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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十九章『掌握』

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295話「ストレートフラッシュ」

「レイズ」

「……強気だな、大丈夫なのか特務総監」

「問題ない」

周囲の席から小さく咳払いが聞こえる中、ガーネはチップを場に出した。

「ツーペア」

辺境伯が勝ち誇ったような顔でトランプを見せ、ガーネを見つめた。周辺から小さく笑い声が聞こえる。

「あー、残念。俺はワンペアか」

パサっとトランプを場に置きどこか白々しい物言いをするガーネを、不安そうな顔でディアマントは見つめた。

「……ガーネ」

「心配無いんで、そこ動かないでもらえますか」

相変わらずディアマントと目を合わせることはなかったが、ガーネは少し考えるように左手の指先でとんとんと台を叩いた。

ディーラーが次のカードを配り始めると、その手つきを横目で見つめながらトーパスと周りの貴族にも目を配る。

「……ま、そろそろいいかな」

「どうした?負ける覚悟でもついたか特務総監」

「辺境伯。貴様は自分の心配をしたらどうだ、負けて痛い目を見るのはどちらなのか思い知らせてやる。誰に喧嘩を売ったのかも含めてな」

「フン、面白い。コール」

「レイズ」

ガーネの『手札』に辺境伯の目の色が変わった。眉を寄せてトーパスがガーネを見遣ると、ガーネは煽るような笑みを浮かべてトーパスを見つめ返した。

その横顔を不安そうにディアマントが見つめ、助けを求めるようにヘルソニアへと視線を向けるも、肝心のヘルソニアはただの観客として愉しそうに笑みを浮かべてゲームを眺めていた。

「……ヘルソニア」

「黙ってご覧になっていなさい陛下。なかなか面白いですよ」

「わ、妾はあまり楽しくない」

「貴女が吹っ掛けたようなものでしょう」

ディーラーの合図で手札を開示する。

「俺はスリーカードか。特務総監はどうだった」

「残念だったな、フルハウスだ」

「………」

辺境伯の目の色が変わる。ほんの一瞬ではあるが、周辺に僅かに動揺したような空気が流れる。

ディーラーが再度カードを配り始めると、スメイラが時間を気にしたのか時計を見つめて瞬きを何度かして小さく溜息を漏らした。

「ベット」

「フォールド」

「コール」

同じ場にいる貴族がそれぞれチップを場に出していく。

「……スメイラ、そろそろ時間か」

「…そうですね、特務総監。もうそろそろ」

「そうか。なら、そろそろ終わらせるか」

スメイラが珍しく少しイラついた様子で時計をとんとんと何度も指先で叩くのを見て、ガーネはわざとらしく肩を竦めた。

「レイズ」

ガーネの強気なベットにトーパスは引きつった。

「フォーカード。俺の勝ちですかね辺境伯閣下。…次のラウンドが最終か。降りなくてよろしいですか」

「……誰が」

「ははは、まあいいでしょう。まさか、『配下の前で恥をかかされる』わけにもいきませんしね」

ディーラーがカードを配布する手もやや震えている。

一同が緊張した面持ちの中、ガーネだけが悠然と手元のカードを一瞥して小さく笑っていた。

「辺境伯閣下」

「……なんだ、特務総監殿」

「誰に喧嘩を売ったのか、そろそろ思い知ったか?…オールイン」

「…は…!?」

「残念ながら俺の勝ちだ。『イカサマ』でもされてない限りな。……陛下、そろそろ帰りますよ。もう良いですね」

バサッと投げたガーネのトランプはストレートフラッシュの役が揃っていた。

「ま、待て!どういうことだ!」

「どうって、単純に引きが良かっただけでしょ。まさか俺がイカサマしたとでも言いたいんですか。証拠は?あるなら出してください。それとも『俺がイカサマの証拠』を出しましょうか」

「……っクソ…特務総監、覚えてろよ」

「やだね、くだらねぇことで俺の脳のリソース使わせるんじゃねぇ。大人しく負けを認めて『俺のお願いごと』聞いてもらいますよ」

「…いいだろう。なにが望みだ。……ただし、常識の範囲内にしろ」

「そんなんわかってるっての。お前と一緒にすんな。……今日は言わん、また後日、『改めて』お願いに上がります辺境伯閣下」


わざとらしくも恭しく一礼し、ディアマントの腰を引いて自分の一歩前へと出させてから元の護衛のポジションに戻って馬車へと向かう。

馬車に乗り込む前にディアマントへと手を差し出し、ヘルソニアが乗り込んだのを確認してから踏み台に片足を乗せた状態で御者に短く「出せ」と指示をし、辺境伯邸宅の敷地内を出てからガーネは馬車に乗り込んだ。


「ガーネよ」

「はいヘルソニア様」

「なかなかよい『見世物』だったな」

「お楽しみ頂けたようで何よりです」

「……ガーネ、ビリヤードだけではなくポーカーも強いのか」

ディアマントの感心したような呟きに肩を竦めながら窓の外へと視線を投げた。

「苦手ではないですよ、ああいう腹の探り合い。ま、アレはイカサマです全部」

「…………イカサマ……?」

「陛下の位置だと見えにくかったかもしれませんが、俺の手札を覗き込んで咳払いで合図する男爵と役を合図する子爵がいましたね。辺境伯自身も、マークカード使ってましたし」

「……ヘルソニア、お前気付いておったか」

「まぁ、途中からですが」

「イカサマされたんでイカサマやり返したに過ぎませんよ。俺のはもっと単純です。あの男、おそらく俺に特務や陛下の前でボロ負けして恥でもかかせてやろうって算段だったんでしょうけどね。俺に『特務を伴え』って言ったことが運の尽きですよ。…陛下はお忘れですか、先日俺が懲戒にした男は異常に目が良いんですよ。それからウチの聖女は耳がいい。俺の補佐官は機転が利く。時間気にしてイライラしたフリして、瞬きとか時計叩く回数で俺に全部合図送ってるんですよ。よく統制の取れたチームでしょ」

感心したようにディアマントはガーネを見つめるも、うっかり純粋に夜会を楽しんでしまった挙句に自分に対しての求婚の阻止のために勝負に乗ったガーネの真意がわからず、視線が絡むことのないガーネの襟元に自分が与えた徽章へと目を移した。

「……まあでも、本気のイカサマ使うまでも無くて良かったです。最後のは本気でラッキーなカード配布だったんで。陛下にこれあげます、俺のイカサマセット」

「…なんじゃこれは」

「最後のラウンドで使う予定で密かに集めてた俺の『予定手札』です。ストレートフラッシュ」

ディアマントの手元に、ハートの10〜Aまでを揃えたポーカーの最強役札が5枚手渡された。

「……ガーネ」

「はい陛下」

「なぜ、……そうまでして、喧嘩を買ったのじゃ。負けたら…いや、負けたとて、別にあの男に求婚されても妾は受けるつもりは無いが」

「誰に喧嘩売ったのか、しっかり思い知らせてやる必要があると思いましたからね。たかが『辺境伯風情』が」

そう言ったガーネと、ディアマントは数日振りに視線が合った。

その目は、騎士叙任の直前と同じように、何かの覚悟を決めた目だった。

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