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私の兄貴の話をしよう


 私の兄貴の話をしよう。


・・・


「──うちの兄貴は妹の私から見てもだいぶ変わった奴でね」


 「私」は少しだけ笑いながらそう言った。とある冒険者ギルドの本拠地である酒場の店内で、十数人ほどの冒険者に囲まれながら、だ。

 二時間前までは同じギルドの仲間だったはずの彼らは、そんな私の言葉をにこりともせずに聞いていた。それぞれ武器を持っていてこっちに向けていてどうにも危なっかしいが、彼等は気にした様子もない。


 大剣や魔銃なんて人間に向けるものじゃないだろうに。

 ましてやこんな、私のようないたいけな少女に。


「あれでも一応冒険者なんだが、弱そうな見た目してるくせに冒険者としては相当やり手ときていてね、それなのにどうも自己主張が弱いというか……流されやすいと言ってもいいのかな? まあお人好しだったのさ」


 武器に囲まれながらもこうして兄貴について話しているのは、聞かれたからだ。


 兄貴について教えろと迫られた。私の二歳年上の兄貴は数ヵ月前自殺して、そしてそれと同時に、世界にとんでもないものを遺していったのだ。

 そのとんでもないものが人類全体に影響を及ぼす「終焉魔術」とかいうものだったから、私は今こうして詰められているわけである。迷惑極まりない。


 終焉魔術とやらの詳細は私は知らないが、世界全体がヤバくなる魔術だということは分かった。どうして兄貴がそんなものを残していったのか、私が知りたいくらいだってのに。


「とりあえずあんまり気が強い奴じゃなくて、諍いもそう好まない性格だったな。……だから、私だって驚いてるよ。こんなことになってしまって」

「ふざけるな。何が驚いてるだ、シャロン」


 一番近くに立ち、魔銃を向けてきていた男が言う。

 彼は二時間前まで私の上司、ギルド長だった相手だ。


「シャロン、お前は全部知ってたんじゃないのか? 兄貴がこんなとんでもないことしでかすことも! 知ってて黙ってたんだろ!!」

「だから知らないってば……もういい加減にしてよゴメス」


 ゴメスはそのデカい身体をいからせる。さっきから私の言うことなどまったく信じてくれないのだ。

 私が一番驚いたんだと、それを何度言っても信用してくれない。


「それに知ってたら言うに決まってるじゃない。一応、あんた達もギルドの仲間なんだし――」

「……ふん。そう思ってるのは貴様だけだ」

「ええ……?」


 ゴメスは一転、嘲笑するような表情になった。


「当然だろう。すべての人間には魔力があるが、冒険者の格はその魔力量で決まる。……シャロン、お前は魔力量が少なすぎるんだ。子供だってもう少しあるぞ」

「それは……」

「そんな役立たずを置いておいてやったのは、ギルドに一人()()()()()()がいれば他の仲間が自信を持てるからだ。見下す相手がいるからな」

「……あー、なるほどね」


 思わず眉を顰めた。ひょっとしたらそうなんじゃないかと少しは思っていたが、まさか本当にそうだったとは。


 ここまで下劣とは思いたくなかった。


 チームに一人落ちこぼれがいると、性根の悪い人間はその落ちこぼれを見て安心するという。そしてその落ちこぼれ以外で団結する。

 所謂共通の敵、というやつだ。仲間の態度はいつも、どこかよそよそしいというか、冷たさがあった。言われても驚きや意外性はない。落ちこぼれを陰で笑っていたのだろう。


「アンタの気持ちはよくわかったよゴメス。……でもなにも知らないのは本当なんだって。いい加減武器を下ろしてくれないかな?」

「……そんなに偉そうにしててもいいのか?」


 ゴメスは試すように笑った。


「今や貴様は悪魔の妹だぞ。自分のこと以外何も考えやしない、迷惑な馬鹿の妹だ。そんなお前が、無事でいられると思ってんのか」

「そうよ。死ぬなら勝手に一人で死んでろって話よね」


 と、ゴメスの隣にいた美女が同調した。確か名前はセリア。


「まさか他人だから関係ないとか言わないわよね。この責任どうとってくれるわけ? 土下座でもしてみなさいよ!」


 そんなん私に言われても。

 気持ちは分かるけど筋合いはない。

 だが彼等にしてみれば、たしかに私は悪魔の妹かもしれない。

 

 土下座はできないけど謝るのも筋だろうとそう思った時。

 

「どうせあんたの兄貴だって、ちょっとしたことで死ぬような心の弱い奴だったんでしょ?」


 と、セリアが言い放った。


「そうだ。俺みたいな強い奴ならそんなことはしない。落ちこぼれのお前にはお似合いの兄貴だな」

「分かった。落ちこぼれだから死んだんでしょ! そうに違いないわ!」

「そうだなセリア! 弱い奴は死ぬべきだってそいつも分かってたんだろ!」


 ……私が落ちこぼれってのは、敢えて否定しないでおくけどさ。


「あの……気持ちは分かるから何も言わないけど。あれでも兄貴だし……私の前で悪口言うのはやめてくれない? 聞こえないところだったら別に、いいからさ」

「はっ、それが人にものを頼む態度か? こんな状況で」


 銃を突き付けられて逃げられない状況で。


「どうしても言われたくないってんなら、セリアが言ったみたいに土下座して頼めよ。どうかお兄様の悪口は言わないでくださいってよ」

「あーいや、お願いというか交渉? に近いんだけども。……しかしゴメス、あんた随分と性根が腐ってるね。思った以上だ。驚いたよ」

「あぁ? テメェ今なんつった!?」

「性根がお腐りになっていらっしゃる、と。間違っちゃいないだろ? ギルド長。性格に問題があると言い換えてもいいかな」

「んだとテメェ……!」


 そしてギルド長は、私に突きつけていた魔銃の引鉄を容赦なく引いた。

 当たったら確実に死ぬというのに、まったく軽率な奴だ。

 死んだら聞きたい情報も聞き出せないってのに。セリアも目を丸くしているじゃないか。


 さて。

 ……ところで魔銃というのは、火薬の代わりに魔力で弾丸を発射する銃だ。

 中には弾丸すら魔力製というものもあるが、ゴメスはそんな高級品は持っていない。ので、相手はただの鉄塊。今にも私の脳天を貫こうとしてーー


「……おっと」


 私はそれを、飛んできたボールでも避けるかのように軽く回避した。


「危ない奴だな。知ってるくせに。()()()()()が、私に通じないってことくらい」


 魔力量が少ない代わりに、私は、いくつかのアドバンテージを持っていた。

 そう、それこそ、「この状況」でもまったく物怖じしないくらいには。









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あるギルドメンバーの遺書


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