93、バナバナ星 〜演出にこだわる彼
「キャプテンアール!!」
僕達は、子供達が捕らわれている檻の前に移動した。そして、リュックくんと打ち合わせした通り、右手を空に向けてあげ、キャプテンアールの名を叫んだ。
(恥ずかしい……)
名を呼んだときに、僕の右手から空に向かって、光の筋が放たれた。もちろん、ただの演出だ。まだ聖魔法の光が残っているためか、光の筋はキラキラと輝きながら、流れ星のように空へと勢いよく昇っていく。
(リュックくん、まだ?)
『宇宙海賊キャプテンアールが、呼んですぐ来る距離にいるのは、おかしーじゃねーか』
(もう、手をおろしていいよね?)
『オレが登場するまで、決めポーズのまま、ジッとしてろよ』
(これって決めポーズ? 恥ずかしいんだけど)
『ワクワク感を高めるのが大事なんだよ。ほれ、アマゾネスの子供達を見てみろよ。キラキラした笑顔で、空を見上げているじゃねーか』
こういう所は、女神様とそっくりだよね。リュックくんは女神様の魔力から生まれた魔道具だ。その後、僕の魔力で魔人にまで進化したけど、うん、まぁ、生みの親の女神様に似ているのは当然かな。だけど……。
(右手がダルくなってきたよ。この芝居、いつまで続くの?)
『芝居じゃねーよ。演出だって言ってんだろ』
「わぁっ!」
「うひゃ! 半端ねぇ」
そのとき、子供達だけでなく空を見上げていた白い女神や石像信仰の人達からも、あちこちから声があがった。
白い女神と根切り男が協力して、石像信仰の人達をこの場所にワープさせたみたいだ。彼らも連れて行けとリュックくんが言うから、根切り男に、彼らの拘束を依頼したんだ。
呪詛神デルガンダが弱小神と呼んでいた神々は、そんな僕達を追ってきた。だけど木々の影に隠れている。姿を見せないように気をつけているようだ。
ここからは離れた空に、イナズマが走ったように見えた。星の門のある方向ではない。
(うん? 何かやった?)
『宇宙海賊キャプテンアールが、この星に来たんだぜ』
(いやいや、リュックくん、もういるじゃん。腕がプルプルしてきたよ。おろすよ? さっきのイナズマは偶然?)
『ダメだっつってるだろ。あれは腹黒女神の演出だ。近くを浮遊してる宇宙のゴミを引き寄せて、星にぶつけたんじゃねーか?』
(ちょ、女神様まで芝居に協力させてんの?)
『ちげーよ。アイツが、宇宙海賊キャプテンアールをカッコよく登場させるために、黒い女神と相談したんだ』
(へ? 黒い女神さんまで巻き込んでるの?)
『当たり前だろ。星の門を操る黒い女神が協力しねーと、こんな演出はできねーだろ。そろそろ行くぜ! 右手から闇をぶわっと出せ』
(はいはい、やっと手をおろせるよ)
僕は、右手から濃い闇を空に放出する。すると、薄暗いこの場所がさらに暗くなり、聖魔法の光がより一層キラキラと煌めいた。
空に強い光の玉が現れた。転移渦の演出だろうか。僕の肩からは、すでにリュックくんは消えている。異空間を通って上空に移動したみたいだな。
『おい、闇を回収しろよ。転移渦が現れたらすぐに回収するはずだっただろ』
(あー、待ち時間が長すぎて忘れてたよ)
僕は放出していた闇を回収した。リュックくんは、それに合わせて、転移渦らしき光を消したようだ。
光が消えたことで姿を現した空に浮かぶ人影が、とても幻想的に見える。たぶんアレも何か演出してるよね。
「あっ! あれは!」
「きゃー、キャプテンアールだわっ。カッコいい〜」
アマゾネスの子供達に顔バレしてないのだろうか? 誰も、リュックくんの名前は出さない。そういう教育がされているのかもしれない。
黒いマントをヒラヒラとはためかせ、リュックくんが……いや、宇宙海賊キャプテンアールが空からスーッと降りてきた。
キャプテンアールは初めてこの星に来たかのように、ぐるりと辺りを見回している。そして僕の姿を見つけると、ゆっくりと僕に向かって歩いてきた。
「ライト、呼んだか?」
(しらじらしい……)
『おい! セリフを忘れたのか』
リュックくんからセリフの催促だ。
(はぁ、仕方ない)
「キャプテンアール、久しぶりだね」
「あぁ、そうだな。何か急用か?」
「うん、まぁね。女神バナバナ様から相談されたんだけどさ、厄介な宇宙海賊が多くて困ってるんだって」
「ふぅん、オレに蹴散らせと言っているのか? だが、それくらいなら、ライトだけでも余裕だろ」
「蹴散らしても、僕がイロハカルティア星に帰ったら、奴らはここに戻ってくるでしょ」
「ほーん、なるほどな」
リュックくんは腕を組み、何かを考えるフリをしている。セリフを忘れたのだろうか。
事前の打ち合わせでは、キャプテンアールが、強い宇宙海賊をスカウトして、アプルゴルド星に連れていくことになっている。そのために石像信仰の人達も、ここに連れてきたんだ。もちろん、弱小神と呼ばれる神々もスカウト予定だ。
バリバリ
ドゴゴゴッ!
突然、凄い音が聞こえた。
(あー、高速船が……)
デンデンと呼ばれるお頭さんが力尽きたのか、高速船を支えていたツタが外れたようだ。船が檻の上に落ち、檻の一部が押し潰されて壊れている。
檻の中にいた高速船の運転手テスロさんが、慌てて船の中に駆け込んでいった。でも、みんな無傷だ。僕の城兵達が、バリアを張って衝撃を緩和したようだ。
船からは、案内人をしていた宇宙海賊レギュロー団の人達が飛び出してきた。彼らのことは、僕がキャプテンアールに口利きをすると約束していたっけ。
「キャプテンアール様! あぁ! 行商人さんは、本当にキャプテンアール様と知り合いだったんですね! 宇宙海賊レギュロー団のレギュローと申します! アプルゴルド星で案内人を募集されていると聞きました。行商人さんから、キャプテンアール様に口利きをしてもらえると……」
(信じてなかったんだ)
レギュローさんは、キャプテンアールの足元にひざまずき、必死な顔をしている。
「うん? あぁ、アプルゴルド星にはアジトが複数あるからな。巨大な星だから、アジト間の移動には案内人が必要なんだよ」
(リュックくん、忘れてたな)
「ぜひ、俺達にその役割を! 強くはありませんが、案内人に強さは求めていないと聞きました!」
レギュローさんの必死の訴えを、聞いているのか否かわからないような顔をするキャプテンアール。これも、芝居なのかな? だけど、レギュローさんをスカウトすればいいと言い出したのは、リュックくん本人なんだからね。
「白い女神、おまえは、この星の女神バナバナの分身か?」
キャプテンアールに声をかけられた白い女神は、キョトンと呆けている。白い女神は、知能は高くない。分身の意味がわからないんじゃないかな。
すると、根切り男が口を開く。
「キャプテンアール、少し違う。植物のことへの理解は浅いのだろうが、それは動物に共通すること。白い女神に何を問いたいのだ?」
(根切り男は、めちゃくちゃ賢くなってる!)
するとリュックくん……キャプテンアールは不敵な笑みを浮かべた。
「おまえは根切り男か」
「あぁ、ワレはそう呼ばれている。キャプテンアールも、星を失った神か? 何も尋ねずともワレの呼び名を知る術があるようだ」
「ふふ、オレは、謎のイケメン魔族で通している」
(女神様とそっくりな発想!)
自分でイケメンと言い切ったキャプテンアールに、根切り男は言葉を失ったらしい。普通、言わないよね。確かに、モデルのようなイケメンだけど、普通、言わないよな。普通なら……。
「そ、そうか……」
根切り男が、タジタジになる姿は初めて見た。あー、リュックくんが、何かの術を使って威圧しているのかもしれない。
「根切り男、おまえがこの星を維持する神だな? 女神バナバナよりも知能が高そうだ。アンデッドか」
「女神バナバナは、ワレから生まれる。ワレは、女神バナバナの枯れた花からできている」
根切り男は、完全に威圧されているように見える。そして、キャプテンアールの足元にひざまずくレギュローさん達も、動けないみたいだ。
「じゃあ、根切り男に話を通せばいいか。白い女神よりも上位だな」
キャプテンアールの呟きに、根切り男は首を傾げた。僕も意味がわからない。
「ライト、さっきの話だがな。オレに相談したということは、オレが好きに決めていいんだよな?」
「ちょ、はい?」
(リュックくん、何を企んでるの?)
『植物の星って、ふつー入れねーんだよ』
キャプテンアールは、ニヤリと笑みを浮かべると、マントをバサリとひるがえした。
「ライト、この星には人手がたくさん集まっているだろ」
「へ? あー、宇宙海賊はたくさんいるよね?」
キャプテンアールは、一瞬、僕に悪戯っ子のような顔を見せると、足元に視線を移した。
(何を思いついたんだ?)
「レギュローと言ったか? おまえ達の入団を認めてやる。おまえ達の初仕事は勧誘だ。オレは、この星にもアジトを作る。キャプテンアール団に入団を希望する宇宙海賊を1000人集めろ!」
「は、はい! よ、喜んで!」
レギュローさん達は、地面におでこをこすりつけて、土下座状態だ。キャプテンアールに敬意をあらわしているのだろうか。
(しかし、話が違うよ、リュックくん)
水木金はお休み。
次回は、2月11日(土)に更新予定です。
よろしくお願いします。




