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女神と転生〜ポンコツ女神と父娘が最強へと至る道〜  作者: 荒頭丸


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21話

レティは今放つことのできる最大の魔法を練り上げる。 

「これで終わりじゃ!」

轟く叫びと共に、彼女の杖から蒼白の氷柱がいくつも咆哮するように突き出した。

空気すら凍てつくような破滅の魔法――それが、もはや回避も反撃も叶わぬ巨竜の顔面を撃ち抜く。


それでも、ドラゴンは倒れない。

怒りと憎悪に燃えるその眼は、なおも炎を宿したままだ。

全身が崩れかけ、翼も脚も砕けながら、最後の一撃をミルズに向けて放つ。


ローザがミルズへ手を伸ばす。

震える唇が、祈るように魔法の詠唱を紡ぐが……


ぽつり、と。

魔力が弾け、音もなく霧散した。


「ごめん……なさい……」

立っているのがやっとだった彼女の身体が、崩れるように倒れ込む。


支援も尽き、仲間も限界。

それでも、ミルズはドラゴンの前に立ちはだかる。 

「うおおおおおおッ!」

叫びとも悲鳴ともつかぬ咆哮を上げ、ドラゴンの巨体を迎え撃つ。

潰すようにのしかかってくる質量の塊。

それを、ミルズは軋む足で踏みとどまり、悲鳴を上げる骨と肉で真正面から受け止めた。

 

崩れかけた身体の奥底から、折れることを知らない“意志”が、巨竜の絶望を押し返す。


その刹那。

メイはがら空きになったドラゴンの胸元へと潜り込んだ。

「あぃいいいいい!」

地を蹴る力が破壊の衝撃へとかわる。

その強大な力はメイの身体をつたい拳へと伝播する。

心臓へと、まっすぐに、最短距離で。

渾身の一撃が、鼓動の止まる音と共に、ドラゴンの命を貫いた。


巨竜の咆哮が、ようやく止まる。

振動も、風も、灼熱も、すべてが途絶え静寂の中、ドラゴンはゆっくりと地に崩れ落ちたのだった。



「う……うぅ……まぢで死ねる……」

膝をつき剣を地面に突き立て、辛うじて立つミルズの口から、呻きにも似た声が漏れる。

戦いの余波がまだ空気に残っていた。

焦げた臭いと、冷え切った風の名残が肌にまとわりつく。

立ち上がろうとするが、膝が言うことをきかない。

ただ、息をしている。

それだけで精一杯だった。


レティがそっと近づいてくる。

その足取りも決して軽くはない。

手のひらを差し出し、静かに魔力を込める。

淡い光がミルズの体を包み、骨の軋みと焼け焦げた身体が少しずつ癒えていく。


本来、神聖魔法はレティの得意とするところではない。

だが、ゆっくりと時間をかければ、痛みを和らげ、命をつなぎとめることはできる。


「……ないよりはずっとマシじゃろ」

レティにはあれほど魔法を連発していたのにも関わらず、まだ回復魔法に魔力を回すだけの余力があった。

「……助かる」


ミルズは差し出された手を握る。

力強く、確かに。

その手の温もりが、生きているという実感を少しずつ呼び戻してくれる。


レティに肩を貸されながら、ようやくミルズは立ち上がった。


全身はまだ痛み、視界は霞む。

それでも、立てる。

それだけで、今は十分だ、そうミルズは思った。


束の間の安堵。

だが絶望はまだ終わりではなかった。


「あ……あぁ……」


アーシェの震える声が、空気を揺らす……

その視線の先にいるのはもう一匹のドラゴン。


そうだ。

竜はニ体いるのだ。


帝国の騎士は既に物言わぬ塊と化していた。

黒い炭となり、一部が砕けて原型を知らねば人と認識できていたかわからない。


竜は深く傷付きながらも二人の騎士に勝利し、その速度は遅い。

だが、確実にこちらに向かってきているのだった。

その獰猛な瞳に射貫かれ身を震わせるアーシェ。


「アーシェ、アイン、二人ともちょっと走って助けを呼んできてよ。今ならそこの通路に入れるしさ」

ミルズはそう二人に告げる。

今更助けなんて間に合うはずがない。

ミルズは自分たちを置いて逃げる様、アーシェに伝えたのだ。

 

アーシェは逃げようとした。

そして言われるがままに逃げ出そうとした自分を恥じた。

皇族が領民を置いて逃げるなんて……それでも死への恐怖かそれに勝ってしまったのだった。

「私は……臆病だ……成すべきことを言い訳に逃げようとした!」

アーシェは胸を強く掴む。

痛みで自らを断罪するかのように。

その瞳は罰を求める弱い自分を映していた。 

「いいんだ、人はそんなもんだ。もっと素直に生きてもいいと思う。」

そんな気持ちを見透かす様にミルズは優しく言う。

「さぁ、行って。 メイ、二人の護衛を」

首を横にふるメイ。

「嫌! ウチの道はウチが決める」

「我儘言うなよ……まぁ、それも人生か……」

親のエゴ、娘が選ぶ道、それぞれが自分自身の想いに順じた。

 

そしてアインはその想いを受けて……

「自分の道は自分で決めるか…… 良い言葉だね」

剣と盾をその場に捨てる。

「アイン……?」

ミルズが彼女に視線を向けると、そこには今までのアインはいなかった。

ただ秘めたる決意を燃えるような瞳に浮かべ、アインは力強く立ち上がる。

「僕も……僕の道を選ぶことにするよ!」


アインはステップを刻み、静かに唄いはじめる。

誰もが息を飲む。

その動きはどこか神秘的で、美しくて……

ミルズの記憶に触れて流れる。

「その唄声、獅子の泉の……」

あの金髪の少女と同じ声、同じ旋律。

光の粒が舞い、彼が踊り描くは魔法陣。

 

「やっぱり僕は……この道を選びたいんだ!」 

アインの動き一つ一つが地に描かれた陣を光り輝かせるのだった。


そしてその唄声はローザの枯渇した魔力に、尽きようとしたミルズの体力に……

仲間たちに脅威へと立ち向かう力を与えるのだった。

 

ミルズは再び剣を取り盾を構える。

闘う意思を力に変えて、切っ先を迫りくる暴力へと向ける。


ローザは杖に寄りかかるようにしてその身を起こす。

厳しい現実に抗う心が彼女の原動力なのだから……

「かかってこいやぁあ!」

「私達は負けません!」

二人の渾身の叫び。


最初に動いたのはアイン。

身体が竦み火トカゲとすらまともに戦えなかったアイン。

彼がドラゴンへと向かい走っていく。 

自殺行為だ!

「アイン!!」

ミルズは叫ぶ。

「僕の名前はニナ! ニナ オルファニスだよ!!」

巨竜は羽虫を払うかの様にその爪をニナへと突き立てる。

それをニナは踊るように回避し、すれ違いざまに竜の尾に緑に光る紋様を刻むのだった。


「レティさん!」

ニナの合図を受けるとレティは風の魔力を纏う。

「まかせるのじゃ!」

人が決して真似できない魔法技術を用い、神速で魔法を組む。

 

生み出された疾風の刃は地を裂き空を切り裂いて進む。

刻まれた紋様に吸い込まれるように風の刃が届き、竜の尻尾を切断する。

輝く紋様がレティの魔法の威力を増大させたのだ。

 

突然身体のバランスが変わったことで竜がもんどり打って倒れ込む。

地に倒れ込んだ竜にメイの追撃が迫る。

しかし眼の前の難敵はそれをゆるさない。

メイの攻撃を首の動きだけでかわし、逆に反撃のブレスをメイに撃ち込むのだった。


まともに食らったと思われたがブレスの被弾の直前、ローザの耐火魔法による保護と身体を小さく丸めて回転し被弾面積を極力減らすメイの判断により被害は最小に抑えられた。


互いに限界を超えた戦い、魔力も体力も底が近い。

 

その中を軽やかに踊るニナ。

光の粒がニナを中心に収束していく。

戦場に散った光粒――それは魔力の残滓。

ニナはその踊りによって戦闘時に使用された魔力の欠片を集めているのだ。


ドラゴンは牙を軋ませ、再び炎を溜め込みアーシェへと狙いを定める。

咆哮と共に灼熱の炎が吐き出される。


ローザは素早く反応し耐火魔法をミルズとアーシェにかけていた。

二人を守る光の膜はブレスから彼らを護り命を救った。


「すみません、これで終わりです……」

ローザの魔力が今度こそ尽きた。

絶体絶命に追い込まれたが、敵もまた限界が近い。


今ならば大魔法も直撃させられるのに……

そう考えていたレティにニナが側に降り立つ。


「ふははは、よくやったのぅ! 褒めてつかわす!」

レティがニナから受け取った光り輝くもの……

それはニナが戦場を舞い、歌いながら集め、整えた魔力。

「もっと褒めてくれても構わないよ。 僕は褒めて伸びるタイプだからね!」

「カカカ。 言いよるのぉ!」


巨大な竜の口からカチカチと音を立てている。

死力を尽くした竜のブレスが解き放たれようとしていた。 

 

訪れた静寂の中、一陣の冷風が吹き抜ける。

強い魔力の奔流が流れを作り、レティのもとへと集まっていく。

そして彼女の足元には巨大な氷の文様が浮かび上がるのだった。

 

レティが言の葉を紡いでいく……

「沈め……時よ。

忘却の雪に覆われし古の刻

穢れし存在を凍結の檻に

《終氷葬・アルカ・フリージア》!」


瞬間、空気が凍った。

透明な棺が音もなく出現し、ドラゴンの全身を閉じ込めた。

氷の中、竜の目はなお開かれていたが、もはや瞬きすら叶わない。

「ワシらの勝ちじゃ。」

レティが杖を振ると、その棺は静かに砕けていく。

こぼれ落ちる破片は光となり風に溶け舞いあがる。


荒れ狂う暴力の化身は泡沫の夢の様に、淡い光の中に消え去るのだった。

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