43、アプルゴルド星 〜神アプルゴルドから民へ
「はぁ、猫さん、これはもう……」
「何を言っておるのじゃ? イロハカルティア星では、神族が魔力を回復するときには、それをせっせと飲むのじゃぞ?」
猫耳の少女は、神アプルゴルド様に魔力1,000回復ポーションを飲ませている。これは、僕が作るポーションではなく、女神様の城で作られている物だ。
魔力を回復することができるポーションは、とても価値が高く、ほとんど売られていない。僕も、あまり数を作ることはできないから、貴重品なんだ。
神アプルゴルド様が飲まされている魔力回復ポーションは、実はこれでも上質品だと言われている。胃薬のような味がするが、飲めないほどではない。普通のポーションってドブの味というか……頑張らないと飲めないものが、イロハカルティア星のポーション事情なんだ。
僕が魔道具『リュック』で作るポーションは、すべてカクテル風味になる。カクテルとは言っても、アルコールは入っていない。ノンアルコールカクテル風という方が正解かな。
だから、僕のポーションは、とんでもなく売れるんだ。ジュースのように飲みやすいことで、無理なく飲めるもんな。
「ほれ、あと100本くらいで許してやるのじゃ」
「ええっ……うぅ、少し休憩を……」
「ダメじゃ。星の維持には、飲むしかないのじゃっ」
「イロ……猫ちゃんが、神アプルゴルド様をいじめてるわっ。ライト、いいのっ?」
赤いワンピースのチビっ子が、頭の上の花をぴこぴこさせて、僕に詰め寄ってくる。
「サラドラさん、猫さんは別にいじめているわけでは……」
僕が、女神様を擁護するような言い方をすると、赤いワンピースのチビっ子は、目を見開いて大げさに驚いた顔をしている。
(えっと、変だったかな)
「アホのサラドラ、神アプルゴルド様は、魔力も枯渇した状態だから、これは、治療の一部だろ。少しは考えろ」
ノームの魔王ノムさんがそう言うと、魔王サラドラさんは、僕をビシッと指差した。
「ライトのポーションを使えば……むむむむむ」
(また、誰かに口を封じられたみたいだな)
「ライトさんは、体力回復ポーションしか持ってきてないだよ。魔ポーションは、下手に使うと争いを引き起こすだ」
僕と同じ神族のベアトスさんがそう話すと、赤いワンピースのチビっ子は、手をポンと叩いた。
「クマちゃんっ! アナタ、探偵の素質があるかもしれないわっ。確かに魔王同士でも、誰かが魔ポーションを持ってるってわかると、奪い合いになるものっ」
地底は、ポーションに関係なく、いつもすぐに争いが起こるんだけどな。ただ、魔力回復ポーションは、危なくて弱い魔族には渡せない。
「んだ。だから、他の星では、ライトさんの魔ポーションは使えないだ。ライトさんのは、魔力でも10%回復してしまうだからな」
「だから、猫ちゃんが、神アプルゴルド様をいじめてるのねっ。あんなに臭い魔力1,000回復ポーションなんて、3本飲むと鼻がおかしくなるものっ」
(だから、って、話の繋がりがおかしい……)
「サラドラさんは、猫さんがいじめていると言いたいだけだな」
ベアトスさんは、苦笑いだ。
確かに、猫耳の少女が気弱な少年をいじめているようにも見えるけど、女神様は、以前、イロハカルティア星に多くの綻びがつくられたときには、確か毎日何千本と飲んでいたんだよな。
きっと、すごく苦しかったのだと思う。女神様は僕に、魔力を回復するポーションを作れと、うるさく言っていた。あの頃の僕は理由を知らなかったから、戸惑うばかりだったけど。
口では、ぎゃあきゃあとうるさかったけど、とても大事に飲んでくれてたっけ。リュックくんと同じで、素直じゃないんだよね。
(なんだか、懐かしいな)
「ライト、何をボーっとしておるのじゃ? 足湯じゃなくてプールのお披露目と、ポーション販売会の準備をするのじゃ」
僕が昔のことを考えていたのが気に障ったのか、猫耳の少女は、手を振り回して謎の威嚇をしてくる。
「ティア様、まさか、この場所ですか? 神殿の中庭ですよ?」
僕がそう尋ねると、猫耳の少女は少年を睨むように見ている。神アプルゴルド様に拒否権は無さそうだな。
「神竜の試練で、民も中庭には自由に出入りさせているので、構いませんが……」
神アプルゴルド様は、水の魔帝クラリス・ロールさんの方に視線を移した。彼女は、神竜の監視をしているはずなのに……。
(あっ、トロトロ顔だ)
子供達に向けるようなアブナイ笑顔で神アプルゴルド様を凝視していたクラリスさんは、僕達の視線が集まったことで、やっと我に返ったらしい。神アプルゴルド様に向ける視線が、他の星の小さな種族にも向けられているのだと確認できたな。
「あっ! はい、直ちに結界を動かします!」
クラリスさんは、慌てて咳払いをしている。まぁでも、見慣れた顔だから、いいんだけど。
そして、僕達は、神殿の中庭にポーションの臨時販売所をつくった。今回は、女神様は準備に口出しをしてこなかった。それどころか、神アプルゴルド様と神殿の中へと消えていったんだ。
当然、小さな白いスケルトンは、護衛として猫耳の少女から離れることはなく、要らないと蹴散らされても、諦めずに付いていった。
◇◇◇
『イロハカルティア星から来た行商人さん達が、星に緑を贈ってくださいました。それに、神殿の中庭に不思議な水場を作ってくれました。これからは、不思議な水場のある中庭を開放します。興味のある人は、神都に来る機会があれば、見に来てください』
(あっ、星全体への念話かな)
神アプルゴルド様が、神殿から星全体にお知らせをしたようだ。たぶん女神様は、このために、魔力1,000回復ポーションを数えきれないくらい飲ませていたのだろう。
神殿の外から、すっごい歓声が聞こえてきた。神アプルゴルド様からのお知らせは、獣人さん達にとって、何よりの贈り物なのだろう。
(すっごく愛されている神だな)
神竜は、神アプルゴルド様の人気に嫉妬しているのか、不満げな表情を浮かべている。クラリスさんが、城兵らしき人達に神竜を見張らせているせいもあるかな。
星を乗っ取ろうと企み、そしてその協力者だと思っていた奴らに利用されていただけだとわかり……神竜は、これからどうするのだろう?
もしかして、神アプルゴルド様が、キャプテンアールに出した条件は、神竜を宇宙海賊団に加入させてやってくれ、という意味だったのかもしれない。
「マスター、近くの住人が、神アプルゴルド様の声を聞いて集まってきたよ。入ってもらって大丈夫?」
クラリスさんは、門を指差して、そう言ってきた。その表情は、なぜか不安そうに見える。
「大丈夫ですよ。そこの台に並べたポーションを来た人達に手渡してもらいたいので……」
「うん、それは兵に指示したから問題ないよ。ミントのポーションを飲んでから、クリアポーションだっけ?」
「はい。順番を間違えると倒れますから気をつけて」
僕は小声で注意を促した。
「そうね、でも、まさか神竜が人々のエネルギーをそんなに奪っていたなんて……。あっ、竜紐は外す方がいいのかしら?」
「それは不要ですよ。神竜は、エネルギーを集める器官を失ったそうですからね」
「竜なら、そんな怪我はすぐに治ると思うけどね」
(僕もそう思うけど……)
「なんじゃ!? まだ始めておらぬのか?」
猫耳の少女が、パッと目の前に現れた。また、勝手にワープワームを使ったな。
「ティアちゃんを待ってたのよ」
クラリスさんは、そう言って、猫耳の少女にデレデレとした笑顔を向けた。
「うむ、妾に任せるのじゃ。さぁ、どどーんと、始めるのじゃっ!」




