


「そういうところも、一人で考えるんじゃなくて、みんなで考えよう。

 それに、一度に集団と話すわけじゃないからさ。

 ダメだったところ、こうしてほしいところ、やっぱり、しんどいからやめるとか、幸ちゃんのペースをみつけていけばいい」


「ありがとうございます」


「ようやく幸ちゃん捕まえた。2年だよ、2年。長かったな~。

 聞こえない人だっていうのは確かにビックリしたけれど、捕まえられてよかったよ!」


「はわ~?」


「はわぁって、あはは。幸ちゃんて面白い」


「なにいってんですか。捕まえたって……」


「結構、俺、アピってたよね? イベぎりぎりで仲間申請とか、あれも計算のうちだったんだよ。幸ちゃん、優しいからきっとやってくれると踏んでね。そうやって、きっかけを待ってたんだよ。」


「えーと……。 大上さん、お付き合いしている人がいるようだったし、皆さんに好かれてるし。あ、ほら、どこぞのお嬢さんとか……」


「は? 付き合ってる人なんていないよ。どこ情報よ、ソレ? オークの従妹の件はナシって言ったじゃん。こんなに必死になってんのに」


「ごめんなさい、私の勝手な想像でした」


 コミュニケーションの壁を取っ払おうと努力してくれた大上には感謝しかない。

 いきなり世界が開けたような気がした。

 







「で、幸ちゃん、こんな俺ですが、付き合ってくれませんか?」












Fin

現在は、音声認識のソフトはすでにあり、スマホアプリにももうあります。

YouTubeなどの動画にも音声認識字幕が乗るようになってきました。

技術革新は喜ばしいのですが、必要な人に行き渡っていません。

コミュニケーションの壁だけではなく、お互いがおもいやれるように気持ちの壁も低くなりますように。

言葉さえわかればよいものではありません。ことばに持たせた意味は、それぞれ一人一人異なります。あまりに差があると、意味の齟齬か生じ、理解しあうことが困難になります。お互いがちゃんと通じたかどうか、正しく理解したかどうか確認しないと、すれ違い、誤解を招き、悲しいいさかいが起きてしまうかも知れません。コミュニケーションが関係を良好にする手段になるようお互いに努力し合わないといけないなぁとおもっています。


つたないお話をお読みくださってありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。ぷかぷかさん。 私も聴覚障害です。とても共感して読みました。 会社の飲み会は すべて断っているし、会社で親しいつもりだった人に、実は片思いだったもありますね。 幸ちゃんが 良い方…
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