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ミーシャ①


「……アンタか」


 立っていたのは街で助けた女性だった。

 私は黙って軽く睨む。服は羽織っているが、身体に細かくつけられた傷は確かにそのままだ。

 香が薫ることのない街の中で付けられた本物の傷。だがその相手は幻で、自力で動くことすら難しそうな男。――つまりはすべて彼女の虚言だった。


「私達をここに誘い込んだのはアンタだろう。こんな傀儡まで使って何がしたい? 何が望みなんだ?」

「やだ、そんな怒らないでよー」


 最初に会った時とは全く違う、やけに甘ったるい喋り方。


「ちょっと悪戯しただけじゃないの。こんな時に旅人さんなんて珍しいから私ちょっと意地悪したくなっちゃって。ごめんね? ゆるして?」

「はぁ?」


 上目遣いになる女性に対し、私は片眉を上げる。

 意地悪だって?


「……答えになってねぇよ。アンタこいつが幻だと分かってたんだろ? いや――」


 すう、と目を細める。

 ()()()()()()のではない。

 こいつが裏で糸を引いていたのだ。それか、こいつに近い誰かが。

 でなければ、こんなに堂々と現れるのも不自然だ。魔術香はまだいっぱいに焚き染められているのに。


「――アンタがやってんのか。魔術香は素養がなくても使える。香は高価たかいが、まぁこんな時だ、値段を気にするやつもいないだろうし、楽勝だっただろうね」

「へー。よくわかったじゃない。この辺は冒険者街だから魔術香も手に入ったんだよ。でもそれが何? 私貴女に何か迷惑かけた?」

「……」


 気になるのは理由だが。

 横目でオーディンを見る。自分の状況も把握できていないのか、目は虚ろで焦点も合っていない。何故こうなってるかは知らないが、こんな状態の彼を邪知暴虐に飾り立てている理由は恐らく。


(オーディンを怨んでて……死ぬ間際にでもと敢えて悪評を流してるんだな)


 だから私達みたいな流れ者が誘い込まれたのだ。あるいは、誘い込むこと自体は成功しなくとも悪評だけでも植え付けるためか。

 そこまで怨んでいるのだとしたら相当だ。オーディンはきちんと恨まれることをしている。

 そして現在、まぁ何があったか知らないが廃人中。ちゃんと兄貴の言ったとおり、サンドバッグにはなっていたわけだ。

 別に嬉しくはないが、どこか安心はできた。


「意地悪だかなんだか知らないがさぁ。随分趣味悪いよアンタ。いくら幻覚だといっても、みんな怖がってるみたいだし?」

 

 足下の銀髪の女性はいつの間にか気絶していた。部屋の中の女性もまだ起きない。


「オーディンはもうこんなんなってんだから、そろそろ諦めたらどうだ。私がこんなこと言うのもなんだけど、残り少ない時間、有意義に――」

「あっはは! おっかしい! 何言ってんのこの子!」


 急に笑い出す女に、私は眉を顰める。

 ……大丈夫かこいつ?


「あのさぁ、貴女が何を思ってんのか知らないけど、多分全部勘違いよ? それ」

「はぁ?」

「だって私、そいつのこと本当になんとも思ってないんだもの」

「……」


 怨んでいるわけじゃなかったらしい。

 女性はさらに言葉を続ける。


「ただ昔からそいつウザかったし。私のこと好きなのはいいけど、騎士ナイト気取りで気持ち悪かったの。……で、どうせなら身代わりにしてやろうと思ったのよ。いい考えでしょ? こいつ自身は何もしてないのにボロボロになっていって、面白かったわぁ!」

「……ルチア、もう行こう。付き合ってられない」

 

 ルチアの手を引いた。私とは価値観が全く違う人種のようだ。


「オーディンももう動けないようだし、こんな街に用は――」

「貴女、()()()()()()()


 思わず足が止まる。

 誰と、とは聞かなくても分かった。

 金髪の女は私をじっと見ると、ふ、と嘲ったように笑う。

 何かを見定められた。そんな気がした。


「あ、でもよく見たら他のところも結構似てない? ほらその鼻とか平べったい口とか! あいつみたいで不細工で見てらんないわよ。よくそんな顔で生きてこられたわね?」

「……美人じゃない事は自覚してるが、面と向かって不細工呼ばわりされて楽しい気分にはならないね」

「なによーほんとのこと言っただけでしょー? それで逆切れとかこわぁい」

「あーもう……頭悪そうな女が一番嫌いなんだよ。少し黙ってな――」


 この時、私は既に目の前の女の正体に気付いていた。

 兄貴のことを知っていて。

 そして同じギルドのメンバーで。

 そしてエルザではない、女性。といったら一人。


「……ミーシャ」


『読んでいるかミーシャ?俺は愚かだったよ。君は顔は美しかったが、それ以外には何もない空っぽの女だった。そのことに気付かず、馬鹿な俺は君に憧れを持ってしまった。


 頭が空っぽなだけならまだ良い。詰めていけばいいからな。けれど心が空っぽな女はどうしようもない。お前の心は空っぽだけでなく穴だらけで、誰がどんなにお前に心を砕いても、変わることはなかったな』


 そのミーシャだ。


⭐︎読者のみなさまへ大切なお願い⭐︎


お読みいただきありがとうございます。


拙作を面白かったと思っていただけたら、画面下部の☆☆☆☆☆を星で評価いただけるととてもうれしいです!!


まあ評価してやってもいいか、と思っていただける方。2、3秒で終わりますので、どうかお時間をいただけると幸いです!


今後作品を作っていく上での大きなモチベーションにもなります!


また、ブクマしても良いぞ、という方がいらっしゃいましたら是非いただけると幸いです!

これからも作品づくり頑張ってまいります。

よろしくお願い致します。


※次話は7/28中に投稿します

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あるギルドメンバーの遺書


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