60、女神の城 〜行商人の制服?
「はぁ、もう、ライトくん、叱ってやって〜」
猫耳の少女が姿を消すと、ナタリーさんは大きなため息をついた。だけど、ナタリーさんに止められないなら、僕には不可能だ。
「ナタリーさん、さすがに僕では役不足です」
「ふぅ、仕方ないわね。だけど、イロハちゃんが行く気になったのは、天使ちゃん達の映像を見たためなの。それまではアプルゴルド星のお土産を配りに、地底に行くと騒いでいたのよぉ」
(あ、竜紐を見せに行きたいんだよな)
「そうですか。それを後回しにしてまで行く気になったのは、なぜなんでしょう? 誘拐犯のいるのがどの星なのかは、もともと調査済みだったんですよね?」
「ええ、アジトの星がわかったから、ジャックくんの兵は先に行ってるのよ。もう、着いているはずだわ」
ジャックさんは、ワープワームの支配権がないから、女神様の転移魔法だろう。めちゃくちゃ揺れて酔うんだよな。他の星までの転移なんてしたら、僕なら気絶して数日は目覚めない自信がある。
「あの映像に映る子供を見たからやろ」
タイガさんがそう口を挟んできた。確かに子供好きな女神様は、ジッとしていられなくなったのかな。
ってか、ワープワームからの映像は、タイガさんも見たのか。あぁ、それで2階の踊り場に、みんなが集まってたんだな。おそらく白壁に映像を映していたんだ。
「そうねぇ、確かにチグハグだったものね。映像に映る女の子達は、学校入学前に見えたわ。5〜6歳の子ばかりね。だけど、武術学校を襲撃したでしょ? ということは、誘拐した5〜6歳の女の子の中には、奴らのターゲットがいなかったってことよ」
(はい? ターゲット?)
そういえば、ローズさんは、学校に入学する前の女児ばかりが消えていくと言っていたっけ。だけど、僕が目撃したのは、武術学校での誘拐事件だ。
「もしかして、そのターゲットって……」
「ええ、アマゾネスの王女デイジーちゃんだろうと予想できるわ。デイジーちゃんは、年齢のわりに背が低いから、デイジーちゃんと同じ身長くらいの女の子を誘拐していたのよ。奴らには、顔の違いは識別が難しいらしいわ」
(やはり、デイジーちゃんか……)
「1年前にも、デイジー王女を狙って、あれこれ来てましたよね」
「あらっ、ライトくんは、チビっ子だったのに覚えてるのね。あーん、小さなライトくんって、ほんとかわいかったわぁ〜」
ナタリーさんは、何を思い出しているのか、恍惚とした笑みを浮かべている。放っておこう。
「それで、女神様が行く気になったんですか。デイジー王女を狙う他の星の者といえば、他の星系の神が関わってくるから?」
「ライトくん、たぶん正解よぉ。だけどイロハちゃんってば、なぜ行商なのかしらぁ? 誘拐犯のアジトにポーションを売りに行くつもりなの?」
(そんなことを聞かれても、知らない)
「どんな星かは知らんけど、宇宙海賊のアジトが複数あることは明らかや。金を持ってるやろから、がっぽり稼ごうとでも考えたんちゃうか? 知らんけど」
「タイガ、知らないなら、適当なことを言わないでくれるかしら?」
「は? だれもどんな星かは知らんやろが。何を言うとんねん」
「知らんけどって、二度も言ったわよね? 最近、リュックくんまで、いい加減な発言が増えたのよ。悪影響を与えないでくれる? リュックくんの話が事実か冗談か、わからないじゃない」
(あー、あの口癖か)
「ババァは、そんなことも判断できへんのか。リュックは、魔人として話すときには、嘘はつかへんやろ。宇宙海賊としてなら、言葉の駆け引きがあるやろけどな、知らんけど」
タイガさんは、わざと知らんけどって言ってる気がする。それをリュックくんが面白がって真似るんだよね。
ナタリーさんは、タイガさんをキッと睨み、僕に視線を向けた。嫌な予感がする。
「ライトくん、この脳筋バカも連れて行ってくれるかしら? イロハちゃんが行くなら、誰かが守る必要があるわ」
「えっ? タイガさんもですか? 僕としては助かりますけど、タイガさんは城の守護が……」
「天使ちゃん達がいるんだもの。もし、ここが襲撃されたら、すぐにタイガは戻せるでしょ?」
「いや、たぶん、数十分かかりますよ?」
「タイガの転移魔法なら、その何倍も時間がかかるわ。星間の転移魔法は、膨大な魔力が必要だから、魔力が減っていると転移できないもの。でも、天使ちゃん達がいるから大丈夫よぉ」
ナタリーさんは、僕が支配権を持つワープワームに絶大な信頼感を持ってくれている。だけど、そこまで万能じゃないと思うけどな。
族長さんが居ないと、ワープワームは様々な能力をフルに発揮できない。でも、アイツらは弱い火の魔物だ。危険な場所に、族長さんを連れて行くわけにはいかないからな。
「でも、女神様のことなら、僕が守りますけど」
「ライトくんは、城兵を連れていくんだから、その長としての仕事があるじゃない。ジャックくんも同じでしょ? だから、イロハちゃんのお世話係が……」
「俺が、ライトの忍者部隊の指揮官をしたるわ。腹黒ババァの世話なんか、俺にできるわけないやろ。あほちゃうか」
「脳筋に、隠密部隊の指揮ができるとは思えないわ」
「何を言うとんねん? 俺はライトと同じく日本人やったんやで? 俺もライトも忍者の子孫なんや、知らんけど」
(確かに、知らないよね)
でもナタリーさんは、語尾の知らんけどは無視しているようだ。意外そうな顔をしている。なぜか納得したかのように、軽く頷いた。
ちょっと待って。僕のご先祖様は忍者とは無関心だと思うよ。ってか、なぜ隠密部隊から、忍者という発想になるんだ? リュックくんが聞いたら、宇宙海賊の次は忍者ごっこを始めそうなんだけど。
「俺としても、タイガさんが一緒だとありがたいっすよ。女神様が来るとなると、ライトさんが振り回されるから、二つの城兵を俺一人で指揮するのは、厳しいっす」
ジャックさんがそう言ったことで、タイガさんに関する話し合いは、決定的となった。
「じゃあ、タイガも行ってもらうことにするわ。ライトくん、天使ちゃん達の輸送人数ってどれくらいまでなら可能かしら?」
ナタリーさんは、僕が担当する兵の方に視線を向けた。ここにいる全員は、当然余裕だ。
「その星の状態にもよりますが、マナの乱れがないなら、兵全員の移動は問題ありません」
「行くときの話じゃなくて、帰ってくるときよぉ。誘拐されている女の子達は、一度で移動できるかしら? 厳しいようなら、イロハちゃんが行く意味はあるわね」
(あぁ、ワープワームと転移魔法の併用か)
「誘拐されている女の子達は、どれくらいいるのですか?」
「アマゾネス国からは、15人くらいだと報告を受けたけど、映像で見た限りでは、その3倍はいたわよね?」
(そんなにいたかな?)
「その数なら大丈夫です。兵を含めても100人には届かないでしょうし」
「じゃあ、イロハちゃんは不要ねぇ。はぁ、まぁ、仕方ないわね〜。ジャックくんの兵は、新たな誘拐の抑止、そしてライトくんの兵は、女の子達の救出、ライトくんはイロハちゃんの見張りって感じで、お願いするわ〜」
「はい、了解です。じゃあ、みんな、準備をしてきてくれる? 各自、数日分の非常食と水を忘れずに。誘拐されている子に与える可能性も考慮してください」
僕が兵に指示を出すと、彼らは瞬時に姿を消した。そこまで急がなくてもいいんだけど……まぁ、テキパキした行動は大事だね。
◇◇◇
居住区で買い物を、そして妻のアトラ様に連絡をしつつ集合場所に戻ると、集合時間にはまだ早いのに、兵は既に戻ってきていた。
(何してんの?)
そんな兵に、何かを配っている猫耳の少女。
「女神様、何をしてるんですか?」
「うむ? 行商人の制服を配っておるのじゃ。ライトも、ほれ」
ポーンと放り投げられたのは、制服というより、白いダウンジャケットのような物だった。広げてみると、背中には『伝説のポーション屋』と黄の星系の共通語で書かれている。
(恥ずかしいよね、これ)
「ふぅん、クマに、こんな物を作らせとったんか。着ると身体に合わせてサイズが変わるんか。なかなか良い感じやないけ」
タイガさんもジャックさんも、ダウンジャケットを着ている。二人はカッコいいから、何を着ても似合うけど……。
「あら、ライトくん、かわいいわね。女の子に見えるわぁ」
(なぜそうなる?)
「妾もかわいいじゃろ? 天使ちゃん達を呼んで、行商に出発じゃ!」




