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53、湖上の街ワタガシ 〜アマゾネス国へ

「あーはっはっはっは、イタズラ猫の捕獲器だって〜。キャハハハハ」


 赤いワンピースのチビっ子は、既に猫耳の少女は姿を消しているのに、笑い転げていた。あぁ、女神様がここの様子を城から見ていると思っているのかな。


 女神代行のナタリーさんに、強制的に城に連れ帰られても、あの檻(おり)の出口は女神様の私室にあるらしいから……うん、きっと見てるだろうな。


 一方で、呆然としている女性客二人。彼女達は、猫耳の少女の素性は知っているけど、あまり深い付き合いはない。この強制送還は、とんでもない事件だと感じでいるかもしれない。



「ティア様が言っていた砂絵は、そのテーブルにありますか?」


 僕は、外出用の魔法袋を装備し、カウンターから出ていく。


「それなら、俺が持ってるだよ。小さな魔法袋に移すから、ちょっと待っていてほしいだ」


 ベアトスさんは、魔法袋を取り出した。すると、大きな魔法袋からスルスルと伸びた紐状のものが、彼が装備する魔法袋と取り出した魔法袋の両方にプスリと突き刺さった。


(魔人レイが入れ替えるんだな)


 大きな魔法袋は、ベアトスさんに仕える魔人レイだと思う。リュックくんと同じく、女神様の魔力で作った魔道具だ。転生してきたときに与えられた物だと思う。



「ライトさん、これを持っていってくれたらいいだ。砂絵は石の置き物とは違って、魔力を流せば神アプルゴルドの能力が発動されるだよ」


「えっ? アプルゴルド様の能力って……」


「まだ、完全な解析は終わってないだ。構成される砂によって異なると思うだ」


 ベアトスさんは、ここでは話せないということだろうな。解析が終わってないものを、僕に託すとは考えられない。あっ、完了した砂絵だけを渡されたのかな。


「それは、えーっと」


「リュックくんなら、もう知ってるだよ。ローズさんのとこに合う砂絵を選べばいいだ」


(あぁ、だから女神様が行くと言ってたんだ)


 女神様が実際に見てみないとわからない、と言っていたのは、色合いのことではない。どの砂絵が、ローズさんの城の状況に合うかがわからないということだ。


 ローズさんは、僕への相談ごとをまだ話してくれていない。だけど女神様は、彼女の思考を覗いて知っているだろうからな。



「ライトさん、あの……」


 ローズさんは迷っているのか、言葉を探しているように見えた。いつも凛とした彼女の優柔不断さは、それほど、アマゾネス国に深刻な何かが起こっているのだと想像させる。


「僕が、ご一緒しますよ。僕のワープワームで戻られますか?」


「あっ、天使ちゃん? ローズ様ぁ、ミューは、天使ちゃん達のワープ体験をしたいですぅ」


(うん? 体験?)


 確かミューさんも、僕のワープワームを使ってワープしたことはあったはずだ。ただ、アマゾネス国の女王には、代々受け継がれているワープワームがいる。だから、こんな言い方をしているのかな。


 ワープワームは、主人の能力の一部を獲得したり、主人に気に入られようと擬態するから、結果的に、支配する主人に似てくるという特徴がある。


 アマゾネス国のワープワームは、乱暴な性格で、見た目もワイルド系な小人(こびと)になることが多いらしい。


(あっ、そういえば、見たことないな)


 ローズさんが従えるワープワームについての噂も聞かない。ワープワームは、主人が死ぬと契約関係が切れる。アマゾネス国では、一代おきに支配権が移っているはずだ。


 彼女のお婆さんが、ワープワームの支配権を持っていたから、今はローズさんに移っていると思うんだけどな。


「そうね、ライトさんの天使ちゃん達を借りましょうか。母のワープワームでは、中継地が必要になるもの」


(えっ? 前女王に支配権?)


 ローズさんは後天的な神族だから、見た目も若いし実年齢も60代後半だと思うけど、前女王は、90代だよな? 帝国側の大陸では、人間の寿命は50年くらいだと聞いたことがある。


(でも、下手なことは聞けない)



「では、店の前にお願いします。さすがに店内には呼べないので」


「わぁい、天使ちゃんってかわいいから大好き〜っ。ローズ様も大好きなんですよ。天使ちゃんのクッションが、ローズ様の私室のソファにあるんです〜」


(うん? 女神様の城にも来るの?)


 女神様の城の居住区では、天使ちゃんグッズを扱う店が、勝手に作られている。カフェまであるんだよね、いくつも。


 たぶん女神様が、城を訪れる観光客のために、特産品としてワープワームの見た目を利用しているんだ。


 僕には、生首が飛び回っているように見えるんだけど、他の人の目には、かわいいボール状のプニプニした生き物に見えるらしい。まぁ、軟式テニスのボールみたいでもあるけど。



 アマゾネス国の女性二人は、カウンターに銀貨1枚を残して店を出た。もらいすぎだけど、お釣りは受け取ってくれないだろうな。


「ベアトスさん、あとはお願いします」


「あぁ、わかっただ。魔王サラドラさんのことは責任を持って監視しておくだよ」


「ちょっとぉっ! あたしは名探偵サラドラちゃんよっ」


(えっ? そこ?)


 他にツッコミどころがあると思うけど、スルーしておこう。


 店員さん達にいくつか指示を残して、僕は店を出た。



 ◇◇◇



 もう、赤い太陽がしっかり昇っている。夜も更けてきたな。だけど逆に、アマゾネス国は昼間だろうか。


(あれ? あのチビっ子は)


 たくさんのワープワームが集まってきたためか、広場にいる人達の注目を集めている。いや、ローズさんが注目されているのかな。


「お母様っ! リュッくんに言えばいいじゃないっ。あっ、ライトさん……」


 僕の姿を見つけたチビっ子は、ローズさんの背に隠れるように移動した。彼女は、ローズさんとリュックくんの間に生まれた娘デイジーちゃんだ。もうすぐ8歳になると思う。


 アマゾネス国では、女の子が王位を継承していく。デイジーちゃんの上には、お兄さんしかいない。だから、たぶん、ローズさんの後を継ぐのは、デイジーちゃんだ。



「デイジーさん、また、家出ですか?」


「違うわっ。私は、修行中なのっ」


(はい?)


 ローズさんの方に視線を移すと、彼女は苦笑いしていた。おてんばなデイジーちゃんに振り回されているようだな。


「デイジーは、湖上の街が気に入っているのよ。目を離すとすぐに、勝手にワープワームを使って、ここに来てしまうの」


「お母様のワープワームは、ここまで直接来られないわ。だから、王都に行ってから来るの」


(あれ? ローズさんに支配権があるの?)


 僕が首を傾げたのか、ローズさんは微妙な表情だ。前女王に支配権があると、さっきは言っていたけど……対外的には、ローズさんに支配権があることにしてるのかな。


「デイジー、今は勝手に王都に行っちゃダメって言ってあったわよね?」


「大丈夫だもん。お姉様が、これをくれたもんっ。持っていたら、私の危険を察知してくれるのっ」


(あっ、竜のウロコだ)


 デイジーちゃんがお姉様と呼ぶのは、ドラゴン族の魔王マーテルさんの娘マリーさんのことだ。マリーさんは、ローズさんと同じく日本からの転生者なんだ。二人は、姉妹のように仲が良い。マリーさんがローズさんに懐いているという感じかな。


 それならなぜ、お姉様なのか。それは、マリーさんの父親は、何人もいて、その一人がリュックくんだからだと思う。ドラゴン族のマリーさんは成長が遅いから、10歳前後に見える。だから余計に、親しみやすいのかもしれない。




「デイジー様ぁ、だからって、供も付けずにウロウロするのはダメですよぉ」


「ミューは、湖上の街ならいいって言ったじゃないっ」


 デイジーちゃんの暴露に、ミューさんの目が泳いでいる。ローズさんの苛立ちを感じたのかな。



「じゃあ、デイジーさんも一緒に、僕のワープワームでアマゾネス国へ移動しましょうか。今ちょうど、ティア様から土産選びを託されたので、僕も行くつもり……」


「天使ちゃんねっ! ええ、私も戻るよっ」


 デイジーちゃんは、目をキラキラと輝かせている。そうか、ローズさんの私室の天使ちゃんグッズは、デイジーちゃんのためのものかな。たぶん、リュックくんからのプレゼントなのだろう。


 ワープワーム達は、既にデイジーちゃんの足元にも集まっていた。



「そのクッションに乗ってください。城の前で構いませんか?」


「ええ、城門の外にお願い。門を通らないと警報が作動するの」


 そう言ってからローズさんは少し表情を歪めた。厳重警戒中なのだと、明かしてしまったからだろう。やはり、ただごとじゃないな。



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