51話
視線の先、煙の中から銃を構える衛兵たちの驚愕する姿が見え始めた。
魔力による身体強化を覚えて良かった。
以前ならば流石にヤバかったはず……
それがほぼノーダメなんだから、その差は歴然。
「ば、化け物……」
その言葉に俺は強く反応した!
ば、化け物……
あらあら、ちょっともう一度言ってくださるかしら?
そのワード、自己肯定感が爆上がりなんだが?
自然と俺の口角はニンマリと上がっていき、なかなか気持ち悪い表情を浮かべているに違いない。
誤魔化す為に視界を少し下げて剣を衛兵たちに向ける。
チラっと様子を伺うと彼らの表情は驚きに包まれたまま……と思われる。
良し、バレてない。
俺は努めて平静を保ちつつ、一歩戦闘態勢のまま歩みを進める。
「うわぁあああああ」
カチカチと衛兵のもつ銃が乾いた音を立てる。
一歩進むだけの動作にパニックに陥る衛兵が出はじめる。
これは……
さては自分の認識と他人の認識に大きな齟齬があるな!
照れ隠しで切っ先を向けてみたけど、衛兵からしたらそれは捕食者がその鎌を自分たちに向けている様に見えている……んだな!
「どけぇ!」
勇気ある者か、はたまた無謀な蛮勇の持ち主か、幾人かの衛兵が武器を持ち替え突進してくる。
俺は剣と盾を置き、拳を固めて迎え撃つ。
事故があっちゃいかんからね。
今の俺は絶好調だ。
衛兵の動きがよく見える。
繰り出された剣の軌跡だけでなく、相手の重心がどこにあるか、注視すれば剣の握りさえも確認できるほどに体感の時間が引き伸ばされている。
紙一重で剣撃をかわし、顎にパンチを入れて意識を立つ。
横薙ぎの一線を腕で上下に打ち払い、隙を見逃さずに一人、また一人と戦闘不能へと追い込んでいく。
最後の衛兵は薄ら笑いを浮かべながら、ずっと弾の入っていない銃のトリガーを引き続けていた。
一仕事終えた俺はゆっくりとコントロールルームの扉を開け中に入る。
ジルベロが俺の焼け焦げた装備のあとを見て煽るように笑う。
「兄さん、お手伝いしましょうか? えらい大変そうですなぁ。」
「いいから。 で、そっちは順調なのかよ?」
「えぇからて……こっちは何の問題もあらへ……」
ジルベロの視線は閉まっていく扉へと向けられていた。
その顔は驚愕に染まっている。
フラフラと扉に近づき自分の瞳に写ったものを確かめるように自分で扉を開け放つ。
「兄さん、これ……」
「だから、大丈夫だって。 多分もう来ねぇよ。」
「なんや……これ……」
ジルベロの表情に満足しつつ、俺は地面に座り水を飲む。
流石にちょっと疲れた。
身体的にというか、頭的に。
今までの戦いよりも入ってくる情報量が多い。
慣れていないせいか、それらの処理に上手く脳が対応出来ていない感じがする。
ジルベロはまだ俺のことを見ている。
「なんだよ? お仕事完了してただろ。 責任とやらはちゃんととりました。」
「ダメージは?」
「ほぼねぇよ。 最近調子がいいんだよ。」
「なんやそれ…… 前はそこまでちゃうかったやろ……」
その表情は先ほどの驚きというものよりも、焦りを感じているようだった。
それに前はっていう言い方もなんか引っかかるな。
まぁいいか、それよりも……
「ローザ、どう?」
「はい、問題ありません。 あとは皆とタイミングを合わせるだけです。」
「良かった。 あとはティアーゴが上手くやってくれるさ。」
ローザの肩に手を添えて労う。
彼女は俺の手に自分の手を重ねて身体を預けてくる。
ローザのぬくもりを感じてこんな時でも少しドキッとする俺の魂は最早思春期の中高生そのものだ。
ん? ローザっていくつだ?
十歳の時にティアーゴのお母さんがっていう話があったよな……
んんん……?!
「ローザさん、ローザさん、こんな時に聞く話でもないんだけど、お年はおいくつですのん?」
「15歳になります。 成人していますので結婚も出来ますよ?」
その時、ミルズに電流走る!
娘と同い年の子にドキドキしてたんか、俺!
おい、やべぇぞ! 見た目から勝手に20歳超えてると思ってた!
いや、20歳でも俺の年齢を考えたらヤバいんだが、もはや犯罪じゃねぇか。
「へぇ〜 この世界って15歳で成人なんだね〜 へぇ〜」
言葉を紡ぎながら動揺を押し隠す。
ローザの肩から手を離し不用意にボディタッチをしていた自分を諌める。
コンプラ的にアウトやぞ!
いや、落ち着け、俺。
まずはまわりを見て気持ちを落ち着かせるんだ。
ふぅ……
「って何してるんだ、お前?」
「ん? あぁ、気にせんといて。 ちょっと予定外のことがあったからその準備なんや。」
コントロールルームの一角のパネルを何やら操作しているジルベロ。
その隣の扉が開き中に入っていく。
もう時間だというのに何してんだ、あいつ。
まぁ、ジルベロの謎の行動が俺を落ち着かせてくれた。
そこには感謝しておこうかな……




