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83、バナバナ星 〜燃える妖樹の木の実

 店に入ってきたスキンヘッドの小さな子供……白い女神は、根切り男と呼ばれる大男の前に座った。


「ワレは、まだしょくじをシテいる。おまえも、しょくじをスルのだろウ?」


 たどたどしく根切り男が喋ると、スキンヘッドの子供は、苛立ちを隠さない。テーブルをダンと叩いている。


(短気なのかな)


 黒い女神は、ふわふわとした雰囲気だったけど……。白い女神は、真逆のタイプなのかな。まぁ、石像にやられて苛立っているのかもしれない。


「さっさと治せ! 根切り男! それがおまえの役割だろ。こんな子供の姿では、何もできない」


(子供の姿に変わったってこと?)


 黒い女神は、次々と別の花が咲くみたいだけど、白い女神は違うのだろうか。ダメージを受けて子供になった?




「行商人さん、さっき、他のポーションがあると言っていたな?」


 デンデンと呼ばれるお頭(かしら)さんが、僕に小声で問いかけてきた。そういえば、白い女神がやられたら別の花が咲くのかと言いそうになり、そんな言葉でごまかしたっけ。


「はい、ありますよ。お頭さん、白い女神さんの状況を教えてくれたら……」


 すると、スキンヘッドの子供が、お頭さんのすぐ横に一瞬で移動してきた。素早く動いたというよりは、ワープのように見えた。


「おい、デンデン、何の用だ? 私にケンカを売っているのか!?」


(誰かに似てる……)


「白い女神、根切り男を待たなくても、ここにイロハカルティア星のポーション屋さんがいるぞ」


「ぽ? 知らない。私を勝手にワープさせるなんて、ケンカを売っているとしか考えられない。デンデンのくせに、私が子供の姿のときなら勝てると思ったのか!?」


(お頭さんが、白い女神をワープさせたの?)


「はぁ? おまえも無知だな。ポーションを知らないのか。すごい薬なんだぞ」


「やはり、ケンカを売っているのだな? 買ってやろうか? 子供の姿でも、デンデンごときには……ふぎゃっ」


 お頭さんが、スキンヘッドを掴むと、白い女神は変な声をあげて、突っ伏した。抵抗しようと、手をバタバタしているけど……。


(やはり、誰かに似てる……)



「行商人さん、コイツは攻撃により体液を失うと、白銀の状態は維持できず、姿を変えるんだ。ふだんは、アイツくらいの大人の姿をしているが、その姿にさえなれないほど、体液を失ったみたいだ」


 お頭さんが指差した方には、20歳前後に見える女性がいた。肌が透き通っていて、はかなさを感じさせる、おとなしそうな人だ。明らかに植物だよね。


「ダメージで身体の水分が抜けてしまった感じでしょうか? 白い女神さんって、女神バナバナ様から切り落とされた一輪の花ですか?」


「は? なぜ、コイツを花だと思ったんだ?」


(あ、マズイ)


 黒い女神が花だから、白い女神も同じだと予想したけど……そもそも黒い女神に会ったとは言えないもんな。


「えーっと、女神バナバナ様が、花は切ってもマナがあればずっと生きていられるとおっしゃっていたから……」


「行商人さん、それは黒い女神のことだ。黒い女神は、100の顔があるんだよ。女神バナバナ様から切り落とされたときに、100本分の花が1本の動物になった」


「へぇ、なんか、すごい怖そうですね」


 僕は、誇らしげなお頭さんに合わせるようにそう言ってみたが、彼は表情をくもらせた。


(あれ? はずしたかな)


「行商人さん、黒い女神には決して近づかないことだ。怖そうなんてもんじゃない。アイツは災害だからな」


「そう、なんですね。白い女神さんは違うんですか?」


 そう尋ねると、バタバタともがいていた子供は、僕にジト目を向けた。


(めちゃくちゃ誰かに似てるよね……)


「白い女神は俺と同じく、木の実だからな。火山にある、燃える妖樹の木の実なんだ。だから火に強いし、もちろん木の実だから水にも強い」


「へぇ、不思議な木の実なんですね。妖樹かぁ、聞いたことないけど」


 すると、ジト目を向けていた白い女神は、僕を小馬鹿にするような笑みを浮かべている。


(ほんと、誰かに似てるよな)


「妖樹は、女神バナバナ様なんだ。だから白い女神は、女神バナバナ様のことをママと呼んでいる」


「ほぅ、ということは、女神バナバナ様の子供ってことなんですね」


 そういえば、黒い女神も、女神バナバナ様のことをママと呼んでいたっけ。



「デンデン、手を離せ! それに、ぽの人! 私を治せるの? 治せないの? はっきりしろよ」


(ぽの人? 僕のこと?)


「白い女神さん、ちょっと、診せてもらえますか?」


「何をする気だ?」


「体内の循環を透視するだけです。植物から生まれた人の構造は、よくわからないので。それに合わせたポーションをご用意します」


「ふん、サーチ魔法か? この星では魔法は使えないぞ」


 すると、白い女神の頭を掴んでいるお頭さんが、口を開く。


「行商人さん、調べてみてくれ。透視ができるなら、根切り男にも頼み事があるはずだ。頭の後ろがはげているだろ? マナが通らないみたいなんだ」


「わかりました。二人を『見て』みます」



 僕は、まず白い女神を『診て』みた。お頭さんが頭を掴んでいるのは、その場所に、掴みやすそうな硬い殻があるからのようだ。


 人とも魔物とも、全く違う。消化器がほとんど発達していないし、血管ではなく葉脈のような物が見える。赤い血はない。だから、体液と言っていたのか。水を与えるだけで復活しそうにも見える。


(試してみようか)


 僕は、魔法袋から、イーシア湖の水が入った水筒を取り出した。息子のシャインが大量に飲むから、僕は、いつも大きな水筒をいくつも持ち歩いている。



「白い女神さん、ポーションを直接飲むより、混ぜる方がいいみたいなんで、えーっと飲み物用のコップはありませんか?」


「飲み物? あー、水を吸うのは、これだな」


 お頭さんは、巨大すぎる深い鉢のようなものを持ってきてくれた。僕は、その中に、モヒート風味の10%回復ポーションを入れ、そしてイーシア湖の水をなみなみと注いだ。


「何? 頼珠光の薬草の匂い?」


(はい? らいじゅこう?)


 白い女神の発した言葉は、僕にはわからない。


「行商人さん、これは火無効は付いてないんだな?」


「ええ、ついてません。回復ポーションです」


 白い女神は、スンスンと匂いを嗅ぎ、そして手をポチャンと鉢に突っ込んだ。


(ええっ? すごい)


 鉢の中に、たっぷり注いであった水は、一瞬で空っぽになった。白い女神の姿が、どんどん大きく成長していく。さっきの鎧を身につけた姿ではなく、普通の20歳前後の女性に見える。だけど、やはりスキンヘッドなんだよね。



「うひゃっ! 頼珠光よりも効く! 根切り男もいらない。ぽの人、その薬は何だ?」


(僕は、ぽの人か)


「体力回復ポーションを、精霊イーシア様の加護のある水に混ぜたものです」


「どひゃーっ! 精霊の加護だって! イーシア? 知らないけど、凄まじい力のある精霊だな。どこの精霊だ?」


 白い女神は、お頭(かしら)の手を振り払い、僕に、にじり寄ってくる。くれくれモード全開のときの誰かにそっくりだ。


「精霊イーシア様は、イロハカルティア星の水の精霊です。イーシア湖の水は、ポーションの素材でもあります」


「へぇ、イロハカルティア星って知らないけど……うん? イロハカルティア星? 根切り男、何か聞いたことあるよな?」


 白い女神は、食事を再開した大男に寄って行った。


「さっき、デンデンが、いってイタだろ。ワレもしらナい」


「デンデンじゃなくて、別の誰かが言ってただろ。確か……」


 何かを思いついたのか、白い女神から強いオーラがぶわっと溢れ出した。ポーション1本とイーシア湖の水で、完全復活なのかな。


「白い女神、その波動はやめろ。弱い者が怯える」


「うるさいぞ、デンデン! 思い出した。イロハカルティア星から子供を誘拐して、火山湖の島に閉じ込めている。妖樹がそのせいで、火を纏わなくなったのだ。宇宙海賊達のすべての根を切る!」


(白い女神の怒りの原因は、これか)


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