488話「ラグパクシ鳥とおこめちゃん」
途中で一度休憩を挟み、一同一旦別室へとそれぞれ下がった。
ディアマントも化粧直しに侍女長と下がっていくと、そのタイミングでジェレイドやエーリックたちも水を飲んだりと緊張を保ったまま一息入れていた。
「ガーネ」
「はい」
ヘルソニアが水の入ったグラスをガーネに差し出し、隣に腰を下ろして水を飲んだ。
「印象は」
「前情報通りですね。皇子は一見人当たりが良さそう過ぎて『どこが地雷かわからない』、皇女は『男狂い』。見ました?皇女のあの品定めしてる眼差し。それと導師、ヴェールのせいでほぼ表情は見えないですが俺と同年代くらいなのは間違い無さそうなのと、後は先程伝えた通りです」
「そうか。……ところで其方、何か気付いたようだな」
「どれの件ですか」
「陛下が褒められていた時だ」
「…ああ、鳥の話ですか」
「なにか裏でもあるのか」
「確証はないですけど、十中八九『嫌味』だと思います。会話に困った時用の話題ストックにメイジーエの生物図鑑とか眺めてたんですけど、図鑑見てなきゃ『皇女の嫌味』は気付かなかったかもしれないですね」
「ほう?嫌味?まぁ、あの小娘は嫌味を言われた程度で傷付くような繊細な神経は持っていないが。…一応どんな嫌味か聞こうか」
「えー、聞きます?俺、自分の女に対しての嫌味だから比較的不愉快なんですけど」
「ははは、それなら尚更聞こう」
ガーネはトイレに下がったディアマントが戻って来ないかと一応ちらりと視線を向け、深く息を吐いてから口を開いた。
「ラグパクシ鳥って、図鑑知識ですけど鳴き声はめちゃくちゃ綺麗らしいんですよ。だから皇子は純粋に褒めてます。皇女の方は『貴女にピッタリ』って言ってたでしょ。あの鳥は『メイジーエの特定のオアシスにしか生息してない小さい鳥』です。メイジーエって身分序列が激しいから、華奢な女は『下層』扱いされてるんです。だから身分の高い女ほど、無駄にバーンとしてる傾向が強いみたいです。わかります?『声は綺麗かもしれないけど、小さい貧相な女』って言われてると俺は解釈しましたね。実際皇女、背も女にしちゃデカいし胸も尻もデカい。あ、『巫術官長の好みの女』ですかね」
「突然儂を矢面に出すな、小僧が」
「ははは、まぁ冗談はさておき。ついでに、俺がカルセを出したくない理由。聖女だからだけじゃないです、『皇子に目を付けられても困る』し、『皇女にやっかまれても困る』からです。カルセ、おっぱいデケーから」
「まぁ」
控室で全員に休憩用の小さな茶菓子を配膳していたカルセがガーネの話を聞いていつものように小さく嗜めるような声を漏らしつつも、もはや今に始まったことではないと特段気にした様子はなくガーネとヘルソニアの前に小さな琥珀糖の乗った皿を配膳した。
「で、カルセちゃん。お前はあそこに隠れて控えてるだけじゃなくて、俺が何も言わずとも『俺のして欲しいこと』はやってくれてんだろ?」
「当然ですわ、任せてくださいまし。…今のところ、何か嫌な邪気のようなものですとか、怪しい術式を使っていらっしゃる気配はございませんわ、あの『導師』の方。ただ、やはり呪術国家ですわね。『魂に刻まれたもの』はわたくしたちと性質がどこか異なりますわね…」
「なるほどね。やっぱお前を『ソコ』に置いて正解だったわ。引き続き頼む、見つかるなよ」
「当然ですわ、任せてくださいまし」
琥珀糖を齧って満足そうにしたガーネを横目で見たヘルソニアが感心したように声を漏らして水を飲んだ。
「…ガーネとカルセは相性が悪いと陛下と懸念していたが、存外上手くやっているようで安心した」
「ああ、俺が『聖女が欲しいんですけど』って陛下にオネダリした時言ってましたね。でも、アンタらの言う俺とカルセの相性って今のこれの件じゃないでしょ。『その方面』では相性悪いと思いますよ俺」
「ほう?私や陛下が思っていた懸念が理解出来ていると申すのか其方は」
「うーん。…『因为那个女人代表着色欲、所以我之前一直懸念、結果要么是我被她迷得神魂顛倒、要么反过来是她对我動了真情。 事実上、過去那个女人確実是喜歓我的吧?』…ってことでしょ?あれ、違う?」
「いや、その通りだ。本当に其方は末恐ろしいな」
ガーネはヘルソニアに対し、カルセの目の前な事もあって中国語で『あの女は『色欲』、懸念は俺が骨抜かれるか逆にあっちが本気で俺に惚れるか。実際、俺に惚れてたでしょ?』と雑に返して肩を竦めたが、概ね正解だったらしくヘルソニアは目を細めて口元に薄く笑みを浮かべた。
「皇国より其方の方を警戒した方がよいのではないか」
「はは。なら俺、陛下のこと誘拐して逃亡します。連れてっていい?」
「そうか、なら少し静かになるな。実際其方が陛下を連れて北に逃避行していた半月は非常に静かで王城は快適だった」
「ヘルソニア!!」
タイミングがいいのか悪いのか、ディアマントが丁度悪口を言われているところに戻って来て頬を膨らませて拗ねた顔をしていた。
ガーネはご機嫌取りに琥珀糖を摘んで立ち上がると、口紅を塗り直した直後のディアマントの口元に差し出した。
「?なんじゃこれは。宝石の菓子か」
「知らん、なんかしゃりしゃりして甘くて美味かった」
ガーネの指先から琥珀糖を咥えて小さな口で頬張ると、ディアマントは口の中で咀嚼して独特のしゃりしゃりとした食感とほんのりと広がる甘みにあっという間に機嫌を直して笑みを浮かべた。
「…おいしい!」
「んぶッ…、…ふ、クク…」
「なぜ笑うのじゃ!こら!」
「いや、失礼。…ンンッ、………ぷ、ふふ…」
「ガーネ!!!」
ガーネがその一連の様子で『ラグパクシ鳥』ではなく、王城のディアマントの私室で米粒を餌付けされた、真っ白な小鳥の『おこめちゃん』を思い出し、小さな鳥が餌付けをされているような愛らしさに思わず吹き出して肩を揺らして笑っていた。




