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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十六章『鳥籠』

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107話「観測対象」

「おはよ。調子良さそうじゃない」

「…おはよ、まーな。久しぶりに寝れたよ5時間くらい」

翌朝、比較的顔色の良くなったガーネを見てラズリが医者らしく目敏く気が付き癖の問診のように声を掛けた。ガーネもそれに返答をしながらも、視線はいつものように新聞に目を落としつつ侍女のエナに用意をさせたおにぎりを頬張っていた。

そんなやり取りをしている中、敷地内別棟の居住区から登城して来たサイフィルたちが来ると、一気に騒がしくなる。ガーネは煩わしそうに姿勢を変えてわざと入口扉に背中を向けるように座り直すと新聞をぱらっと捲った。

「おっはよー、ねーガーネ昨日ご褒美何にしたの!?」

サイフィルの問いかけを無視するように新聞を読み進めながら最後の一口を口に頬張るガーネ。

「あれ?聞こえなかったかな、おっはよーガーネ、昨日ご褒美何貰ったの?膝枕?ねえなになに!?」

「カルセ、なんか飲むもんくれ」

「かしこまりました、何になさいますか?」

「煩いのが聞こえなくなる飲み物」

「え?無視?なんで?」

特に誰がどこ、と決めた訳ではない席もいつの間にか固定されており、ガーネは読み終わった新聞を畳んでぼんやりと部屋を眺めた。

全員がそれぞれ着席したところで、腕を組んで少し考えるようにガーネは黙り込む。

「…ガーネ様?いかがなさいましたか?」

一番近くの席に座るカルセが、飲み物を差し出してから不思議そうに首を傾げた。

「なんでもな…、……いや」

珍しく言い淀んだガーネに、無意識に全員の意識が向いた。


「お前らに、話しておく。例の案件」

「…陛下とヘルソニア様と、筆頭の魔導師様と巫術官様しか知らない案件…って言ってなかった?私たちに話していいの?」

旅行中にガーネが『今はまだ話すつもりはない』と言っていた件だろうと、スメイラが念押しするように口を開いた。相変わらず頭の良い女だなとガーネは感心して座り直すと、普段喧しいサイフィルもアメジも無言で話しの続きを待っていた。

「いいか、俺は『王命執行最高責任者』兼『異界対策統裁官』なんだ。つまるところ俺に全部の権限があるし俺がいいと判断したら良いんだよ。わかったか」

「ハイハイ、つまりアタシたちにも関係あるってことね。体よく使っておいて、今更何言ってんだか」

「…事の起こりは8日前の21時、お前らが人の金で呑気に焼き肉食ってる時だ。南方のヴェルトラウリ区、国境付近の防衛結界に干渉の痕跡あり────これがまず、陛下に俺が呼ばれた理由と、俺が留守にした理由だ。結界は『内側から開けて、丁寧に戻した』痕跡があった」

ラズリとカルセ、その時現場にいたが詳細は当然知らされていなかったアメジが、『結界を開けて戻した』理由を考えた。

「…外側じゃなくて内側から、ってことは、何か触ることが目的?」

さすがの察しのいいラズリが口を開くと、ガーネはそれに対し頷いて返答とした。

「俺が現着したのが異変の26時間後。結界監査して、何したかのアタリはついたわけだが」

「待ってよアンタ結界監査まで出来るの?」

「実際やったのは初めてだけどな。知識だけはそれなりにあったもんで。────で、ここで問題。座標洗って、26時間前どこを向いてたと思う?」

「…王城、あの女────女王の私室、とか」

「俺もそれを一番懸念したんだが、残念ハズレ。…正解は『焼肉屋』だ」

「……、お、お待ち下さい、まさか」

カルセが色々と理解した様子で顔を青くした。

「連中の観測対象は『俺』、まあ正確に言うと俺の魂座標だ。旅行中にまで着いて来てくれたもんで、お前らがどの程度『使えるのか』、力量見させてもらうついでに色々と情報収集もしたわけだが────未だにわからないのは、観測したところでどうしたいのか。殺したいだけなら序列上位の奴が仕掛けてくれば話は早いと思うんだが、そうしない理由があるんだとは思う。…というわけで、1週間経つし仕掛けてくるならそろそろかと踏んでるわけだが…ここから先は今の話の前提があった上での『命令』だ。城の中以外は王都内であっても単騎行動はするな、特にサイフィルとスメイラ。必ず攻撃手段を持つ奴と行動しろ」

「あ、アンタが観測対象なのになんでアタシたちまで警戒しなきゃいけないのよ」

ラズリが顔を引きつらせて声を上げた。その顔には『なんちゅー事案に巻き込んでくれてるんだ』としっかり書いてあったが、彼女自身も『王命付特務医』と役職を改めさせられた時点である程度の覚悟はしていたはずである。

「連中は俺がお前らを伴ってたのを知ってるはずだ。いいか、お前らは俺の『部下』である前に『女王陛下の持ち物』であることを忘れるな。それと…スメイラとラズリは、俺と『そういう話』したことあるだろ。何がとは言わないしそれこそ今は言うつもりはないが、お前らも警戒すべき理由は『そういうこと』だ」


全員が、小さく息を飲んだのがわかった。

ガーネはそこまで話すとスメイラに視線を向けた。

「スメイラ、ここまでの話を踏まえた上で、先日記録しろと指示した分の報告書。急ぎで作成」

「…わかった」

「サイフィルとアメジ、お前らは二人で見回り。いいか、はぐれるなよ」

「わかったわガーネ様!サイフィルちゃんはあたしがしっかり守ってあげる!…でも、見回りって言っても何をどう見ればいいの?」

「それはサイフィルの仕事だ。…何視ればいいか、お前なら…もうわかるだろ?」

「うん!任せて!」

「何かあっても触るな、何も無くても15時までには戻って来い」


意気揚々と出かけた二人を見送って、閉じられたドアを見つめラズリが珍しく心配そうに口を開いた。

「…ガーネ、あの二人だけで平気なの?アタシかカルセ、行かなくていいわけ?」

「あれでいい。サイフィルは悪く言えばこのメンバーの中で一番ビビリだからな、アメジと違って下手に突っ込むことは絶対に無いし何より俺はアイツの目の良さは信頼してる。アメジも馬鹿だが、お前らよりフィジカル含めダントツで強い。負傷中とは言え俺が苦戦した相手だ、サイフィルを守るのにあれ以上はいない」

「…そこまで考えて判断してるの?」

「さすがですわガーネ様!」

「…………まあ、それもあるけど…アイツらが一番、うるせーから…」

「………」


一番騒がしい二人が『見回り』に出た所で、普段動物園のように騒々しい特務室はガーネの言葉通り最低限の音しかしない空間になっていた。

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