482話「打算」
「あの干しぶどうと無花果のソースがとても美味しかった、それと胡椒とミントで煮付けた魚もとても美味しかった!城でもああいうのが食べたい!」
「貴女がしつこいから、女官長に行って向こうの執事から調理法や食材などを聞いてもらうように言いましたよ」
食事や料理に大層満足した様子のディアマントが、馬車の中で無事に回収したぬいぐるみを膝に抱いて機嫌良くヘルソニアに話しかけるとヘルソニアもそれを見越していた様子でレシピを聞くように指示したことを伝え、ますますディアマントの機嫌が良くなった。
「胡椒の酒も非常に美味しかった!近衛総監、お前はどれが好きだった?」
「は、そうですね……野菜の酢漬けがさっぱりしていてとても美味しゅうございました」
「ガーネは?どれが好きじゃ?」
「全部嫌いだった。何もまともに食えるものがなかった。死ぬほど腹がキツイ」
「……君、ほとんど水で丸飲みしていたからな…咀嚼している振りだけ上手にして」
「辛いか酸っぱいかゲロ甘いかばっかなんだもん……」
とにかく気候もそうだが食事が一番合わないガーネは極西滞在が非常に苦痛で馬車に揺られ、短時間ではあるものの必要以上に飲んだ水のせいで妙に胃の中が揺れるような感覚に眉を寄せて腕を組んだ。
「……しかし、それにしてもですけど。シューツェン辺境伯、大事にした方がいいですよ陛下。あの男は使えます」
「ふむ?」
「軍人というか軍師ですね。頭の回転が早い。機転が利く。視野も広い。度量もある。アレは囲いこんでおいたほうが、後々いい働きしますよ。特にこの地はメイジーエとの睨み合いもしてる。最大限労った方がいい」
「例えば?」
「軍事施設への予算振りとか、路線整備とか」
「ほう。ならば、王都へ戻ったら前向きに検討しよう。妾もこの地は気に入った」
「こういう土地を大事にすると、他の土地も『是非陛下ウチにも来てください』って手を挙げる。来てもらうためにそこそこ整える、領地運営が上手いところはそれだけで経済が回って潤う、女王が来る、買い物をする、野次馬が来て女王と同じものを欲しがって飲み食いして買い求める、経済がもっと回る、そうすると、王城の税収が上がります。王城の財政が潤うと民にいろんな形で還元できる、そうすると女王の株も上がる、民の忠誠心も上がる。……ついでに、陛下がその土地に対しての恩恵を与えるとそれだけで陛下への『恩義』が生まれる。より陛下に忠実になる。国力と軍事力が上がる。誰を味方に付けて、どこを大事にして、どう『女王が可愛がるか』は上手く見せた方が自然と国は強くなります」
ガーネの説明に、ディアマントはぽかんとした顔でまっすぐに顔を見つめてちらりとヘルソニアを見た。
「其方、そこまで回るのになぜ政治に興味がない」
「死ぬほどおもんないから。クソつまんねぇでしょ、アンタらよくやってるなーと思いますよ」
ヘルソニアの問いかけにあっけらかんと答えたガーネは人の悪い笑みを浮かべて口を開いた。
「政治なんかで今みたいな机上の空論並べてるくらいなら、『メイジーエに潜入して国を壊滅させて来い』って言われた方がよっぽど楽しそうじゃないです?望み以上の成果は出せる自信ありますよ、最短最速で。まぁ、とは言え俺も別に戦闘狂や殺人鬼じゃないんで、進んで戦争したいわけでも殺し合いしたいわけでもないから今のは極端な例ですけどね。……つーことで、メイジーエ皇国との会談はこの地を管理する辺境伯自身も相当警戒してる。陛下なら大丈夫かとは思いますが、受け答えに困ったら即答しないで必ずヘルソニア様か俺に合図を。どういう揚げ足取ってくるか、まじで地雷原がわからない思想の国です。これは差別じゃなくて、国民性の違いです」
「うむ」
滞在している迎賓館へと到着し、馬車を降りてガーネはディアマントを部屋までエスコートした。
部屋の前で待機していた侍女長にディアマントを引き渡そうとしたところ、ディアマントがガーネの袖を引いた。
「ガーネ、少し来い。ミモゼは待っておれ」
「かしこまりました」
首を傾げたままガーネがディアマントに引っ張られて部屋に入ると、おもむろにディアマントがガーネの懐に飛び込むように抱きついた。
「はぁ?可愛いな。なに突然」
「少し飲みすぎた」
「まぁ確かに、お前調子乗ってひとりで3本くらい開けてたしな。吐く?」
「妾はそういう酔い方はせぬ、少しだけ2人になりたかっただけじゃ」
「フーン」
ガーネもディアマントの小さく華奢な身体を抱き締め返し、額に軽く口付けてからソファへと抱き上げて運んだ。
「キスしていい?怒られるかな」
「フン、今更じゃ。そも、お前はそんなこと気にしておらぬであろう」
「バレたか」
ディアマントの頬にそっと手を触れて顔を上げさせると、ガーネは形の良い唇に吸い付き何度か軽く食みながら少しずつ口付けを深めていった。
「酒の味する」
「いっぱい飲んだ。美味しかったのじゃ」
「はは、飲みすぎなんだよ酒飲み女。……ってコルセットしてんじゃんめんどくせーな」
キスをしながら背中に手を回し、ドレスのファスナーを下ろしたはいいものの、その先に触れたのは素肌ではなく幾重にも締め上げて結ばれた紐と補正用の少し硬い素材に当たってしまい、脱がせるのが一気に面倒になるとガーネは小さく舌打ちを漏らした。
「パニエも何枚重ねてんだ、邪魔くせぇ。触らせる気あんのかこのドレス」
「お前はそんなに妾を抱きたいのか」
「抱きたい」
「なぜじゃ」
「お前が可愛いから。お前が一番気持ちいい」
「妾だけ?」
「お前にしかこんなんならねぇよ。あー、でも侍女長外で待たせてんのか。どうすっかなぁ、ちょっと盛るタイミングミスったなぁ、でもこの女が悪いもんなぁ、朝からずーっと可愛いんだもんなぁ」
半ば強引に捲り上げたドレスの裾から露わなった細い脚を抱き込み、物欲しそうにディアマントを見つめながらわざとらしく下肢を押し付けてドレス越しに胸元を撫でた。
「ふふ、悪い犬じゃ。待てがきちんと出来るか、見物じゃの」
「クソアマ。どーすんだよ、『この状態』で部屋出れるかよ」
「我慢せよ」
「無理だよ股間いてーじゃん」
「ならどうするのじゃ」
「うーん。……1回だけ」
「駄犬め、あっ、ちょっ……ガーネ!ドレス、待っ…!」
「あー、ごめんな。待てない。駄犬だから。大丈夫、早漏って思われるのは死ぬほど癪だけど早く終わらせることは出来なくはないから。すぐ済むから。いいだろ『お姉さん』。10分で終わらせる」
「だ、だめじゃ、あんっんん…!」
ディアマントのドレスを脱がせることは出来なくはないものの、脱がせないならその方がある意味唆るなと別方向に頭の中の舵が切れてしまったガーネはソファでディアマントを押し倒して唇を重ね、ドレスの裾の中に手を差し入れて素肌を撫でて今日1日たっぷりと見せつけられた『可愛い』を最大限に堪能した。




