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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十四章『照準』

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96話「One Hour」

「離せぇぇ!!!」

「だーから暴れんなっつってんだろがこのゴリラがァァ!!」

一応、『民間人』ではないにせよ、管理区域に許可無く侵入しあまつさえ本人には自覚が無かったにせよ『統裁官』に攻撃を仕掛けたという大義名分のもと城に連れ込んだガーネとしては、一つの打算があった。ラズリのように、下手に均衡教徒に目を付けられ利用されたり処理される前に自らの手駒に組み込みたい算段もあった。

が、早速ガーネの心は挫けそうだった。

これを飼育するのは、動物園の飼育員にでもならなければ無理だ。そう思って連れてきたことを死ぬほど後悔はしたが、野放しにも出来ない…と寝不足で働かない頭でぐらぐらと考えた。

「お前!至急!女王を!早く!!」

アメジを謁見の間に連れ込んで警備の衛兵に叫ぶと、普段どちらかといえばスカしている部類のガーネの見たこともない剣幕にたじろぎながら女王へ謁見の取次をしに走った。

「女王!?処刑!!?」

女王、と聞いたアメジがどういうわけか一層慌てた様子で暴れ出し、元々『お試し』程度で掛けていた封魔の術式の組まれた手錠はぱきんと脆い金属のような音を立てて砕けた。


「ッまずい、おい!ウチの…特務呼べ!! カルセかラズリ!!」

とてもでは無いが今の自分一人で抑え込める自身も無く、傍でオロオロしているだけの衛兵を特務室へと走らせガーネは腰の警棒を取り出して応戦した。

ガーネとは対象にアメジは汽車の中でぐっすりと睡眠を取った影響かすっかり体力も回復した様子で、杖を振り回して暴れまわるのをガーネも必死に受け止める。

カルセかラズリだけで良いものの、どういう訳か純粋に心配したらしいスメイラとただの野次馬根性丸出しのサイフィルと全員揃ってしまったところで、制圧もまだにも関わらず女王までやって来てしまい、ガーネはアメジに足払いを掛けて無理な体勢で組み伏せて制圧した。途端、無理な体勢だった自覚はあったものの修正が間に合わずに左肩から嫌な音と激痛が走った。

「うッ…!!」

声にならない声を漏らしながら、ガーネは額に脂汗を掻き女王に視線を向けた。

「…お前は何をしておるか」

明らかに怒気の孕んだ声に、さすがのガーネもこの有り様はまずかったと頭を下げた。

「…っも、…申し訳ございません」

「お前ではない!アメジ、次に問題を起こしたら認定剥奪と伝えたのを忘れたか!」

「へ、陛下ぁ…ごめんなさいわざとじゃないんです…」

ディアマントの叱責ですっかり大人しくなったアメジを解放し、ガーネは左腕の激痛に耐えながら改めてディアマントへと向き直った。

「……まあ良い、ガーネ。粗方お前の送った信書で状況は把握しておるが仔細報告せよ」

「陛下その前に俺の肩なお」

「え、ガーネ!?陛下この人がガーネ様なの!?嘘ぉあんた言いなさいよ!やだー!顔かっこいいなとは思ったんだー!」

「…ッ衛兵!!命令だ可及的速やかにコイツどっか隔離しろ!!!」

珍しく声を荒らげて怒号を飛ばすガーネに、一同は思わず肩を揺らした。

ヘルソニアだけが静かに『締まらないな』と内心思いながら、ディアマントに耳打ちをした。

「…ガーネ、お前だけ妾の部屋に来い。落ち着いて話しも出来ん」

「承知いたしました、…その前に…」

「何じゃ」

「……さっきので…肩脱臼しました…」

「アンタ肩ブンブンやめなさいって言ったでしょー!!」



*****


「なんなんですか、あの自称魔法少女」

激怒したラズリに外れた関節を嵌めて貰ったは良いものの、痛いものは痛いらしくガーネはディアマントの執務室で促されたソファの上でもしきりに肩を気にして上下したり回したりしながら痛みに眉を寄せていた。

「……アレでも、ウチの宮廷魔導師の筆頭と並ぶかそれ以上の実力者でな…だが、ある種の思想の問題は懸念されるな」

要するにバカ、と言いたいらしくガーネに顔を向け、ガーネ自身も言わんとしていることを察した様子で小さく頷き納得したように呟いた。

「…だから宮廷魔導師配属じゃないのか…ああいうの野放しにしないでもらえますか、アレヤバいですよ。怖い。俺喰われるんじゃないかと思いました。怖い」

「ははは、妾が慰めてやろうか」

「慰めとかそういうのいいんで、二徹しててアホみたいに眠いんです。できればディアマント様の膝枕で安眠したいです」

あまりの眠さと疲労で普段ならば絶対に言わないであろうことをポロリと漏らしたガーネに、ディアマントは思わず小さく吹き出して笑った。

「…とりあえず報告ですが…大まかには信書の通りです。その後も観察続けましたが、連中『俺の座標』確認しているので間違いないかと。とりあえずは代わりに寄越して下さった宮廷魔導師に引き続きの監視をさせています。次触りに来たら捕獲しろ、と。まあ来るかはわかりませんけどね、そういう命令して来ましたが現れない可能性の方が高いです。もし来るとしたからこっちが根負けしてあそこ閉じた後な気もしてます」

「ふむ…連中、何処でお前の魂の座標を得たのか」

「恐らくは封鍵、ですかね。明確に俺の魂触ったのはアレで間違いないかと」

「正直、厄介じゃな。観測しているだけでどう動くつもりかあの遺物も含め予測が立たん」

「後手には回りたくないんで、引き続き調べます。では、お時間取らせました、失礼いたします」

報告を終え立ち上がったガーネを引き止めるように、ディアマントが指先で袖を引いた。

「…いかがなさいましたか」

「隣に来い」

促されるまま、ガーネはディアマントの隣へと腰を下ろした。わけが分からずに怪訝そうに顔を見つめると、ディアマントは組んでいた足を正して座り直して自らの太腿をとんとんと叩いた。

「………なんのお戯れですか」

「いらんのか、褒美じゃ。…が、妾も忙しい。一時間だけ貸してやろう」

一瞬躊躇いはするものの、断る理由もないと素直に膝に転がったガーネの目を塞ぐように細く冷たい指先が覆った。数日前の儀式の傷跡がうっすらと視界に広がり、その膝の感触を堪能する余裕も無くガーネは限界を超えてあっという間に寝息を立て始めた。

「…赤子かコイツは」

ディアマントは指先でガーネの瞼は額、唇となぞるように触れながら冷ややかな目を向けると、誰もいない空間に向かって声を掛けた。

「ヘルソニア」

「はい」

「『アイツ』の動きを調べよ。今アイツに妙な動きをされると厄介じゃ」

「かしこまりました」

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