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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第三十九章『勘査』

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484話「崇拝」

迎賓館別館の馬車寄せに十数台の馬車が停車し、ぞろぞろと護衛や侍従などの随行者が整列し、一同まるで軍隊のように揃った動きで地面に正座した。

『喉に天秤の入れ墨』のある侍従の1人が一番豪奢な馬車の客室扉を開き、そそくさと地面に跪いて土下座のような姿勢を取った。


「ラージャプトラ、ラージャプトリ。ディールガ・ヤートラー・サンプールナー。サンプラープターハ・スマハ!」


『皇子様、皇女様。長旅お疲れ様でございました。到着いたしました』という言葉と共に、扉を開いた喉に入れ墨のある侍従が地面に額を擦り付けるように頭を下げると、他の『肩に天秤の入れ墨』が入った随行者もそれに倣ってぴたりと揃った動きで額を地面にくっつけるように土下座の形で頭を下げた。

「……サームラージヤート・ヴァータバハ・バフ・ビンナハ・アスティ」

先に降りた、20代半ばの『額に太陽の入れ墨』の入った男が『皇国とは雰囲気が随分違うな』と呟き周辺を見回しながら馬車から降り、踏み板に片足を掛けて中に手を差し伸べた。

馬車の中から男と同じ褐色肌のややほっそりとした腕が伸び、差し出された手に手を重ねて同じく20代半ばの『額に月の入れ墨』の入った女がゆっくりと降車し、物珍しそうに周辺と迎賓館を眺めてから玉虫色の紅を塗った形の良い唇に妖艶に弧を描かせた。

「ふふ、プラシッダハ・パルサハ・キードリシャハ・バヴェート・キム!」

「ラージニー・アトゥリヤー・スンダリー・アスティ・イティ・マヤー・シュルタム」

女の『噂の男はどんな男かしら』という言葉に、男の方も肩を竦めて『女王は絶世の美女だと聞いている』と返答し、互いに笑みを浮かべ合った。


「ようこそ、ヴェルーティン王国へ。ヴェルーティン王国王城侍従長、ディーン・セルヴィ・ジーフォルゲにございます。遠路はるばるお疲れ様でございました、ご移動でお疲れでございましょう。お部屋へご案内いたします」

侍従長と護衛の衛兵数名、通訳が馬車寄せで出迎えて頭を下げた。

「出迎えご苦労、此度は世話になる」

流暢な公用語で皇子である男が侍従長へと返答し、一同は侍従長のについて部屋へと向かっていった。

「昼食をご用意しておりますので、会談開始までごゆっくりお過ごしください」

「ありがとう、ヴェルーティンではどんな食事が出るのかしら。楽しみね、お兄様」

皇女である女も流暢に公用語で返し、皇子と並んで広い廊下を歩いた。



*****



「到着したようです」

近衛の報告を受けてジェレイドが室内の全員に共有をし、改めて着席した。

迎賓館本館、会議室。

室内にはディアマント、ヘルソニア、エーリック、ジェレイド、侍女長、女官長、シューツェン辺境伯、特務全員、そしてガーネが揃って着席をしていた。

「なんか緊張するね!」

「黙ってろ『コーガ』」

ガーネがピシャリと低い声でサイフィルを叱責し、その呼んだ名前にガーネの目論見どおりディアマントは小さく反応した。

ガーネが椅子から立ち上がると、一同を見回して口を開いた。

「先も話したが、連中は『何が地雷かわからん』。扱いには注意しろ。特にバカとゴリラは衛兵二番隊長の後ろについて、基本『喋るな動くなきょろきょろするな』。有事の際、俺の合図でのみ動け。それ以外は俺への命令違反と見なす。いいな」

「ひゃい…」

緊張感たっぷりの空気感とガーネの圧に声が裏返ったサイフィルは、着慣れない衛兵の隊服の袖を違和感たっぷりに弄りながら視線をガーネに戻した。

「基本、侍女も女官も含め『女』はあんまり場に出したくないが…理由はあとで説明する。…特務の女共は『侍女』として動け。お前らなら所作は問題ないだろう、侍女長と女官長の指示に従え。基本は茶汲みや菓子配り、それとカルセは表に出すな。目につかないところにいろ。ただし俺の視界からも外れるな、配置はここ。会場見取り図の…陛下はここに座って俺はここに立つ。この範囲なら皇国側の視界には入らないが俺の視界には入る、かつ会場全体を見通して俺ともアイコンタクトの取れる警備最高責任者であるジェレイドの傍。いいな、カルセは絶対待機だ」

ガーネは正面に貼り出した会場見取り図を指差してそれぞれの配置を指示した。

「かしこまりました」

「ジェレイドも『例の件』は一旦切り離せ、出来るな。カルセは『聖女』だ、何が何でも傷一つつけるな。これは『王命執行最高責任者』としての命令だ」

「…承知した」

いよいよこの外遊の一番の目玉と言っても過言ではない会談を前に、早速空気が緊張感に包まれて会議室内が外の気温に反して妙に冷ややかに感じられた。

「……使節団のトップくらいは頭に入ってるな」

ガーネが一応確認するように一同を見回し、サイフィルとアメジ以外の全員が頷いたのを確認してから別で用意していた資料を取り出した。

「使節団のトップ、メイジーエ皇国の第一皇子ラヴィハ・ヴィヤーグラ・マハツマ、26歳独身。現メイジーエ皇国皇王の正室嫡男、皇位継承権1位。愛人なし、恋人なし。どちらかというと『表面上は』奥手っぽいな、アレルギーなし、好き嫌いなし、茶よりコーヒー派、それもクソ甘いやつ。ただし、奥手そうに見えて見た目も温厚で礼儀正しそう…らしいが、ブチ切れるとヤバい。皇王妾の子、腹違いの妹は『自分より先に食事に手を付けたから』蹴り殺し、皇王第6夫人の生まれたばかりの赤ん坊を『泣き声がうるさい』と鈍器で殴殺。他、王宮の下働きの女は『顔が好みだったから寝所に勇気を出して誘ったのに自分だと畏れ多いと断って恥をかかされた』と馬で引きずり回して腹を踏みつけて殺し、別の出入りの踊り子は『自分の好みじゃないのに生意気にも色目を使ったから』目玉をくり抜いてそれを無理矢理食わせて最後は絞殺。他にも数件。一応、『奥手で女性関係は苦手』と自称しているらしい」

「こ、怖い」

スメイラが思わずと言った様子で息を飲み、ラズリもドン引きした顔でガーネを見上げた。

「アンタそれ、どこ情報」

「色々。スメイラの情報網とは違って、俺はもう少し裏に精通してるからな。あ、一応言っとくが裏取りは出来てないから真偽の程は定かではない。が、ちょっと周辺叩けばこれだけゴロゴロ出てくるんだ、9割ほんとだと思う。だからなるべく女は場に出したくない。俺も怖い、ウチの随行の女連中になにされるかわかったもんじゃない。キレポイントが全く予測つかない。…まぁさすがによその国で暴君癇癪はないとは思うが。つーことでわかってると思いますけど陛下は絶対何があっても俺の傍から離れないこと、勝手にちょろちょろしないこと。いいですね」

「うむ」

「ヘルソニア様は自分でどうにかしてください」

「其方、私に対しては随分雑だな」

「いや、アンタ護衛いらないでしょ実際。建前で護衛してますけど、今この場で誰よりも圧倒的に強いでしょ」

「否定はしないが」

「次、メイジーエ皇国の第三皇女スリラハ・ソーマ・マハツマ、22歳。メイジーエ皇国皇王正室次女、皇位継承権4位。こっちも独身だが、不特定多数の男関係あり。男娼やら護衛やら節操がない『色狂い』だな。ただし見た目は相当美人のナイスバディだそうだ。こっちもこっちでわりとやべーのが、自分のお手つきの男の本命の女に嫉妬して呪殺、自分が目を付けた男を先につまみ食いしたという女も呪殺、自分を満足させられなかった男は飼っている奴隷に輪姦させてその光景をオカズに自分は別の男と楽しんでから流鏑馬の的にして射殺。らしい」

「おかずとはなんじゃ、食事のおかずか」

「お前が気にするとこそこじゃねーよ」

「あとは…そうだな、随行トップの『霊能者』、導師タマス・シャーパハ。年齢は18、性別は女となっているがコイツが一番わからん。何も情報が出てこなかった」

ここまでの皇子皇女の『何をしたらキレるか』にフォーカスが当たって一同得体の知れない・理解が出来ない恐怖心のような何かに小さく息を飲んでいたが、ガーネが『情報無し』と端的に終わらせたこの『導師』の存在が何よりも得体が知れずに恐ろしかった。


「……なるようにしかならぬ。案ずるな。連中、どいつもこいつも妾にしてみればまだ子供じゃ。…妾とて、4000年以上玉座に座しておらぬ。その妾が認めて役職を与え、ここに連れて来た精鋭じゃ。妾はお前たちの力量は知っておる。託したぞ」

「御意に、女王陛下」

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