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82、バナバナ星 〜根切り男

 お頭(かしら)さんが、ギーッと嫌な音を立てて扉を開くと、中は食堂のような店になっていた。


 宇宙海賊の出入りお断りということは、ここは、女神バナバナ様にゆかりのある人だけの店なのかな。確かに植物っぽい人が多いような気がする。松ぼっくりはいないけど、後頭部に無数の花が咲いている人もいて、ちょっと不思議な感じだ。


(でも、スキンヘッドの子供はいないな)



「行商人さん達、飯を食うだろ? そっちの長テーブル席に座ってくれ。俺達の席だ」


「あ、はい。席が決まってるんですか」


「あぁ、あの町の者は、そっちの長テーブルなんだ。決めておかないと、うっかり座って枯れる奴もいるんだよ。アイツなんかは、特に気を遣ってやらねぇとな」


 お頭さんは、後頭部に無数の花が咲いている人を指差している。すると、その人がこちらを向いた。


(うっ……何を食べてたんだ?)


 その人の口元には、緑色のドロリとした液体がついている。しかも、醜く歪んだ巨顔が不気味すぎる。お頭さんは人の姿になれるのに、その人は……どう見てもバケモノだ。


 白いダウンジャケットを着た城兵達は、少し警戒したようだ。その人の目つきには、強い殺意が込められているように見えるからな。



「デンデン、なんダ? そいつらハ?」


「彼らは、イロハカルティア星から来た行商人さんだ。女神バナバナ様が、彼らに頼みごとをされたのだ」


「ふん、えさではないノカ、つまらナイ」


(たどたどしいけど、会話はできるんだな)


 僕は、興味に勝てず、口を開く。


「こんばんは。イロハカルティア星から来たポーション屋です。お頭さんに、案内してもらってるんですよ」


「ふん、そんなほしは、しらナイ。デンデンは、よわいゾ。ケムシをみついだら、ワレがあんないしてヤッテもよい」


(なんか、ちょっと嬉しい)


 不思議な生物と意思疎通ができるのって、楽しいものだな。



「おい、おまえは花に水がかかると枯れるだろ。宇宙海賊は全員、おまえの短所を知っているぜ」


 お頭さんが、その人に食事の続きを促すように、手で合図をしている。だけど、伝わってないみたいだ。


「ふん、はなをカクせばよイだけだ」


 そう言うと、その人は姿を変えた。


(人の姿にもなれるんだ)


 ゴツゴツとした感じの大男だ。頭のてっぺんには草が生えるように緑色の髪が生えている。だけど、後頭部には髪が無い。


「その姿は根切り男だとバレてるだろ。頭に水をかけられたら、死ぬじゃねぇか。それなら消えていろよ」


「きえると、はらがヘル。つまらないコトをいうナ」


(消えることができるのか?)


「腹が減れば、緑水を吸収すればいいだろ」


「ミドリみずってなんダ?」


「毛虫を食ってただろ。緑水じゃねぇか」


「えさは、ミドリみずなのか?」


「動物も水がないと生きられないぜ」


「デンデンは、あたまがわるいカラ、なにをいってイルか、わからナイ」


「おまえが頭が悪いから、理解できないんだろ」


(なんか、大変だな)


 女神バナバナ様は、知性は高くないと聞く。この星の植物も同じみたいだな。あっ、女神バナバナ様の定義では、自由に歩ける者は動物か。


 後頭部に無数の花のある大男は、どんな役割があるのか知らないけど、この街に住んでいるようだな。あっ、根切り男って呼んでたっけ。




「行商人さん、食べられる物かはわからないが、よかったら食べてくれ」


「お頭さん、ありがとうございます。えーっと、なぜ突然、この店に?」


(白い女神と接触するためだよな?)


「この店は、俺達のような者の治療所だからな。アイツは、かなりやられていたから、必ず来る。先回りしたんだよ。後から来ると、負けだろう?」


 何が負けかわからないけど、この店で白い女神を待ち伏せするつもりだということは、わかった。



「じゃあ、いただきますね」


 僕がそう言うと、城兵達もスプーンを手に取った。食器もスプーンも、木製だ。植物の星なのに、木製っていいのかな? 木を切ったんだよな?


「行商人さん達が何を食べるかわからんが、俺達の町の者が食べる飯だ」


「そういえば、食べ物は貴重なんですよね? 宇宙海賊から、食料を盗んだとか……」


「行商人さん、それは違う。宇宙海賊が、勝手に森を荒らしたから取り返したのだ。木の実は動物なのに、奴らは食おうとしたからな」


(あっ、お頭さんは、松ぼっくりだもんな)


「たぶん、植物の星の常識を知らないんですよ。僕達も、わかっていませんし」


「でも行商人さん達は、森から何も奪ってない。何の声も聞こえないからな」


(えっ? 声?)



 すると、お頭さんの護衛っぽい人が口を開く。


「行商人さん達が、森でテントを張ったことは、森の精が伝えてきたんですよ。お頭が、ここに貴方達を連れてきたのは、アイツに引き合わせたかったからだと思います。お頭は、引きちぎられた木の実の声しか聞こえないから」


(試されていたのか。アイツって……あの大男?)


「僕達は、他の星に行くときは、食料は持っていくんですよ。食べ慣れた物の方が、旅先では良いので」


「そうですか。まぁ、遠慮なくどうぞ。それは草ですから、我々の食料です」


「はい、いただきますね」


 彼らの視線を感じつつ、僕は、深皿に入った不思議な物にスプーンを入れた。ドロドロとしたお粥のようにも見える物体だ。


 口に含むと、生ぬるいドロリとした食感に一瞬戸惑ったけど、味はそれほど悪くない。オートミールに近いのかな。


「初めて食べましたけど、穀物でしょうか?」


「おっ、食べられるんだな。宇宙海賊の大半は、食べられないみたいだけどな。皆、口に含むと吐くんだ」


(確かに……僕も一瞬やばかった)


「たぶん、この温度が苦手なんですよ。僕も、この味なら、もっと冷たい方が食べやすいです」


 僕が目配せをすると、城兵達も食べ始めた。皆、一瞬吐きそうになってる。だけど、2口目は大丈夫みたいだ。



「じゃあ、冷やして食うといい。魔法を使えるんだろう?」


(これも、試されてる?)


 この店に入ってからは、お頭さんは強気なんだよな。自分のテリトリーだから安心なのかもしれない。


「では、そうさせてもらいます」


 僕は、城兵達の皿に触れ、わずかな闇を媒介として氷魔法を使う。その様子を、さっきの大男からスルスルと伸びてきた小さな花が見ているようだ。わざわざ、魔法が使えるかを確認しに来たのかな。



「そちらの人は、自由に茎を伸ばすことができるんですね」


 僕は、冷やした不思議なお粥のような物を口に運びながら、お頭さんに話しかけた。


「あぁ、根切り男だからな」


(意味不明なんだよね)


「さっき、お頭さんの護衛の人が言ってましたけど、僕を根切り男さんに会わせたかったんですか?」


 そう尋ねると、お頭さんは、緑頭の大男に視線を移し、何か目配せをしている。いや、念話かな。



「根切り男は、処刑人なのだ。だから、すべての犠牲になったモノの声を聞くことができる。行商人さん達が、この星に害がないことを確認する必要があった」


(やはり、試されているのか)


「処刑人ということは、僕達が有害なら処刑するということですか?」


 そう尋ねると、お頭さんは一瞬呆けた顔をした。話が難しかったのだろうか。そして、助けを求めるように、大男の方を向いた。でも、彼の理解力は、お頭さんより低そうだけど?



「おまえタチ、いや、オマエだけダ、ワレとおなじだナ」


(はい? 同じ?)


「えっと、根切り男さんと僕が同じなんですか?」


「あぁ、ソうだ。ワレは、しんでもいきカエる。アンデッドのおうダ。バナバナは、ワレから、はなをさかせル」


「えっ? 女神バナバナ様の……ええっ!?」


 僕が驚いていると、大男は嬉しそうに顔を歪める。見えた鋭い歯には、緑色の液体がついていて不気味だ。さっきのバケモノよりはマシだけど。



「行商人さんに、身分を明かしたということは、信用できるということだな?」


 お頭さんは、大男に念押しをしている。


「あぁ、ワレとおなじ、アンデッドのおうダ。どうぶつのアンデッドは、よわいガ、おまえはマシだナ。ワレにちからをかせ。ミズがじゃまで、そうじができナイのだ」


「えっ? 掃除?」



 ギギギッと扉が開いた。


「あっ、ククク、かなりやらレタな。しろイめがみ」


「うるせー、さっさと治せ! 根切り男!」



水木金お休み。

次回は、1月21日(土)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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