41、アプルゴルド星 〜クリアポーションのプール
「魔王ノムさん、中庭のどこかに、石造りの足湯を作れますか? 湖上の街ワタガシの広場にあるみたいな……」
「あぁ、できるよ。この星の鉱石を使う方がいいだろう。クマがたくさん取っていたな」
ノームの魔王ノムさんがベアトスさんに合図をすると、ベアトスさんは魔法袋から巨大な石をドカドカと出してくれた。
「サラドラ、おまえも手伝え。雨の中、俺だけでは厳しい」
「ふふん、雨が止んでからにすれば良いじゃないのっ」
赤いワンピースのチビっ子は、そう言いつつも、手に魔力を集めている。魔王ノムさんに反論したいだけみたいだな。
「雨が止んでからだと、猫さんが……」
「あぁ、もうっ、早くしなさいよねっ。猫ちゃんに邪魔されるわけにはいかないわっ」
魔王二人が、大きな石の入れ物を作ってくれた。湖上の街にある物とは違う感じだけど、まぁ、水を貯められるなら何でもいいか。
(リュックくん、この石の入れ物を……)
『あぁ? ポーションのプールでも作るのか? だが、地下水脈とは繋げねーぞ。この星の水脈は、不安定だからな。飲み水が優先だろ』
(確かにそうだね。じゃあ、どうしよっか)
『繋ぐなら、井戸だな。いや、手動で水を入れさせる方がいい。それなら、この石のプールは、どこにでも移動させられる』
(こんな重そうな物を……あっ、神アプルゴルド様なら楽勝だね)
『あぁ、そーゆーことだ。じゃ、改造すっぞ』
(うん、わかった)
肩のリュックから、スルスルと紐が出てきて、石にプスリと刺さった。僕も、石の入れ物に手を触れ、魔力を流し込む。この星の住人にとって必要なものは、洗脳を解除することだ。巨大なクリアポーションのプールをイメージする。
石の入れ物から微かに、ビールを使ったカクテル、パナシェのような香りが漂ってきた。雨が降り注ぐとその香りは強くなってくる。
リュックくんは、この石の入れ物自体を魔道具に作り替えたみたいだ。雨水が降り注ぐと、クリアポーションに変わるようだな。
(でも、やはり効果は弱いな)
湖上の街にある足湯もそうだけど、こういう大きな形にしてしまうと、強い効果を持つポーションにはできない。でも、まぁ、無いよりは良いかな。
『プールでしばらく泳いでいたら、効いてくるんじゃねーか。弱い菌や毒、そして呪いを解除できるのは、クリアポーションと同じだぜ』
(うん、そうだね。緩やかな効果の方が、恐れられなくていいかな)
僕は、水魔法を使って、石の入れ物に水を入れていく。少しすくって飲んでみたけど、パナシェの風味はほとんど感じない。でも、嗅覚の鋭い獣人さん達には、これくらいの方がいいかな。
「ライトっ! 足湯みたいに温かくないよっ?」
赤いワンピースのチビっ子は、石の入れ物に手をつけて、パシャパシャしている。
「魔王サラドラさん、水脈と繋げない移動式なので、温かくはできないんで……あー、やめてくださいよ? 成分のバランスが崩れます」
手に巨大な炎を出したチビっ子を、僕は慌てて制した。魔王サラドラさんは、炎弾をぶち込む気だったよね。
「えーっ、温かくないじゃんっ」
「これは、足湯じゃなくて、プールっていうものなんですよ。足湯よりも大きくて広いでしょう? 端から端まで泳ぐ競争をする場所なんです」
僕がそう説明すると、赤いワンピースのチビっ子は、ニヤリと笑った。あぁ、しまった。競争って言うんじゃなかった。
「ライト、じゃあ、ハロイ島にも作れるねっ。あたし、泳ぐってわからないけど、競争するなら勝つよっ」
(炎を纏うサラマンドラには、無理ですよ……)
「水の中を移動するのは苦手じゃないんですか? リザードマンの池とか……」
「リザードマンの池なんて、入りたくないわっ。びちゃびちゃになるじゃないっ」
フンッとそっぽを向く赤いワンピースのチビっ子……。
(放っておこう)
「おまえ達、入ってみろ」
魔王ノムさんは、手錠に足枷をつけた人達を操り、石の入れ物に放り込んだ。魔王ノムさんが土で拘束している彼らは、逆らえないみたいだな。
しばらくすると、何人かが首を傾げ始めた。
『呪術士が、やっぱりコイツらを呪いで縛ってたみてーだな。コイツらの術が解除されたってことは、獣人達にも効くぜ』
(リュックくん、やっぱ、ペンラート星の呪術士は恐いね。同時に一体どれだけの数を操ってたんだろ)
『呪具として、竜のウロコを使ったから、竜への負担の方が大きいはずだぜ。ずる賢いんだよな。ま、全部、いただくけど』
(うん? いただくって、何すんの?)
『おまえには関係ねーだろ。オレの話だ』
(いやいや、いただくって、呪術士が操っていた人達を喰うってこと? リュックくん、いつの間に人を食べるようになったの。さすがにダメでしょ)
『あのなー、オレが人を喰うわけねーだろ。女なら、別の意味で食う……』
(リュックくん!!)
『はぁ、もういいだろ。あぁ、腹黒女神が何か言ってるぜ』
(えっ? 女神様が?)
そういえば、雨が止んでいる。この星への回復魔法は終了したみたいだな。
「父さん、ティアちゃんがダメって言ってます」
息子のシャインが、ワープワームを使って、ワープしてきた。少し疲れた顔をしている。神竜の命を繋ぐために無理をしたのかもしれない。
僕は、シャインの頭に、モコモコ帽子を被した。これで、仕事が終わりだと判断できるだろう。
「シャイン、頑張ったね。お疲れ様」
「はいっ! あっ、ぼく、上手くできたのかな」
「うん、完璧だよ」
そう言って、シャインの頭をポンポンと叩くと、息子は、ふにゃりと嬉しそうに笑った。
そして、モコモコ帽子の中から、シャインお気に入りのおやつらしきものを取り出し、モグモグと食べ始めた。魔法袋じゃなくて、宝物入れの帽子から取り出したということは、自分へのご褒美なのだと思う。
僕は、水筒に入れて持ってきたイーシア湖の水を、水筒ごと渡しておいた。すると、シャインは早速、水筒から水を飲んでいる。
(女神様からの伝言は忘れちゃってるね)
何がダメなのかと考え始めた頃、猫耳の少女が、同じくらいの背丈の少年と一緒に、こちらに歩いて来るのが見えた。その後ろからは、背の高い男性とカースが歩いてくる。
あの少年は、神アプルゴルド様だろうか。
僕の姿を見つけると、猫耳の少女はタタタと駆け寄ってきた。
「なぜ、足湯を作ったのじゃ! ポーションの行商人の自覚はどうしたのじゃっ。せっかく、妾が、ポーション3本セット販売を思いついたというのに〜」
(うん? あぁ、悪い顔をしてたのは、これか)
「ティア様、クリアポーションのプールバージョンですが、効果は弱いので……」
「むむ? フルーツエールの足湯なのか?」
猫耳の少女は、石のプールの中にいる人達に視線を移して、ふふんと鼻を鳴らした。
「なんじゃ。冷たい水なのじゃな。冷たくて呪いが消えるのじゃなっ。体力は、全然回復しないのじゃなっ」
「長い時間、プールに入っていれば……」
(あーあ、スルーだよ)
猫耳の少女は、少年の方へと駆け寄り、こちらをチラチラ見ながら、何かをコソコソと話している。
『腹黒女神が、腹黒な相談をしてるぜ。だが、オレがいただくけどな』
(ちょ、リュックくん、何をいただくつもり?)
『はぁ? まぁ、食うとすれば、スラリとした女で……』
(ちょっと! リュックくん!!)
『うるせーな。おまえには関係ねーことだ』
(リュックくんが反抗期だ!)
『はいはい、反抗期でいいよ』
そう言うと、リュックくんは姿を現した。また、宇宙海賊ごっこしてるよ。
黒いマントをひるがえしたリュックくんの姿に、皆は凍りついていた。
「ぎゃぁ! キャプテンアールだ!」




