71話
四体の龍がそれぞれブレスを放つ。
「散開だ! 躱せ!」
ミルズたちは今までと同じように、互いがフォローできる範囲で離れて闘う。
「あのブレス、なかなかの威力じゃぞ!」
「小さいのに!」
「そりゃ比較対象がおかしい! 十二分にデケェよ!」
「どうする? まわりから倒していくのかい?」
「そうだな! レティに〆てもらうにしてもアレがいたら邪魔だな!」
「オーキードーキー!」
ミルズの判断で戦術の目標を統一し、彼等は動き出す。
まずはメイが小竜に接敵を試みる。
もはや人の目では追えないほどの速度で戦場を駆け巡る。
風魔法を組み合わせた戦闘術はスピードを保ったまま複雑な動きを可能にしていた。
しかし、メイの行く手を小竜のブレスが塞ぐ。
そこへ間髪入れず、レズンの尾が薙ぎ払ってきた。
どこへ踏み込んでも次の攻撃が待っていた。
今までと異なり、レズンの死角が小竜たちによって補われ、今までの戦術が通用しない。
「どうした? それでは我に届かぬぞ?」
小竜が動けば、必ずレズンの攻撃が重なる。
逆にレズンを狙えば、小竜のブレスが降り注ぐ。
互いの隙を埋める連係。
レズンと小竜は攻防一体、一縷の隙間もなかった。
「父ちゃん、無理!」
「わかった! だけど、やれ!」
「必殺のパワーハラスメント!」
「これは、あとでストライキだね……」
それでもメイとニナを中心に、ミルズたちは攻撃を続ける。
手を変え品を変え、あらゆる攻撃を試す。
その度に、レズンはすべてを打ち払ってきた。
「このままじゃ手詰まりだよ?」
「この戦い方ができるなら最初からやるはずだ! おそらく魔力消費がデカいんだろ!」
「枯渇を待つということですね」
ミルズの言葉に従い、何度も攻撃を繰り返す。
その密度は徐々に高くなっていく。
その中にあってレティは違和感を感じていた。
ミルズの言う通りに戦闘は進んでいる。
レティ自身もレズンの魔力の枯渇狙いという戦術は正しいと考えていた。
だからこそ、この戦い方は正しい。
「なんじゃ? 何がおかしい?」
レティはレズンの尾撃を上空に回避する。
そこを狙い撃つようにブレスが四方から飛び交う。
「狙いはこれか!」
レズンが見せた刹那の隙。
一瞬ではあったが、レティは戦場を俯瞰し気付く。
襲い来るレズンの爪撃をなんとか躱す。
そして、レティとレズンの視線が交差する。
「流石だね、レティちゃん。けどもう遅いよ」
「ちぃ!」
レズンからの追撃を躱し、着地する。
「ヌシら散開せよ! これは罠じゃ!」
ミルズたちは自分たちの意思で飽和攻撃を行い、レズンの魔力の枯渇を狙っていた。
しかし、それこそがレズンの狙い。
小竜のブレスで誘い、レズンの攻撃で外から内へと回避するように仕向ける。
そして、狭くなる戦場は攻防の密度を上げていく。
彼等は自分たちの意思で闘っていたはずだった。
だが、実際は――
すべてレズンの手のひらの上だったのだ。
レティは空へと逃げた時に、ほぼ一直線になって闘っているミルズたちの姿を視界に捉えたのだ。
いつの間にか、小竜がレズンの両脇を固めている。
「ヌシら、寄れ!」
レティの合図に全員が集まる。
そして、小竜のブレスが左右の逃げ場を封じ込めるように放たれた。
「こりゃ、駄目じゃ! ローザ、全開で結界を張るんじゃ!」
レティは急いで魔力を紡ぐ。
レズンの巨大な顎門が開かれる。
小竜の召喚からただの一度もレズンはブレスを吐いていない。
それは偶然ではない。
その理由が――今、明らかになる。
レズンの喉奥で、低く唸るような音が響いた。
それは咆哮ではない。
大地そのものが軋むような、圧倒的な魔力の共鳴。
次の瞬間――
巨大な顎門が、ゆっくりと開かれる。
その奥で渦巻くのは光。
いや、光ではない。
圧縮された魔力そのものだった。
「ヌシら、来るぞ! 耐えるんじゃ!」
「いや、無理だろ!」
「でも、やるんじゃ!」
「パワーハラスメントの横行!」
「因果横行!」
「美しいほどの自業自得!」
ミルズは盾を構え、ローザが結界を張る。
ニナがバフをかけ、メイが皆を支える。
そして……
レズンの咆哮が天地を裂いた。
次の瞬間――
世界が白に呑まれた。




