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55、アマゾネス国 〜謎の誘拐事件

 相談事について尋ねると、アマゾネス国の女王ローズさんは、実は、と言いつつ大きなテーブルの……デイジーちゃんの方に視線を移した。


 デイジーちゃんは、お土産の砂絵選びに夢中だ。ときどきニコニコしているから、おそらくリュックくんと念話で会話中だろう。


 その横では、城に仕える白魔導士のミューさんがアワアワと百面相をしている。彼女は、いつも通りだね。




「ライトさん、アマゾネス国の女王として、こんなことを相談すべきではないのですが……」


 ローズさんは、言葉を選びながら話そうとしているようだけど……やはり、女尊男卑のアマゾネス国の女王様だから、男に弱音は吐けないかな。


 女神様が自ら、土産を持って来ようとしていたのは、そんなアマゾネス国の事情を配慮してのことだろう。だけどナタリーさんによって、城に強制送還されたもんな。



「僕は、女神イロハカルティア様の代理で来ていますよ? 僕は男ですが、貴女の伴侶の一人であるリュックくんの育ての親でもあります」


 再び、女神様の代理だと強調し、僕は、敢えて彼女の伴侶であるリュックくんの親だという言葉を使った。アマゾネス国では、女王が伴侶とした者の親兄弟は、女王のために働く義務があると聞く。


「ライトさんは、優しいわね。貴方は、私よりも圧倒的な地位にあるというのに。お気遣いをありがとう」


 ローズさんは、ふわりと微笑んだ。


(もうひと押しか)


「遠慮なく、どうぞ。きっと女神様も聞いておられると思います。防音結界があっても、女神様には聞こえますから」


 女神様は、僕の近くにいるワープワームから、話を聞いているはずだ。ワープワームは諜報能力が高い。そして僕が支配するワープワームは、僕の能力である透明化を使うことができるから、主人である僕でさえ、呼ばないと近くにいるかがわからないほどだ。



「ええ、わかっているわ」


 ローズさんは意を決したように、僕を真っ直ぐに見た。


 彼女の見た目は20代前半に見えるけど、これは後天的に神族になり寿命が延びたためだ。アマゾネス国の女王としての品格と強さを兼ね備えたオーラがある。



「実はね、女児の行方不明事件が多発しているの。アマゾネスは、種族的に女の子が生まれにくいから、一般の住人であっても女児は、とても大切に育てられる。国としても、将来の城勤め候補だから、一定の年齢になれば、武術学校でキチンと教育するわ。それなのに、入学前の女児ばかりが消えていくのよ」


(えっ? 誘拐? なぜ……あっ)


「ローズさん、もしかしてそれって、以前デイジーさんが狙われた件と関係があるのですか?」


 ちょうど1年ほど前、デイジーちゃんが魔人の子供だという噂が、青の星系の神々の間に広がり、彼女を誘拐してクローンを作ろうとするとんでもない動きがあった。


 何人かの邪神は殺して、星に強制的に送り返したが、あれから1年だ。再び、動き始めても不思議ではない。



「それが、わからないの。ただ、アマゾネス国を訪れる観光客らしき中に、女児を誘拐する組織があるというところまでは、母のワープワームで調べたんだけど……」


「デイジーさんには、その組織からの接触はないのですか? 勝手にハロイ島まで一人で来たりしているようですが」


 僕がそう尋ねると、ローズさんはチラッとデイジーちゃんに視線を移し、ハァッと深いため息をついた。


「デイジーも対象になっているかもしれないわ。だから、城の防御を強化したの。客人が来るこの部屋からデイジーの様子を探れないようにね」


「なるほど、それでガラリと変わったんですね」


「ええ、それなのに、あの子は気まぐれで、何かを思い立つとすぐに勝手に出て行ってしまうのよ」


(リュックくんの悪いところが似たんだよね)


 ローズさんは、性格的にはとても生真面目な人だ。デイジーちゃんは、アマゾネス国の次期女王としての素質は高そうだけど……母親のローズさんとしては、頭が痛いだろうな。


「デイジーさんも、もうすぐ8歳ですし、随分としっかりされてきたから……」


「まだ、8歳なのよ? まるで反抗期な中学生みたいだわ」


 ローズさんは、そう言うと、深いため息をついた。


(愚痴りたかったみたいだな)


 この国には、中学生なんていない。ローズさんの前世の日本人だった頃の記憶だ。僕には、たまにこんな風に、この世界の人にはわからないことを言って、愚痴るんだよね。


「ふふっ、もう中学生なら、将来有望ですね」


「はぁ……リュッくんが甘やかすからよ」


 再び、深いため息をつくと、ローズさんはスゥハァと深呼吸をしている。もう気が済んだみたいだな。


 アマゾネス国の女王であり続けることは、とても大変なことだと感じる。彼女は、剣術の能力は高いけど、人間だ。魔族の多い旧帝国側の大陸で、人間が国を守っていくのは、とんでもない努力が必要だと感じる。


 アマゾネスに生まれた女の子は、他の人間に比べて圧倒的に、戦闘能力が高いそうだ。だから、王国側の大陸では、アマゾネスの平民の女性を妻にしたい貴族が多いとも聞く。


(あっ、それが原因か?)



「ローズさん、その組織の正体はわかりますか? 王国側の人間の可能性もありますね」


「黒幕は、わからないの。ただ、誘拐を実行しているのは、宇宙海賊らしいわ」


「へ? 宇宙海賊?」


(まさかの宇宙海賊?)


「ええ、女海賊ね。男だと、アマゾネスでは動きにくいと考えたようだわ。だから、あちらの大陸との関係は不明ね。ただ、ミューがおかしなことを言っていたわ」



 ローズさんの口からミューさんの名前が出ると、彼女は、ビクッと飛び上がっている。


(いつも通りの反応だね)


 ミューさんはなぜか、ソーッと近寄ってきた。デイジーちゃんに気づかれないようにしてるのかな。



「ローズ様ぁ、ミューが何か、やらかしましたか?」


「ミュー、城の中では、もっとシャキッとしなさい。女児の行方不明の件で、こないだ、変なことを言ってたわよね?」


「ええっ? 変なことなんて言ってないですよぉ。かわいい女の子は、地底の魔族の国では人身売買されてるから、アマゾネスも高く売れると言っていた人がいて……」


 ミューさんの話は、僕も知っている。確かに一部の魔族は、アマゾネスが好きみたいなんだよね。人間なのに人間らしくないから、かな?


 リュックくん情報によると、アマゾネスは気の強い女性ばかりだから、そういう女性を好む魔族がいるそうだ。そういう気の強い女性を……征服したいらしい。


(悪趣味だよな)


 だけど、それなら女児じゃなくて、大人の女性を狙うような気がする。ほとんどの魔族は、子供には優しいんだ。




「ローズさん、この件は、僕達の方で調査させてもらいます。国同士のゴタゴタには、僕達は口出しできませんが、この件は、少し違う気がするので」


「ライトさんが調べてくださるの?」


「はい、僕が支配権を持つワープワームを、この件が片付くまで城に常駐させても構いませんか? 姿は現さないようにさせますから」


「天使ちゃん達がここに?」


 ローズさんがそう言った瞬間、デイジーちゃんがこちらを向いた。その目はキラキラと輝いている。


「はい。デイジーさんが狙われている可能性もありますから」


「そうねぇ、姿を見せないなら……」


「天使ちゃんが来るなら、私、部屋で一緒に遊ぶよっ」


 いつの間にか近くに来ていたデイジーちゃんは、ローズさんにキラキラな視線を向けている。


「デイジー、天使ちゃん達は、ぬいぐるみじゃないのよ?」


「わかってるわよっ。でも天使ちゃん達が来てくれたら、私、嬉しいもんっ」


(あーぁ、こびと達がいじけてる)


 デイジーちゃんに媚びるように擦り寄ってきたアマゾネスのワープワーム達は、少女に無視されてひどい顔だ。


「デイジーが、家出しないと約束をするなら、天使ちゃん達に城に滞在してもらうわ」


「する! 約束するっ! 出かける時は、事前にちゃんと誰かに言うっ!」


 ハイと手を挙げて、必死なデイジーちゃんは、年相応の少女に見えた。


(ふふっ、かわいい)


「ライトさん、城に天使ちゃん達を、姿を現した状態で滞在してもらって構わないわ。デイジーが約束を破ったら、姿を見せないようにさせてくださる?」


「はい、了解しました」


 僕の返事と同時に、天井からハラハラと赤黒い雪が降るように、ワープワーム達が現れた。



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