アルファルド③
本作は、少し前に日間ランキング2位・月間9位をいただきました「あるギルドメンバーの遺書」という短編 https://ncode.syosetu.com/n4695hi/
と、その短編シリーズ https://ncode.syosetu.com/s9750g/
の続きになります。
単体でも楽しめるようになっている作品ですので、お気軽にお楽しみください。
※短編シリーズ八作全作品、日間ランキングに同時掲載されました。ありがとうございます。
たまに考えることがある。
兄貴がなんであんなことをしたのかって。
兄貴は決して弱くはない。嫌な目に遭っていたとしても、仕返ししようと思えば出来たはずだ。
相手が誰だって、死ぬほど苦しかったならぶっ飛ばせないことはなかったはずだ。だから、わざわざ死ぬことなんてなかったのに。
誰かに脅されていたのかもしれないと思った。それならまぁあり得る話さ。兄貴は何よりお人好しだからな。
だけどそれなら、最後に世界ごと巻き込んだのも説明がつかない。関係ない人を巻き込むなんて、兄貴は嫌ったはずなのに。
……でも、あのお人好しの兄貴がそこまでしたくらいだ。
加害者はさぞ酷いことをしたんだろう。
きっと彼等自身が思っている以上に。
何も分かっちゃいねえと怒鳴られて、アルファルドは少し怯んだようだった。だがすぐにこんなことを言った。
「俺は君の兄さんに本当にひどいことをしたと思う」
「……」
その一人。ルチアさえ見殺しにしたアルファルド。
正直一発入れてやりたい気持ちはある。いや一発といわず、二百発くらいいってやりたい気持ちはあった。
「だから、同じだけのことをされる義務があると思う。俺は君になら何をされても構わない。だから好きなだけ罰してくれ」
「……」
でも、私はそんなことはしてやらない。
アルファルドは寧ろそれを望んでいるようだから。
罰を望む者に罰を与えても、それは罰したことにならない。
「あんま舐めんなよ。私は意味のない躾は嫌いなんだ」
私は奴を嘲笑する。
「だけどこのままってのも腑に落ちないからね。特別な魔術を見せてやる……アルファルド、そんなに罰を受けたいなら自分の手で受けるといいよ」
「な……!?」
私は少ない魔力を身体中からどうにかかき集める。
普通の子供の有する魔力の十分の一にも満たない薄い魔力だ。しかしそれでも、練り上げれば充分な強さになる。
私の一族は代々魔力が極端に少ないーーだが一方で、技術や理論は飛び抜けたものがあった。
私はアルファルドが慄いたのを確認してルチアに声をかける。
「ルチア。今までアンタの魔術頼りで、一度も協力してやれなくてごめんな」
「えっ……」
「魔力が少ない分、私の魔術は特別製なんだ。条件付きの魔術だから移動には向いてなかったのさ…私の魔術はそう、『ある条件』を満たした時のみ発動する」
「ある条件……??」
「そ。まあ簡単に言うと、私はアンタの兄貴に賭けるってわけ」
改心しているかどうか確かめたかった。
だがアルファルドは変わっていなかった。自己陶酔しているだけで、その本質はそのままだった。こんなことになっても変われないなんて、見下げ果てた奴である。
ここで見捨てるのは簡単だ。
けれど私は兄貴の遺志を継いでやろうと思う。兄貴は最後まで賭けたんだから、私とて最後にもう一度機会をやってもいいだろうーーそう思って、発動させた。条件魔術を。
けして多くはない、しかし少なくもない魔力が練り上げられる。何かが爆発しそうになっている。
「いいかいアルファルド。今私は、自分の魔術に条件を付けた。条件はアンタが『あること』を行うことで、その条件が満たされなかったら一分後に魔術が発動する」
「あ……『あること』って、何だそれは?」
「それを言ったら賭けにならない。自分で考えてみな」
挑発するようにこめかみをトントンと叩く。
「でも発動する魔術については教えてやるよ。一分後に条件が満たされてなかったら、アンタに対してカウンターのような魔術が発動する。アンタ自身がこれまで他人に行ってきた暴行の、その全てを今ここでいっぺんに味わってもらうって魔術だ」
アルファルドは目を見開いた。
きっと彼自身が一番分かっているのだろう。どのくらいの罪を犯したのかを。
「兄貴の遺書ではリンチだと言ってたな。笑って見ていたとも言っていた。リンチってのがどんなもんだったか分からないが、いっぺんに喰らったら大きな事故に遭ったのと同じくらいの怪我はするだろ。あと四十秒だよ」
「っ! 待ってくれ! この通りだ、許してくれ!!」
「土下座なんかじゃないよ。そんなパフォーマンスを条件にするわけないだろ」
土下座するアルファルドに冷ややかな目を向ける。
あと三十秒。
「な、ならこれか……!? 俺自身を罰せば……」
「自傷行為なんてナンセンスなことしてる場合か? もう二十秒もないよ」
そして私は顔を横に向ける。
「ーールチア」
ルチアはびくりと反応した。
「アンタはどうする」
「え……」
「私はアンタのことが嫌いじゃない。もし嫌だってんなら、兄貴を助けたいんなら止めないよ? 痛みを分散させることくらいはできるんじゃないのか」
「……私は、兄さんを……」
ルチア! とアルファルドの叫びが響く。
「頼む、嘘をついたことは謝るから……! だから、助けてくれないかルチア!」
「……」
ルチアは目を逸らし、一歩後ずさった。
それが答えだった。
本当に傷付いたような顔のアルファルドを見て少しだけ溜飲が下がる。裏切られるってのはそういうことさ。
「あと数秒だアルファルド。まだ分からないか」
「分からない……一体何が間違っている!? 謝罪ではないなら……一体何が望みなんだ!?」
「……そうか。この期に及んでもアンタは分からないんだね」
無感情にカウントダウンを開始する。
五、四、三、二、一。
「残念だよ、アルファルドーー」
ばつん!! と弾けたような音がした。
いや、実際弾けたのだ。アルファルドの身体は、自身がこれまで行ってきた暴行をいっぺんに受け、全身が粉々になるほどの衝撃を受けた。
一つ一つに大した威力はなくても、無数のそれがいっぺんに跳ね返れば充分な凶器になる。気を失ったアルファルドに、ルチアが駆け寄った。
「に、兄さん!」
複雑な顔で駆け寄る彼女を横目に、私はゆっくりとした足取りで奴に近付く。
白目を剥いていた。残った左腕も折れている。こりゃあ戦うのはもう無理だ。日常生活もスムーズに行くとは限らない。
一応心配しているルチアにも聞こえないように、私はつぶやいた。
「条件の内容は『兄貴に謝ること』。……難しいことじゃなかったはずだ。本当に悔いていたなら考えることもなかっただろう」
アルファルドは確かに謝っていた。だがそれは、私に対してだけだ。
私にはその場を凌ぐために言っているようにしか見えなかった。
はあ、と小さくため息を吐く。
「目の前の私にしか謝ってないってことは、まあそういうことだったんだろうな……って、もう聞こえてないか」
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