7、ハロイ島の草原 〜キャプテンアール?
本日より再開します。
「のわっ!? 妾のお気に入りの浴衣に、どろんこ沼のどろんこがペッチャリと……うぬぬぬ」
宇宙海賊を名乗る男達がバタバタと暴れるから、跳ねた泥が猫耳の少女の浴衣の袖についてしまったようだ。
(なぜ、防御しないんだ?)
女神様は、防御系の魔法は得意だ。なのに、わざと被害者になりたいかのような……まぁ、策略家というか腹黒だもんな。
僕が、5人の男達に視線を移すと、彼らはピタリと動きを止めた。辺りに漂わせている薄い闇に、畏怖の効果を乗せているためもあるだろう。
「ヒッ、女神の番犬は、城に居るんじゃないのか」
一部が泥沼化してしまった元草原に転がる彼らは、僕にビビりながらも、ある意味、覚悟を決めたらしい。彼らのいさぎよい態度は、好感が持てる。精霊ヲカシノ様も好きだろうな。
「青の神ダーラを殺すチカラのある番犬にやられたなら、俺達としても、地獄で鼻が高いぜ」
(誰も殺すなんて言ってないよ)
負けたら殺されるという世界で生きてきた種族なのかな。そういえば、こないだケンカして負けた観光客が、同じようなことを言ってたっけ。これが、赤の星系の人達の常識なのかもしれない。
「キミ達、僕の話を聞いていましたか? この星イロハカルティア星のルールに従うなら、移民としてハロイ島で受け入れますよ」
僕は、なるべく穏やかな表情で、そう話した。闇を回収すると逃げられる可能性があるから、薄い闇はそのままだけど。
「俺達は、おまえの奴隷にされるのか? そんなことなら死んだ方がマシだ」
頭にオレンジ色の羽飾りをつけた男が、吐き捨てるようにそう言った。彼がリーダーなのだろうか。
「赤の星系の宇宙海賊くん、ライトさんの配下になんか、なれるわけないよ。あまりにも力不足だよ〜」
精霊ヲカシノ様が、彼らをからかっているのか、ニヤニヤしながら失礼なことを言っている。
「なんだと!?」
「おまえのようなガキに……あん?」
彼らは、少年の姿に変わった精霊ヲカシノ様のことがわからないのか、キョロキョロと辺りを見回している。そんな彼らの様子を見て、精霊ヲカシノ様はクスクスと笑ってるんだよね。
「ライトさんの配下は、人の姿をしているのは二人しか居ないよ〜。たくさんの天使ちゃん達がいるから、もう配下枠は無いみたい」
精霊ヲカシノ様の説明を、彼らは完全にスルーしているようだ。見た目が少年だからかな。そして、ふわふわと浮かび、泥で浴衣が汚れたアピールをしている猫耳の少女のことも、彼らの目には入ってないようだ。
そんな彼らをニヤニヤと見つめる二人……。
女神様は、今、なぜか、自分をかよわく見せる遊びにハマっているらしい。いざ、戦闘になったときに本来の力を発揮して、ドヤ顔するんだよね。
以前までとは違って、この1年程は、女神様は随分と戦闘訓練をしているようだ。黄の星系の創造神が弱い妖精だ、というイメージを払拭したいみたいなんだよな。
それなのに、以前以上に弱いフリをしている。謎すぎる思考回路だ。あっ、あの泥汚れも、弱いフリの演出の一つなのかもしれないな。
「クソッ! なぜ……」
彼らは、悔しげに頭を抱えた。彼らの視線は、猫耳の少女に向いて……ありゃ。
「おまえら、何をしてんだ? 星の門が渋滞してるじゃねーか。戦闘狂、ちゃんと仕事しろよな」
(何のコスプレ?)
黒いマントに黒くて大きなキャプテンハットを身につけた銀髪の男が現れた。なぜか右目に黒い眼帯、そして左頬に大きな傷跡を付けている。白シャツに黒い革のパンツは、いつもの通りだ。
「のわっ!? 何をするのじゃ! 帯がほどけるではないか! しょぼいのじゃっ、しょぼいのじゃ!」
猫耳の少女の浴衣の帯をむんずと掴んだ彼は、バタバタと暴れる少女を面倒くさそうな目で見ている。でも、女神様が名前を言わないということは、僕も呼ばない方がいいかな。
「なぜ、キャプテンアールがこんな……そうか、やはり黄の星系の創造神の星に、アジトを構えているのだな」
宇宙海賊を名乗る男達は、銀髪の男をキャプテンアールと呼んだ。そして、さっきまでとは違って、なんだかギラギラしてるんだよな。殺せと言っていた人達とは思えない。
(やっぱりね〜)
こういう宇宙海賊とかっていう変なもの、絶対にリュックくんは好きだと思ったんだよな。それに、キャプテンアール? 怪盗ごっこをしていたときは、確か、怪盗アールだったっけ。
「おまえらが、イロハカルティア星に来たのは、アジトのためか? 湖上の街の街長に言って移住の手続きをすれば、ハロイ島ならどこでも住めるんじゃねーの?」
リュックくんは、僕の方をチラッと見てそう言った。さっきから僕が、彼らにそう説明していたことを聞いていたはずだよね。
(あぁ、他人のフリかな)
「そう説明したんだけど、彼らは、僕の奴隷にされるとか言ってて、信じてくれないんだよね」
「ふぅん、おまえの奴隷になりたいんじゃねーの? 羽飾りってことは、おまえらは、フライングチュー団の生き残りだな?」
リュックくんが何を言ってるのかわからないけど、彼らは、ガクリとうなだれた。当たりらしい。フライングチュー団という宇宙海賊がいるってことかな。
「俺達の団は、壊滅させられた。青の星系に異常に強い宇宙海賊団があって、俺達がアジトを構えていた星ごと潰されたんだ。3つのどの星系にも属さない中立の小さな星だったのに」
(えっ? 星ごと?)
すべての星には、治める神がいる。星を潰すなんてことは、そう簡単にできることじゃない。
猫耳の少女は、ジタバタするのをやめて、ジッと話を聞いている。いや、彼らの思考を覗いているのかな。
どの星系にも属さない中立の星が潰されたということは、女神様にとって、聞き捨てならないことだろう。弱い神が治める星を守りたくて、女神様は黄の太陽系を創造したんだから。
「青の星系だけじゃねーよ。あちこちに、強い海賊団がいる。そのほとんどは、神戦争で星を失った神がキャプテンをしているぜ」
(えっ? 神が海賊?)
リュックくんの話に、宇宙海賊の5人は目を見開いている。僕も驚いたけど、女神様はジッとしているんだよな。リュックくんから、既に話を聞いていたのか。
「そんな……神がキャプテンをしてるなら、俺達が敵うわけない……」
「星を失った神は、たいした脅威じゃねーよ。厄介なのは、治める星があるのに、宇宙海賊に紛れている神だ。宇宙海賊のフリをして、あちこち侵略してるんだぜ」
(えっ……何だ? それ)
「なぜ治める星のある神が……」
リュックくんは、嘘はつかない。だが彼らは、信じられないという表情だ。僕も、信じられない。
「星を潰したのは、間違いなく、神がキャプテンをしている宇宙海賊団だ。星を失った神の逆襲なら、まぁ、わからないでもないが、治める星のある神の仕業なら、これは、別の意味での神戦争だぜ」
「あぁ……もう、終わりだ……」
彼らは、泥沼化した地面に、大の字になって寝転んでいる。
「ヲカシノ! さっさと草原を直すのじゃっ。妾が降りられないではないか」
突然、猫耳の少女がバタバタし始めた。事情把握が終わったみたいだな。
「ティアちゃんの方が得意なんじゃないの〜?」
(確かに)
女神様なら、一瞬で元の草原に戻せる。だけど……。
「妾は、浴衣を着ておるのじゃぞっ? 動きにくいから、そんなことはできないのじゃっ」
(街を爆走していたのに?)
リュックくんに捕まってしまった言い訳なのかもしれないな。そう考えた瞬間、女神様のジト目が……。うん、間違いなく言い訳だね。
「仕方ないな〜」
精霊ヲカシノ様は、ふわりと宙に浮かぶと、柔らかな光を放った。なんだか甘い香りがするんだけど……。
「おわっ!? 飴の草じゃなくて、普通の草にするのじゃっ! ヲカシノは、しょぼいのじゃっ!」
リュックくんの手から逃れた猫耳の少女は、ピューっと強い風を起こした。甘い香りの草原は、元の草原へと姿を変えたのだった。
皆様、序盤で止まってしまい、長らくお待たせしてすみません。本日より、再開します。
ただ、まだ治まっていないので、しばらくの間、更新頻度を変更させてもらいます。週6予定でしたが、水曜日木曜日もお休みをいただき、週4で更新したいと思います。
どうぞ、よろしくお願いします。




