59、女神の城 〜作戦会議
女神様の城の中へ入っていくと、タイガさんが暇そうに階段に座っているのが見えた。階段を上がった2階には、女神の番犬と呼ばれる側近が集まっているようだ。
(ジャックさんとナタリーさんがいない)
ナタリーさんは、女神様の代行をさせられているから、もしかすると仕事中かもしれないな。
ジャックさんは、どうしたんだろう? 女神様の側近の中では、ジャックさんが一番年齢が近くて、親しくしてもらっている。地上での担当も同じ地域だ。
だけど、僕が湖上の街の長をしているから、女神の番犬としての仕事は、ジャックさんにほとんど任せている状態だ。忙しくて、ここに来られないのかもしれない。
僕の姿を見つけたタイガさんは立ち上がり、階段を降りてきた。
「おう、ライト。腹黒ババァは、どないしたんや?」
(相変わらず、毒舌だね)
「女神様は、中庭です。先に入っておくようにと言われ、強制ワープされました」
「はぁ? 突然呼び出しておいて、中庭で何しとんねん?」
「さ、さぁ?」
(さすがに、尻尾で遊んでいるとは言えないな)
「ライトくんも来たわねぇ。イロハちゃんは……居なくていいわぁ〜。みんな、こちらへどうぞ〜」
ナタリーさんが2階の右側の部屋から顔を出して、そう声をかけてきた。ナタリーさんは、最近ずっと女神様の代行をさせられているから、城の居住区では、彼女が女神イロハカルティア様だと勘違いしているチビっ子も増えてきたそうだ。
女神様は、猫耳の少女ティアちゃんとして、昼間はいつも全力で子供達と遊んでいるからな。
案内された部屋には、僕が長を担当している城兵が並んでいた。女神の番犬と呼ばれる僕達8人は、それぞれ自分の城兵を持っている……というか持たされているんだ。
この部屋は、他の星からの客人を招くこともあるから、交代で、城兵が警備している。今日の当番は僕の兵らしい。僕の兵は隠密部隊だから、騎士っぽさがないんだけどな。
「ライトさん! お疲れ様です!」
「キミ達こそ、お疲れ様。今日は、キミ達が内勤当番なんだね」
部隊長にそう返事を返すと、彼は少し微妙な表情をしていた。何か、あったのかな。
「ライトくぅん、今日は、私の城兵が当番だったんだけど、交代してもらったのよ〜」
「ナタリーさん、何かあったんですか?」
「これから、ここで話すことをライトくんの兵にも聞いておいてほしいからなの〜。私の兵は、この城から出られないからね〜」
(うん? 隠密部隊に聞かせたい?)
「ライトさん、俺の兵は、先に行かせてるっすよ」
(あっ、ジャックさんだ。部屋の中にいたのか)
「ジャックさん、えっと、先に?」
「そうっすよ。ライトさんは、アマゾネス国で誘拐犯を見つけて泳がし、アジトを発見してくれたからっす」
(へ? 誘拐犯?)
「もしかして、この集まりって、アマゾネス国の女児行方不明事件について、ですか?」
思わず、大きな声が出てしまった。すると、面倒くさそうな顔をしたタイガさんと目が合った。
「なんや、おまえ、何も知らんかったんか。アマゾネスだけの話ちゃうで。旧帝国側に住む魔族も、見た目が人族に近い種族は同じや。さすがに地底にまでは、行かへんみたいやけどな。そこんとこが、ズル賢いんや」
地底は、魔族の国だもんな。子供を大切にする魔族の国で誘拐なんて、できないだろう。だけど、うん?
「タイガさん、それは初耳です。だけど、あの、誘拐犯って、地底の魔族じゃないんですか?」
「は? 何を寝ぼけとんねん。宇宙海賊が実行役やで? 誘拐犯は、宇宙人に決まっとるやないけ」
「ええっ!? マジっすか」
「おまえなー、天使ちゃんの映像を見たんちゃうんけ? あんな景色が、この星のどこにあるっちゅーねん」
(確かに、不思議な暗い映像だったけど)
「ライトくん、天使ちゃん達が追跡してくれたおかげで、正確な位置がわかったわ。もともと、あの付近だということは調査できてたんだけど、証拠もなくて困ってたのよ〜。これで、誘拐された女の子達を救出に行けるわ〜」
ナタリーさんは、言葉はいつも通りだけど、その表情は険しかった。
(そうか、悪魔族の女の子も……)
「だから、僕の兵なんですね」
「ええ、力ばかりの騎士では無理だからねー。隠匿能力は、必須よ〜。ライトくんの兵は、全員、姿を隠せるわよね?」
「ライトの兵は、忍者やから、余裕やで」
(いや、忍者って……)
「脳筋のあんたには聞いてないわよ」
「は? 何か文句でもあるんか? 俺がせっかく教えてやったのに、何やねん、ババァ」
(また始まった。仲良いよね)
たぶんタイガさんは、ナタリーさんの様子が違うことを察して、落ち着かせようとしているのだと思う。だけど、ナタリーさんは、いつものように反論しないな。タイガさんをキッと睨んでスルーしている。
「ナタリーさん、僕の兵は、隠密部隊ですから大丈夫です。でも、その反面、あまり強くはないですよ?」
「だから、ジャックくんの兵に先に行ってもらったのよ。まずは、星の調査も必要だからね。ジャックくんの兵は、目立つから、それを活かしての任務よ」
(うん? 目立つ?)
「確かに、ジャックさんの兵は強いですけど、目立つからですか?」
「そうよ〜。ジャックくんの兵は、一番、顔バレしてるわ。イロハカルティア星から来たと、まるわかりよ〜」
ナタリーさんの話が、僕には理解できない。まるわかりだとマズイんじゃないの?
「えっと、顔バレしているジャックさんの兵が、いいのですか?」
「うふふ、ライトくんは、そういう駆け引きはしないものね〜。ジャックくんの兵が行くと、誘拐犯はどうするかしら?」
「えっと、たぶん、見つからないようにと、アジトに引きこもりますよね?」
「そうでしょ? みんな、アジトに集まるわよね? そしたら、捕まえやすいじゃない? それに、牽制の意味もあるわ。イロハカルティア星から女神の城兵が調査に来たとなると、新たな犯行はできないわよね?」
「おぉ! なるほど、確かに牽制になりますし、一網打尽にできそうですね」
僕は、そんな戦略のようなことは考えることがないから、ナタリーさんの案に感動していた。さすがだな。
「確かに、ライトさんが動けば、それで女の子達は救出できるかもしれないが、根本的な解決にはならないですよ。アジトを変えて、同じことが行われるだけだ」
旧帝国側を担当しているオルゲンさんは、渋い表情で反論した。彼は規律にうるさい完璧主義者であり心配性な面もある、真面目な人だ。
「オルゲンくん、でも、今、誘拐されている女の子達は、救出を待っているわ。まるで家畜のように扱われているのよ?」
ナタリーさんの言葉に、オルゲンさんはうつむいてしまった。一度で解決したいという彼の考えもわかるけど、僕としては、今、救出を待っている女児を救うことが最優先だと思う。
「わかりました。では、ナタリーさんの案で。俺の兵は、ジャックさんとライトさんの部隊の穴埋めのために、王国側に回します」
オルゲンさんが折れたことで、話し合いは決着した。
「じゃあ、ジャックくんとライトくんは、現地に向かってくれるかしら? ライトくんの兵もね」
(現地って、どこ? まぁ、アイツらに任せればいいか)
「ナタリーさん、移動はワープワームを使えば良いですよね? 中継が必要な距離ですか?」
「うーん? どうかしら? こないだアプルゴルド星に行ってたわよね? 方角は逆だけど、距離的には、アプルゴルド星よりも近いわ」
「じゃあ、中継無しで行けますね。すぐに準備をして、1時間後に出発、できるかな?」
兵の方を向いて尋ねると、皆、うんうんと頷いている。ジャックさんの兵なら、皆、敬礼するんだけど、僕の兵には敬礼は禁止している。特別な理由はないけど、単純に、僕がその方が居心地が良いからだ。
「相変わらず、ライトの兵は、ほんわかしておるのぅ。心配じゃから、妾も行くのじゃ」
(はい?)
いつの間にか、僕の真横に立っている猫耳の少女。
「イロハちゃん、ダメよ〜。遊びじゃないのよ?」
「当たり前じゃ! どうせ、アホのダーラが、美少女誘拐犯に決まっておる。アホのダーラの腰巾着をギッタンギッタンにしてやるのじゃ!」
「イロハちゃん、怒るわよ?」
「ナタリーは、いつも怒っておるではないか。もう、慣れっこなのじゃ」
(こりゃ、ダメだ)
ナタリーさんは、僕に何か言えと合図してくる。
「女神様は、妖精族ですよね? 大規模な戦闘になるかもしれませんよ」
「ライト、そんな言い方では効かへんで。腹黒ババァは、くっそ弱いから邪魔になるんや」
(タイガさん、ひどっ)
「ふふん、妾は、強くなったのじゃ。そんな心配は要らぬ。ライト、ポーションの行商に行くぞ。ほれ、早く準備をするのじゃ」
(はい? 行商?)
反論する前に、猫耳の少女はスッと姿を消した。




