56、アマゾネス国 〜あれこれ置いて、失礼します
「わぁっ! 天使ちゃんがたくさん来たわっ」
僕が支配権を持つワープワーム達は、このアマゾネス国の王女デイジーちゃんの周りに集まっていた。へらへらしながら、空中をふわふわと漂っている。
(室内だと、生首っぽさが増すよな)
僕の目には、赤黒いモヤに乗った色白な生首が、ふらふらと漂っているように見える。テニスボールサイズだし、ニコニコへらへらしているから、恨めしさはないけど……。
ワープワーム達は、軟式テニスのゴムボールのように柔らかく、当たっても人間には衝撃はほとんどないようだ。なぜか両腕いっぱいに集めて、キュッと抱きしめる人も少なくない。僕の後輩の闇竜のアダンも、そういう奇行に走るんだよな。
「ライトさん、この城の結界は、天使ちゃん達には通用しないみたいね。まぁ、普通のワープワームとは違うものね」
ローズさんは、アマゾネスの女王が支配権を継承しているワープワーム達を気遣っているようだ。床に大量に集まってきた小人達は、完全に拗ねているみたいだからな。
「ええ、コイツらは、邪神の能力をいくつか吸収していますから、ワープワームという火の魔物とは、少し違う種族に進化しているような気がします」
僕達は、互いにわかっている話をしている。これは、アマゾネス国のワープワームに聞かせるための会話だ。
拗ねていた小人達は、ローズさんに媚びるように擦り寄っていく。イカツイ顔をしているのに、不安でたまらないような表情だな。
「では、この中から30体ほど置いて帰ります。デイジーさん、ティア様からの土産選びは、終わりましたか?」
本当は、ほとんど置いて帰るけど、そう言うとアマゾネス国のワープワーム達がビビるからな。
「ライトさん、リュッくんは私の部屋にも気に入った砂絵を飾ればいいって言ってるよ。城の入り口近くの廊下には、この少し澄ました顔の砂絵がいいかもって」
(やはり相談していたんだな)
砂絵に、どんなチカラが備わっているかは、それぞれ異なるようだ。リュックくんが選んだ砂絵は、おそらくこの城のために役立つものだろう。
ただ、アマゾネス国としてのプライドとか、いろいろなルールがあるから、砂絵の効果は伏せておくつもりだと思う。
そういえば、アプルゴルド星の神都では、あんなに大きな地震があっても建物は壊れなかった。そもそもの建物が頑丈なこともあるだろうけど、各家に、砂絵が飾られているからかな。
「私の部屋は、これにするわ。ニコニコと笑っていて可愛いもの。こんな清純な少年の神様なら会ってみたいわ」
(猫耳の少女は……腹黒だもんな)
「その砂絵は、神都の住人にも大人気のようです。可愛らしい神の絵を見て、ニマニマしている獣人さんもいるようです」
「わかるわぁ。可愛らしいもの。あっ、ティアちゃんも可愛いよ? でも、なんというか、違う種類のかわいさなの」
デイジーちゃんは、慌てて、女神様へのフォローをしている。リュックくんがこんなことを指摘するわけはない。彼女は、女神様が聞いているだろうことを、自ら気づいて話しているんだ。
(ほんと、賢いよな)
まだ8歳にもなってないなんて思えないほど、いろいろな配慮ができる。小さな頃からの教育の成果だろうけど、王国側では、これほどの英才教育は聞かない。小国であるアマゾネス国が、魔族の混在する旧帝国側の大陸で、国として存続し続けているのは、これが理由なのかもしれない。
「ライトさん、こちらの砂絵は、2枚もいただいても構わないのかしら? とても高価だとわかるのだけど」
魔法袋に選ばれなかった砂絵を収納しようとすると、ローズさんから、そんな声がかかった。
(もう1枚欲しいのかな)
ローズさんは、一枚の砂絵をチラチラ見ていた。
「大丈夫ですよ。女神様は、ポーションの売上金を全部土産に替えようとしていましたからね。あっ、よかったら、この部屋にも飾りますか? 神アプルゴルド様は、見た目は性別不明ですし、何より女神イロハカルティア様と親しい神です」
「そうね、確かに性別は不明ね。ライトさんと同じイーシアの民も、幼い頃は性別がわからないけどね」
「僕は、いまだに性別不明だと言われることもありますよ。女性物の服を着るだけで、女性に見られてしまいますし」
「ふふっ、だからね。アマゾネスでも、あまりライトさんへの抵抗感はないみたいなの。アマゾネスは、この星で最も女尊男卑な国だけど」
「それなら、この顔も悪くないですね。ワープワーム達は、僕に擬態した性別逆転の女の子だから、姿を見せても城勤めの方々にも不快感はないかな?」
「天使ちゃんのことは、アマゾネスは皆、好きだと思うわよ。チカラのある女性を崇拝する種族だからね」
(魔物なんだけどな)
僕は、やわらかな笑みを浮かべておいた。こんな場所で、女王に、これは魔物だと反論するのは失礼だよね。
「では、ローズさん、こちらをこの部屋にどうぞ」
彼女が見ていた砂絵を残して、僕は他の物を魔法袋へと収納した。結局、3枚渡すことになったが、これで良いのだと思う。
「えっ? 高価なのに……」
「この部屋の壁の色と合うと思います。装飾品がなくて、少し殺風景だから」
「魔道具と装飾品は相性が悪くてね。誤作動の原因になるのよ」
「この砂絵は、魔力が流れても大丈夫ですよ」
「そう? では、ありがたく頂くわ。どこに飾ろうかしら?」
ローズさんは、砂絵を眺めてニッコリと微笑んでいる。神アプルゴルド様が空を見上げている砂絵は、背景の空が美しく描かれている。人物画というよりも風景画に近い印象だ。
「では、僕は失礼しますね。あっ、ちょっとポーションを置いていって良いですか? 売れ残りなんですが、品質には全く問題はないので、よかったら使ってください。この魔法袋を空にしたいので」
「ええっ? 売れ残り? ライトさんのポーションが?」
これは、もちろん嘘だ。だけど、リュックくんがクリアポーションを大量に置いて帰れと言ってきたんだよね。
いま、アマゾネス国は、あまり金銭的な余裕はないそうだ。度重なる戦乱の影響だろう。だけど、差し上げますと言うと、きっとローズさんは受け取らない。
「そうなんですよ〜。行商に行った先で、クリアポーションの効果のあるプールを作ったので」
「ええっ? クリアポーションのプール? あ、あぁ、湖上の街には、ポーションの足湯があったわね。それのクリアポーション版ってこと?」
「はい、そんな感じです。あの星の住人は身体が大きいので、プールにしてしまいました」
「まぁ、そう。それなら、クリアポーションは売れなくなってしまうわね。でも、店で普通に売ればいいんじゃない?」
(ローズさんは、気づいたか)
「リュックくんが、ポーションの異空間ストックに戻してくれないので、ちょっと置き場所に困ってるんです。魔法袋は、イーシア湖の水を入れるために使いたいんですよ」
「あぁ、なるほど。リュッくんは……ライトさんから離れてるのね。戻るのが面倒くさいからでしょ。ほんと、自由人なんだから」
(あっ、気づいてないね)
リュックくんの話をすると、ローズさんが良い感じに勘違いしてくれた。
「じゃあ、床に出してもいいですか?」
「ええ? そんなにたくさん売れ残ってるの?」
僕は軽く頷くと、謁見の間の床に、クリアポーションを出した。
(あっ、やりすぎかな)
広い謁見の間の床は、小瓶で埋め尽くされた状態になってしまった。ローズさんは、身動きがとれない様子だ。
「ライトさん、さすがにこんな量を……」
「こんな量だから、置き場所に困ってたんですよ〜。ご協力ありがとうございます。あっ、ポーションの代金は、迷惑料と相殺ってことで……僕は、怒られる前に逃げますね〜。調査の経過は随時報告しますから、ご安心ください。では、失礼します」
僕は、悪戯っぽい笑みを浮かべた後、透明化!霊体化! を念じた。
「ええっ!? ライトさんが、この部屋から消えちゃいましたよぉ。天使ちゃん達の能力って、あり得ないです〜」
ミューさんが目をパチクリして、大騒ぎだ。
ワーム神と呼ばれるアイツらでも、魔道具と各種結界が作動するこの場所から、誰かを乗せてワープすることは不可能だ。帰ったと思わせるために、僕は、透明化と霊体化を使ったんだ。
僕は、まだこの場から動いていない。このまま、アマゾネス国の調査をするためだ。ワープワームの大半は、僕の透明化に合わせて透明化している。
「まさか、この部屋からワープされてしまうなんてね……。天使ちゃんの能力は、まさにワーム神ね」
ローズさんの呟きに、デイジーちゃんだけが首を傾げている。だけど、少女に僕を察知する能力はない。
(リュックくんが、バラしたかな)
【12月5日追記】
す、すみません。本日の更新は間に合いません。
今週は、月曜日お休みで、火曜水曜の更新に変更させてください。ごめんなさい。m(_ _)m




