6、ハロイ島の草原 〜ゲージサーチ
宇宙海賊を名乗るひとりが、炎を纏った剣を振り回す。ただ、それだけのことで、星の門付近の草原は炎に包まれた。
「ククッ、今さら後悔しても遅いぜ」
剣を振り回した彼らは炎に耐性があるのか、余裕の笑みを浮かべている。これだけで、もう勝ったつもりらしい。
(舐められてるのか)
あらかじめ闇を放出しておいた僕は、やわらかな笑みを返した。冷たい闇で炎を消してもいいんだけど、それでは甘いかな。
赤の星系の人の感覚は、地底に住む魔族と似ている。力こそ全て、という脳筋的な考えだ。ある意味、あっさりとしているし、わかりやすくていいんだけど。
青の星系の人達は、逆に根に持つタイプが多いんだよな。プライドが高すぎるのかもしれない。
「後悔するのは、キミ達じゃないかな? キミ達は、イロハカルティア星の草原に火を放った。女神イロハカルティア様が怒ると思いますよ」
僕の反論が負け惜しみだと感じたのか、彼らはさらに表情をゆるめている。精霊ヲカシノ様の能力をサーチしたんじゃないのかな? あー、ヲカシノ様は、ダミーのステイタスを見せたのかもしれない。彼は幻を見せるのが得意だ。
「黄の星系の創造神が地上に降りてこないことは、誰でも知っている。くっそ弱い妖精族だろう? 地上に降りてきたら、護衛が大変だろうからな」
(女神様を煽ってるのかな)
星の状態を、治める神が常に見ていることは、どの星も同じこと。星の門付近なら、なおさらだ。
「キミ達、熱くないのですか?」
「はん、他の宇宙海賊から奪った魔道具があるからな」
そう言うと、一人が腕輪式の魔道具を見せた。『眼』の力を使って、クマちゃんマークが付いていることを確認した。
(ベアトスさんの魔道具だ)
僕と同じ神族のベアトスさんは、魔道具作りで有名だ。彼の魔道具を買いたくて、この星を訪れる人もいるほどだ。
彼は、のんびりとした性格で、見た目が熊っぽいから、クマというあだ名が付いている。それをマークとしてデザインしたみたいだ。ベアトスさんの工房で作られる魔道具には、かわいいクマちゃんマークが付いているんだ。
「それなら、多少のことには耐えられますね。僕、たまにうっかり殺してしまうことがあるんですよ。でも安心してください。蘇生は得意ですから」
柔らかな笑みを浮かべてそう告げると、彼らの顔は、また赤くなった。ほんと、短気だよな。
「殺されるのは、坊やの方だ!」
彼らは、また同じような連携をして、斬りかかってきた。さっき完全に避けられたことを忘れたのか。
僕は、ダンッと地を蹴り、彼らの方へと跳躍した。落下のスピードを利用して、上から斬りかかる。
「ぐわぁ!」
(あれ? なぜ、受け止めない?)
僕の剣はそのまま、一人の肩を斜めにかすめた。手には、鎧を切り裂いた感覚。まぁ、大した怪我ではないな。
着地した瞬間、横に飛ぶ。
ガッ!
僕の着地点を狙ったひとりが、地面に剣を突き立てた。
ドカッ
僕は、彼の横腹を蹴り飛ばす。
「クッ、うぎゃぁぁあ!」
(あー、自滅だな)
彼は、燃える地面に転がったときに、腕輪式の魔道具を引っかけてしまったらしい。魔道具が外れて、燃える草原の炎に包まれている。
僕は、『眼』の力、ゲージサーチを使った。これは、サーチされているとは気づかれずに、対象者の体力と魔力の減り具合だけを見る能力だ。
彼らは、やはり赤の星系の住人だ。体力のゲージが2本、そして魔力のゲージが1本ある。青の星系なら魔力2本が多い。ちなみにイロハカルティア星の住人は、どちらも1本だ。
(あー、オレンジか)
炎に包まれた彼の体力ゲージはオレンジ色になっていた。色で残量のパーセントがわかる。ゲージサーチでは、数値はわからないけど、戦闘中は便利なんだよな。
ゲージの色は残量が、80%以上なら青、60%以上なら緑、40%以上なら黄、20%以上ならオレンジ、それ未満なら赤だ。そして死亡時は、体力ゲージが黒くなる。
「クソッ! 何なんだ、おまえは。最強のコイツを……」
彼らの動きが止まった。戦士や兵ではないからか、賢明な判断だな。炎に包まれた彼に、ひとりがポーションを飲ませた。
ふわりとミントの香りが広がる。だが、まだ、彼の体力ゲージはオレンジのままだが、火傷は完全に治っている。
(僕のポーションだ)
炎の範囲がさらに広がっていく。だが、そのことで、誰もここには近寄ってこないから、僕は放置していた。
「キミ達、もうやめるの? まだ、何もしてないじゃないか」
「クッ……バケモノだな。わかったぞ! おまえは魔人だろ! 黄の星系の創造神の星には、女神が作り出した処刑人の魔人がいると聞く。そんなバケモノの相手なんかしてられるか!」
彼らは、素早く合図を交わした。
(だが、逃がさないよ)
僕は、辺りに放っておいた闇を変質させた。
「えっ? な、何」
「クソッ、身体が重い」
彼らは、次々と地面に倒れていく。そろそろ炎を消そうか。鎧を切り裂いたひとりは、魔道具を付けていてもキツそうだ。怪我には僕の闇は、しみるだろうな。
僕は、剣を魔法袋に収納し、小さな杖を取り出した。
ついこの前、もらったばかりのドワーフの試作品だ。木の杖に見えるけど、木製ではないらしい。
小さな杖を軽く振り、水魔法!
ドッパーン!
(げっ、難しいな)
草原の炎を消そうと思ったら、巨大なバケツをひっくり返したような惨状だ。僕の服もビショビショだよ。
真っ白な水蒸気で、一瞬、視界が悪くなった。だが、当然、闇は消えていない。
「クソッ、クソッ!」
宇宙海賊を名乗る5人は、ビチャビチャというかドロドロになって、転がっていた。
「ライトさんが斬ったあの人、ヤバそうだよー」
精霊ヲカシノ様にそう言われて視線を移すと、今の水魔法もダメージになったのか、ゲージはオレンジになっていた。オレンジだった人は赤になっている。
「ちょっと回復しますね」
僕は、体力が厳しくなっている二人に近寄っていく。そして、手を半分霊体化し、彼らの身体にスッと入れ、回復魔法を唱えた。
これが、僕の回復方法なんだ。
身体の中に直接、手を入れると魔法効率が何倍にも跳ね上がる。ほんの僅かな魔力で、体力の高い赤の星系の人達でも全回復させることができる。
だけど、もちろん、闇はそのままだ。彼らは身体が重いと言ったけど、ただの軽いマヒ系の術だ。軽い畏怖も乗せてあるけど。
「あ、あぅ、クッ、魔人め!」
「殺すなら殺せ! 魔人のおもちゃになるよりはマシだ」
死にたくないくせに、こんなことを言うのは、彼らのプライドだろうか。
「何を言ってるんですか? 話を忘れたの? キミ達は、移住希望者なんでしょ。僕に勝てなかったんだから、この星のルールに従ってもらいますよ」
「魔人の言うことなんか、信用できるか!」
「中立の星のルールに従えと言いながら、俺達を奴隷にでもするつもりか!」
(うーん、どうしようかな)
チラッと、精霊ヲカシノ様の方に視線を移すと……うん? いつもなら面白がって、後のことを引き受けてくれるのに、微妙な笑みを浮かべているだけだ。
「何をしておるのじゃ! 妾のお気に入りの草原が、どろんこ沼になっているではないか」
(げっ……)
振り向くと、猫耳の少女が、ふわりと空中に浮かんでいた。泥で浴衣が汚れないように浮遊魔法を使っているようだ。
「ティア様、これで火を消そうとしたら、ちょっと……」
「なぜ、ライトが杖なんか持っておるのじゃっ! そんなものを使うから、どろんこ沼になるのじゃ」
「あはは、増幅してしまうのかな」
「闇を漏らしながら杖なんか使ったら、どどーんと増幅するに決まっておるではないか。そこに転がっておるどろんこ沼の住人は、宇宙船を盗んだ犯人じゃな!」
どろんこ沼の住人……彼らが宇宙海賊なのを、女神様は見抜いたのか。いや、コソッと覗いていたのかな。
「宇宙船など知らん! 獣人、その魔人を何とかしろ」
「は? 誰が魔人じゃ?」
「その杖を持つ凶暴な魔人のことだ」
「おぬしは、どこかに頭をぶつけたのか?」
「ぶつけて……クソッ」
「ふむ、頭をぶつけたらしいのぉ。ライトは魔人ではないのじゃ。魔人を従えておるが、ただの女神の番犬じゃ」
猫耳の少女の言葉に、彼らの表情は、みるみるうちに青ざめていく。
女神の番犬、これは女神イロハカルティア様の8人しかいない側近のことを指す言葉だ。
「まさか、青の神ダーラを殺した女神の番犬!? 確か名前がライト……ヒィィ」
彼らは、逃げようとしているのか、バタバタともがいていた。
(ちょ、泥が飛び散るよ……)
金曜日はお休み。
次回は、9月3日(土)に更新予定です。
よろしくお願いします。
【9.3追記】
皆様いつもありがとうございます。
台風のせいか、体調不良により数日休みます。すみません。活動報告に短い理由を書いています。
【9.7追記】
序盤で止まってしまい、申し訳ありません。活動報告に書きましたが、土曜日か日曜日くらいから、更新を再開したいと思います。よろしくお願いします。