46、アプルゴルド星 〜知らなかった事実
「あぁっ、それは、ぼくの肉……」
「うっぷ、何よこれ! ライト! すんごく塩からいよっ」
シャインに渡した皿から肉をつまみ食いした赤いワンピースのチビっ子は、大げさに喉をかく仕草をして悶絶している。
(女神様と似てるよね)
「魔王サラドラさん、シャインの味覚は特殊なので、塩味を強めにしてるんです。テーブルに置いた料理を召し上がってください」
「なーんだ。シャインだけ特別に美味しい肉をもらったのかと思ったよっ。冷めてるし、塩からいし、食べらんないよねっ」
(めちゃくちゃだな)
「守護獣は、みんな塩からい物を食べますよ。シャインの母親も、温かい食べ物は苦手なので、冷たいくらいに冷ましてあるんです」
シャインの母親という言葉を使うと、魔王サラドラさんの表情が、若干、強張ったように見えた。そういえば、たまに、魔王サラドラさんが誰かとケンカすると、アトラ様が止めに行ってたっけ。
「シャインは、アトラに似てるの? ひぃ、や、やぁね。シャインが青き大狼の子だってこと、忘れてたわっ。ライトに似て泣き虫なんだもんっ」
(どういう意味だよ?)
「ええ、シャインは、守護獣としての能力は母親と似てるようです。性格は、僕に似ているとよく言われますが」
「そ、そう。ふぅん、そう」
赤いワンピースのチビっ子は、テーブルの皿に手を伸ばし、何ごともなかったかのように食事を始めた。だけど、シャインをチラチラと盗み見る不思議な行動が目立つんだよね。
「アホのサラドラは、こないだ青き大狼に、こっぴどく叱られていたからな」
ノームの魔王ノムさんは、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて、そうぶっちゃけている。
「あぁ、星の門のある草原でケンカするからですよ。アトラ様があの草原の見張り当番のときに炎をぶっ放すと、彼女はキレますからね」
「ふっ、アトラが見張りのときは、精霊ルーも出てくるからな。水や氷を操る二人を相手にすると、火属性の魔族は、ククッ、ボッコボコだな」
魔王ノムさんは、楽しそうに話しながら、フライドポテトのバーガーを食べている。ノムさんは、最近、芋を気に入っているようだ。異常な芋好きの精霊ルー様の影響だろうか。
敵の敵は味方、という構図からか、最近、魔王ノムさんは精霊ルーさんと少し親しくなったようだ。魔王同士は、互いにライバル視しているからな。
精霊ルーさんは、アンデッドの魔王カイさんとは違うタイプのコミュ障なんだ。いつも湖底に引きこもっていて、緊張すると攻撃的になる。彼女は、魔王サラドラさんのように、よく喋る人は苦手だ。魔王ノムさんは静かな話し方をするから、合うのかもしれない。
「ライトさん、ティアちゃんの分を置いてあるだか? 戻ってきたときに何も無いと、面倒くさいことになるだよ」
ベアトスさんが、テーブルの料理の残骸を指差し、そう指摘してくれた。女神様の分も作ったはずなのに、みんなすごい食欲だな。
「じゃあ、追加で作っておき……あっ」
突然、テーブルの前に姿を現した猫耳の少女。
(あれ? いつもとは違う顔だな)
僕がそう考えた瞬間、女神様はいつもの表情に戻った。いや、さっき一瞬見せた顔の方が、元々の女神様の表情なんだっけ。
「食べ散らかされておるではないか。妾のご飯は無いのか?」
「ティア様、すぐに作ります。何がいいですか?」
「何でも良いのじゃ。あっ、温かい物がよいかの」
(やはり、変だな)
いつの間にか、白く小さなスケルトンも戻ってきていた。女神様を気遣っているのか、足元で静かにしている。
魔王カイさんは、女神様の素性がバレないように、この部屋を闇系の薄いオーラで満たしたようだ。宇宙海賊達の中には、星を失った神々がいるからかな。
「お待たせしました。芋の温かいスープと、オムライスにしてみました」
「ぬおおおっ! かわいいのじゃっ。くぅ〜っ、かわいくて食べられないのじゃっ」
(ふふっ、少し元気が出たかな?)
オムライスには、ケチャップで肉球らしき絵を描いておいた。僕がそんなことをするとは予想していなかったのか、女神様は目をキラキラと輝かせて、スプーンを握りしめている。
「猫ちゃんが食べられないなら、あたしが……」
「ダメじゃっ! アホのサラドラは、もう食べたのであろう? ライトのオムライスには肉は入ってないぞ?」
(入ってますよ)
「ふぅん、それなら、いらな〜い。
猫耳の少女の殺気を感じたのか、赤いワンピースのチビっ子は、皿に残っていた肉に手を伸ばした。
女神様は、肉球の絵を崩さないように、周りから食べていく。街の子供達と同じような行動だな。
そして最後には、ニタニタしながら、肉球の絵の玉子焼き部分を一口で食べていた。喜んでもらえて何よりだ。
「ベッドを出しておいただ。ケンカしないで寝るだよ?」
ベアトスさんが、大きな部屋の中に、いくつかのテントを並べていた。プライベートな空間は必要だもんね。
「クマ! 全然かわいくないぞっ」
「猫ちゃん、何を言ってるのっ。かわいいじゃない。フリフリがついてる」
(フリフリじゃなくて、窓だと思う)
「好きに使ってくれて構わないだ。ケンカしないで寝るだよ? サラドラさんは特に、炎は禁止だよ」
ベアトスさんにそう言われて、猫耳の少女は、マジックペンを取り出し、落書きを始めた。だけど、わざとそうしているような気がした。いつもの女神様なら、もっと目を輝かせて、ニマニマしながら落書きするもんね。
僕は、食事の後片付けをしながら、神アプルゴルド様と何を話していたのかと、考え始めていた。
当然、楽しい話ではなかったのだろう。この星の状況は、まだまだ、とても厳しいんだから。
◇◇◇
『ライトは、寝ないのか?』
皆が寝静まった時刻、僕が部屋の窓から外を見ていると、魔王カイさんが、念話を使って話しかけてきた。皆が寝ているからという気遣いではない。これは、彼のいつもの会話方法だ。
「魔王カイさんも、眠らないのですか?」
『ふっ、ワシは、寝る必要はない。だが、おまえは、赤ん坊からやり直したことで、より一層、人間に近づいただろう? 死人に宿し命ではあるが』
「ええ、でも、眠らなくても平気ですよ。女神様の転生者……神族でもありますから」
女神様が転生させた人達は、育ち盛りの子でも、数日眠らなくても支障はない。その理由はわからないけど、星からのエネルギーを受け取っているのだと聞いたこともある。
だけど今、別の星にいても、大丈夫ってことは、他に理由があるのだと思う。その反面、女神様は、アプルゴルド星に来てからは、夜は眠っているようだ。
『神族は、女神様からエネルギーを受け取っているからだろう。だから、女神様は眠って魔力を回復されている』
「あっ、僕の心の声が聞こえてしまいましたか」
僕は、すぐ近くに移動してきた小さな白いスケルトンの方を向いた。カタッと音がしたのは、僕が見たことで、人見知りの激しい魔王カイさんが驚いたのだろう。
『まぁな。さっきのことだが……』
「えっと、何でしたっけ?」
『女神様の様子がおかしいことだ』
「あっ、魔王カイさんは、女神様と神アプルゴルド様の話を聞いていたんですね」
そう尋ねると、白いスケルトンは、カコッと小さく頷いた。
『神アプルゴルドは、2年間の神戦争のとき、黄の星系を守る盾として、あちこちの星を助けていたことは知っているか?』
「知らないです。僕は湖上の街のことだけで、いっぱいいっぱいだったから」
『だろうな。神アプルゴルドは、物質系の種族だ。だから、この星は、どこよりも堅固な星だったのだ』
「それがなぜ? あっ、2年前に力を使いすぎた?」
『それもあるが、それだけではない。神戦争は、その10年以上前から密かに始まっていた。この星は、イロハカルティア星にとって盾となる主要な星だ。だからずっと、神戦争の間も監視されていたようだ』
「えっ……監視って、まさか」
『あぁ、そうだ。青の神ダーラは、2年前の神戦争で決着がつかないときのために、次の準備もしていたようだ。この5年ほどで、多くの星が壊されたのは、そのためだ』
「だから、宇宙海賊になる神が増えたんですね」
『そんな奴らは、どうでも良い。問題なのは、アプルゴルド星のような星が、いくつもあることだ。近いうちに、再び神戦争が起こる。そうなると、2年前よりも被害は甚大なものとなるだろう。そういう話をされていた』
(近いうちに、神戦争が再び起こる?)
そうか、まだ、あの神戦争は終わってないんだ。
水木金はお休み。
次回は、11月19日(土)に更新予定です。
よろしくお願いします。




