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8、ハロイ島の草原 〜迷子の宇宙船

「おぬしらのせいで、わらわの浴衣がどろんこになってしまったのじゃ」


 猫耳の少女は、草原に転がっている宇宙海賊を名乗る5人の男達を見下ろして、袖に付いた泥を必死に見せているようだ。


 だが男達の方が、全身どろんこだ。


「いや、だが、あの……」


 彼らは、猫耳の少女が一瞬で泥沼を草原に戻したことで、混乱しているらしい。こんなことは、子供の獣人にできるようなことではないからだよね。


「お嬢さんは、もしかして魔王の娘とか……」


「この星なら、大魔王か。大魔王の娘じゃないか?」


 彼らは、不安げにそんなことを言っている。猫耳の少女の素性によって、態度を変えるつもりかもしれない。


「は? なぜわらわがあんな陰険で陰湿で冷徹で性悪な大魔王メトロギウスの娘なのじゃ? 妾は、女神の猫じゃ。そんなことより、ほれ、見えておるか? 浴衣がどろんこなのじゃっ」


(ボロカスだな……)


 泥汚れの付いた袖を見せつけるという、猫耳の少女の謎の威嚇にビビる彼ら……。いや、少女が、大魔王様のことをめちゃくちゃ言っていることに、ビビっているのかな。


 女神様は、地底の魔族の国を統べる大魔王メトロギウス様とは、仲が悪いことで有名だ。だけど、似た者同士だとも言える。似ているから仲が悪いのだと、僕は思っている。



「女神イロハカルティア様の……猫? さま?」


 猫耳の少女は、ふわふわと浮かんだまま、袖の泥汚れを全員に見せて回っている。いつも、こんな説明をするから、女神様の飼い猫だと誤解されるんだよな。


 女神様いわく、女神の猫バージョンってことらしいけど、はっきり言って、そうは聞こえないよね。


「そんなことより、このどろんこな浴衣をどうするのじゃ。祭りができないではないか」


(わざと絡んでるよね)


 浴衣の泥汚れを魔法で洗って乾かすことは、魔法の得意な人なら、チビっ子でも一瞬で出来る簡単なことだ。赤の星系の宇宙海賊には、そんな能力はないだろうけど。



 チラッとリュックくんに視線を移すと、海賊らしきコスプレをした彼は、冷ややかな目で女神様を見ていた。リュックくんも、女神様とは仲が悪いんだよね。


 リュックくんは、女神様が魔力で作り出した魔道具『リュック』から進化した魔人だ。だから、女神様と性格がすっごく似てるんだ。


 僕の左肩には、いつも『リュック』の肩ひもが巻き付いている。僕は、『リュック』の肩ひもだけを背負っている状態だ。リュックくんは、食事やポーションなどで回復することはできない。僕の魔力を吸って生きているんだ。


 だから、生みの親は女神様で、育ての親が僕になるのかな。リュックくんは、僕の魔力を吸収して進化してきた。僕が死ぬと、彼はエネルギー供給源を失うことになる。いわゆる運命共同体みたいな存在なんだけど、それ以上に強い信頼関係があると、僕は思っている。



「そんな泥は……俺達の方が……」


「着ている物は、洗えば……」


 宇宙海賊の彼らは、返事に困っているようだな。だけど、僕も余計なことは言えない。女神様は、絶対、何かを彼らにやらせる気だ。



「妾の浴衣をどろんこにした罰として、おぬしらは、迷子の宇宙船を探すのじゃ! ハロイ島にあるはずなのに、無いのじゃ」


(あれ?)


 宇宙海賊に盗まれたと、騒いでいたんじゃなかったっけ? 今、ハロイ島に宇宙船があると断言した? 女神様は城に戻って、宇宙船を探したはずだ。その結果が、ハロイ島?


 僕は、『眼』のチカラを使って、ハロイ島をサーッと見渡した。邪魔な障害物を透視して探してみたけど……無い。



「宇宙船? それなら、星のゲートの向こう側の……」


「ちがーう! 宇宙船の旅をするために特別に造った観光宇宙船じゃっ。この草原に、どどーんと置いてあったのじゃ」


 猫耳の少女は、身振り手振りで、巨大な宇宙船だと表している。


「そんな大きな物を隠す場所といえば、海の中しかないんじゃないか」


「この島の周りは、海に囲まれているようだしな」


(確かに、そうだよな)


「のわっ!? 海の中までは探しておらんかったのじゃ。おぬしらが宇宙海賊なら、迷子の宇宙船くらい、簡単に探せるのじゃろ?」


 猫耳の少女の挑発的な笑みに、宇宙海賊の彼らは、カチンときたのか、イラついた表情を浮かべている。女神様は、挑発の天才なんだよな。


「そんな巨大な宇宙船なら、余裕で見つけられるが……」


 彼らとしても、ただでは仕事はできないのだろう。泥をつけた罰だと、猫耳の少女が騒いでも、女神様の飼い猫だと思い込んだ彼らとしては、少女に従う理由はないのかもしれない。



 僕に、ワープワーム達からの映像が次々と届いた。


(うん? 海の中でもないよな)


 宇宙船が消えた瞬間の映像も届いた。確かに、空中にフワリと浮かび上がり、その数秒後には跡形もなく消えている。


 女神様が気づいて、わめき散らしている様子が見える。ワープワームは、音を送ることはできないけど、猫耳の少女が子供達と一緒に摘んでいた花を放り投げていることから、だいたいの予想はできる。


 宇宙船が消えた瞬間を、海の方から映した映像も届いた。次々と届くどの映像にも、海の中に巨大な宇宙船が沈む様子は映っていない。そもそも、そんな不自然な波もない。


(もう一度、消えた瞬間を見せて)


 僕がそう念じると、宇宙船が消える瞬間の映像が届く。いくつかの角度から映したものが、次々と送られてきた。


 宇宙船は、勝手に消えたようにしか見えない。誰かが近寄ったわけでもないし、ただ、忽然と消えたのだ。


(その少し前の映像はある?)


 そう尋ねると、宇宙船の飾り付けをしている映像が流れてきた。前方の窓には、子供達によって、色とりどりの紙テープが貼り付けられている。


 搭乗口付近では、猫耳の少女が数人の子供達と一緒に、大きな筆でペイントしているようだ。あれが、肉球かな。搭乗口には、大きな足跡、そして、機体のあちこちに、搭乗口に向かって歩いたかのような、小さな足跡が描かれている。


 子供達が描いた絵に、猫耳の少女は何かの魔法を使って、足跡が立体的に見えるように仕上げているみたいだ。


 女神様が搭乗口の仕上げをしているときに、花を持った子供達が何か話しかけている。すると猫耳の少女は、子供達と一緒に花を摘むために宇宙船から離れた。


 それからしばらくすると、宇宙船が空中に浮かび、スッと消えたようだな。


(謎すぎるよね)



 目の前に、キリッとした顔のワープワームが現れた。この個体は族長さんだな。ほとんどの奴らはヘラヘラしているから、一目瞭然だ。


『ライトさま、われわれにも、きえたりゆうが、わかりません』


「族長さん、ティア様でさえわからないんだから、当然だよ。でも、さっき、このハロイ島にあると言ってたんだ」


『はい、めがみさまは、われわれにも、たずねられました。ですが、どこにも、みあたりません』


「こういう謎解きが好きな人と言えば……サラマンドラの魔王サラドラさんかな?」


『では、サラドラにつたえます』


 そう言うと、族長さんはぺこりとお辞儀をして、スッと姿を消した。地底のワープワームの棲家は、魔王サラドラさんの領地にあるから親しいみたいだ。というか地底では、ワーム神と呼ばれている奴らの方が、なんだか偉そうにしてるんだけど。




「ライト、こやつらに見張りをつけるのじゃ!」


 猫耳の少女は、何を言ってるんだろう? ワープワームの映像を見ていて、僕はその直前の話を聞いてなかった。


「ティア様、どういうことですか?」


「こやつらは、移民なのじゃろ? 脳筋の宇宙海賊をウロウロさせるわけにはいかないのじゃ」


(あぁ、護衛ということか)


「そうですねー、僕も宇宙海賊のことを知りたいから、僕が、彼らの住居の世話をしましょうか」


 僕がそう言うと、宇宙海賊の5人の表情は凍りついた。あっ、闇の回収を忘れていたな。僕は、辺りに薄く漂わせていた闇を回収した。だけど、まだ、彼らの表情から絶望感が消えない。



「あー、それなら、オレが預かってやる。おまえらみたいな弱い宇宙海賊は、すぐに殺されそうだからな」


 リュックくんがそう言うと、彼らは表情を輝かせた。僕は嫌でリュックくんなら嬉しいわけ? まぁ、リュックくんは、魔人だということも秘密にしているみたいだけど。


「はい! 是非!!」


 まさかリュックくん、自分の宇宙海賊団を作ってるんじゃないよね? そう考えると、彼はスッと目を逸らした。


(怪しい、怪しすぎる)



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