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アルファルドside 〜手記〜



「……っつ、疲れたぁあ……」


 アルファルドを見届けた後、私はその場にへたり込んだ。

 ぎょっとするルチアに視線を遣る元気すらない。物凄く疲れたからだ。

 魔力の少ない私にとって魔術を使うというのは非常に負担がかかる。準備運動もなしに十キロの道を全力疾走したようなものだ。


「……ん?」


 白目を剥くアルファルドの隣に一冊のメモ帳が落ちているのを見つけた。

 恐らくアルファルドのものだ。見る気なんてなかったが、偶然ページが開いている。その最初の一言に私は興味を引かれた。


『今でも憎い』


「憎い、ね……穏やかじゃないな」


 アルファルドのものであることは一目瞭然だった。

 メモ帳を拾って私は見つめる。右利きのはずなのに左手で書かれたそれは、1月10日、兄貴の遺書が見つかって少し経った頃から始まっていた。


・・・


『俺とあいつが出逢ったのはこのギルドが出来る前。

 まだエルザとあいつしか居ない頃だった』


 回顧するような語り口。


『エルザは有名な魔導師だった。こう言っちゃなんだけど見た目も綺麗で能力もあって、最初から誰もが彼女に目を奪われていた』

 

 エルザが有名な魔導師だったということは知らなかった。東は情報が来にくい。

 手記には嫉妬していた、というようなことが書かれていた。だが同時に、最初はうまくいっていたとも。


『最初に歯車が噛み合わなくなったのはオーディンとあいつだった。ミーシャに関して何か……まあ、俺は知らないが何かがあったらしい。オーディンは直情的なところがあったから、あいつの言葉は聞かずにただひたすらに責めた。責めただけでなく、露骨な嫌がらせも行っていた』


「オーディン……」


 オーディン。

 確か兄貴の遺書にもあった名前。



『あいつは全ての能力が高いが派手な戦いはしなかったから、どうしても地味に見えたんだろうな。実際は下支えになっているのがあいつだったわけだが、それに気付いた時には遅かった』


「……まあ、確かに兄貴は派手なのは好みじゃなかった」

 兄貴は目立つことが苦手だった。

 それは、一族で自分だけが突出した魔力を持っていたのもあるかもしれないが。

 

『だが今、身に染みて思うよ。能力なんて関係なかった』

『たとえあいつが何もできない奴だったとしても――あの選択自体が間違っていた』

『あの時俺達は、ちゃんと話を聞くべきだったんだ。今更何を言っても遅いけれど。最初からオーディンの誤解だったと知ったのは、本当につい最近だ』


 本当に今更すぎて笑ってしまった。見なきゃよかったこんな手記。

 だが一応目は通す。これも情報だ。


『エルザがどうして幼馴染を虐げようと思ったのかはわからない。ただ俺は、エルザの蛮行、例えば街の女性に怪我をさせようとしたり、店から無断で金品を奪うようなことをしているのを知っていた』


「エルザが……?」


 私の中のエルザは明るくて、みんなの憧れで……そんな、まさか。


『その女性や店は悪人であると聞いていたから、俺もオーディンもミーシャも寧ろ良いことだとすら思っていた。だがあいつは一人だけ注意していて、エルザと大喧嘩になっているのも見たことがある。

 愚かなことだが、俺はその頃にはすっかりエルザの方についていた。あいつが嫌いになったわけじゃない。ただ、「これは正しいことなんだ」と本気で思っていたんだ。怪我させるのも食事を抜くのも、本当に全部あいつのためだった』


 アルファルドを振り向く。

 餓死はしてないようだった。

 実際にやったのは違う奴だったらしい。


『あいつは確かに体躯には恵まれてなかったから』

『痛みを与えれば反動で強くなると聞いていたから』

『飯を抜けば反動で力がつくと聞いていたから』

『俺はずっと善意だった』

 まさか追いつめてるつもりなんてなかった。今更何を言っても遅いけど。


「ルチア、ちょっとそこ退いてくれ」


 少し物申したくなってきた。テメェこんなん全部言い訳だろ。兄貴が死んで怖くなって言ってるだけだろ。

 そう言ってやりたかったが、ルチアは半分くらいしかどいてくれなかった。


『そしてあいつは自殺した。

 エルザはそこでようやく本性を現した。仮にも幼馴染が死んだのに、エルザは迷惑そうに舌打ちしただけだった。まるで部屋で害虫が死んでいたときのような顔で』


「……」


『あいつは能力は派手じゃなかったが、少なくとも良い奴だった。そういえば、戦士として行き詰っているときに一番相手をしてくれたのはあいつだった――


 エルザを怨む資格が、果たして俺にあるだろうか? エルザの心理(マインド)操作(コントロール)に掛からなかった下宿屋の娘や違うギルドの魔導師を前にそんなことが言えるだろうか』


 なんだかまだ酔ってる感じがするな、と思わないでもない。私の偏見だろうか?


『だから俺は戦士としての死を選ぶことにした』


「戦士としての死……?」


 真っ先に思い浮かんだのは右腕だが。

 

『右腕は、近い死を悟った冒険者どもに斬られたことになっている。

 本当は自分で斬った。俺はもう戦えない。

 戦えない戦士など不要だ』


「……それでもアンタは、(ルチア)には必要とされていただろうに」


 自分の見たい世界しか見ていなかったアルファルド。ルチアのことを忘れていた。


『これが俺の結末(おわり)だろう。これでいい』

『この結末が、また新たな過ちを生まなければいいけれど』


「いや生んでんじゃねえか」


 最後まで読んでわたしは突っ込んだ。ルチアを見殺しにするという罪を生んでいる。


「本当にもう何もかも遅ぇよアルファルド。アンタは間違え過ぎたんだ」


 やり直す機会はいくらでもあったはずなのに。

 メモ帳のその一枚だけ破って、アルファルドに投げ返した。機嫌の悪い様子を見てルチアが言う。 


「どうしたんですか? シャロンさん」

「なんでもないよ。嫌なもん見たんだ」


 加害者の気持ちなんて別に知りたくもないがーー

 だが、有用な情報はあった。

 兄貴に最初に嫌がらせをした者。兄貴が死ぬ最初のきっかけを作った奴。


「オーディン……ね」


 もし次に会うとしたらそいつなのかもしれない。私が兄貴の足跡と、加害者のことを追っていくのなら。




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▼▼▼元々の短編こちらです。是非どうぞ▼▼▼

あるギルドメンバーの遺書


― 新着の感想 ―
[良い点] どこまでいっても救えない…最後のページを破ったのはルチアへのせめてもの優しさかな?
[一言] たまにいるやつだね。 謝罪や償いそっちのけで自分も傷ついたから許してもらえると思ってる人間。
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