49話
俺たちは制御室まであと一歩というところまできていた。
ジルベロの案内は完璧でここの通路を抜ければあとは魔導制御盤のコントロールを奪うだけだ。
しかし、眼の前には扉を守る四人の衛兵が睨みを効かせていた。
どうやらここは力押しでいくしかないようだ。
俺はジルベロとローザに視線を送りタイミングを見計らう。
ジルベロは短刀を両手に構え、もともと見えてるのかわからない糸目をさらに細くしていた。
今にも飛び出しそうなジルベロを俺は一旦、制止する。
「ローザ、いけるか?」
いつもと少し様子の違う気がして声をかける。
コクリと頷き杖を構えるローザの視線の先は衛兵たちだ。
「ほな、いくで。」
その声と同時にジルベロは地を舐め滑るように衛兵へと接近していく。
まるで影が動いているかのように錯覚するそのスピードに衛兵の対応が半歩遅れる。
声をあげる猶予すらなく、あっという間にジルベロは4人の衛兵を制圧する。
そして流れるようにトドメを刺そうとするその手を俺は止める。
「なにすんの?」
「まぁ、落ち着けよ。 もう全員意識なんてないだろ。」
「そんな甘いことを……なんかあったらどないするんや?」
「どうにかするから。」
そうジルベロに告げて俺は衛兵たちを拘束して床に転がしておく。
「ふん、なにかあったら兄さんが対応するんやで、僕は知らんからな。」
「任せろよ。 で、いいだろ? ローザ。」
無言のまま、コクリと頷き制御室の扉を開くローザ。
その姿はさっきの緊張に包まれた様子とは異なり、杖を握る手に安堵の気持ちが現れていた。
視線を下げないようにしているあたり、多分衛兵が顔見知りなんだろうな。
共和国から逃げてきたとはいえ、ここはローザの母国だ。
どこに友人、知人がいてもおかしくはない。
振り返ることなく進むローザの背中に、俺の脳裏にあの日の街並みが浮かび上がった。
――
歓楽街の喧騒とも、宿屋街の雑踏とも無縁の、静けさをまとった住宅街だった。
整然と区画された家々が並び、建物はどれも背筋を伸ばしたように端正な佇まいを見せている。
帝国の貴族階級が住むエリアと似たような高級感を感じるけど、こっちはよりシンプルなイメージ。
そんな中をいつもの冒険者スタイルではなく、少しめかし込んだ俺とローザは歩いていた。
「このあたりは変わりませんね……」
懐かしそうに街並みを眺める彼女の髪を冬の訪れを感じさせる冷たい風がなびかせていた。
「顔見知りとかがいるんじゃないのか?」
彼女の生い立ちを考えるとあまり目立つような真似はしたくない。
「普段はレティの認識阻害の魔法がかかっていますから、私をディアナと見抜ける人はいませんよ。」
柔らかい笑顔を浮かべるローザ。
追われているということもあり、あまりにも目立つ容姿の彼女はレティの魔法で見た目を変えられているらしい。
だから気にすることはないということらしい。
俺の手を取り迷いなく進むローザ。
ひときわ目立つ、悪く言えば少し品に欠ける大きな家の前までくると、そこで彼女は足をとめた。
門には鎖がかけられていて連絡先が書かれた看板が吊り下げられていた。
「噂には聞いていたんです。 私が逃げ出したあと、商売がうまくいかずあの人たちは……」
両親のことをあの人たちと呼ぶローザの心境は俺の想像なんかよりもっと複雑なんだろう。
その瞳に浮かぶものは憎しみや嫌悪といったものではなかった。
家の裏手の公園のベンチに腰掛け、かつての自分の家を見上げる。
そして小さく息を吸い、静かに言った。
「ティアーゴ マルケージは私の兄です。」




