第七話 祝福と呪縛は似ている(序幕・一)
今回から過去編に突入です(前回までの一連のストーリーがエピソード1とすれば、エピソード0という感じになります)
阿頼耶が力を得た経緯、その心の更なる掘り下げや、悪魔アスモデウスの活躍も描かれますよ!
十三歳の瀬那阿頼耶は学校のクラスでもよく気が付き、曲がった方が嫌いで、他人に平等に優しく……それ故に、自分が大事にしたいと思った友達とは上手くいかなかった。
「藤宮をシカトするように皆に言って回ってたの、お前なんだろ佐山。喧嘩がしたいんだったらコソコソせず、表立ってやれよ」
「瀬那、お前はこの問題に割って入るなよ。藤宮は河野の告白に対して、本人の目の前で『気色悪い』って言ったんだぞ。そんな女とは金輪際喋りたくないから皆も望んで無視してるんだよ!」
「確かに藤宮の振り方は酷いと思うぜ。けどあいつ自身は河野の告白の事を誰にも言い触らさなかったし、お前らがしてるみたいに陰で相手を貶して優越感に浸ったりもしない。それに比べたら、今のお前等の方がよっぽど悪い事してるだろ」
自分の等身大の目線で見る互いの気持ちの食い違いは、とても大きく、それが友達相手の事なら真剣に向き合って臨むに値する……阿頼耶は特にそう思う気持ちの強い子だった。
「ちっ……。ホント正しい事言うよな瀬那は。そうやっていつも真っ直ぐでさ、俺達普通の奴の事なんてきっと見下してるんだろっ! なあっ!」
「やめろ!!」
「――きゃっ!」
「……ごめん、叩く気は無かった」
「……謝んなよ、俺みたいな言葉遣いの女にさ」
「……」
「実際藤宮は少し不器用な奴だってだけで、いじめてる俺達よりずっとしっかりしてるし、弱ってる素振りだって人前じゃ全然見せないもんな。……瀬那、お前はそういうのも全部引っくるめた、皆の内面をちゃんと見られる奴なんだ」
「佐山……」
「でもな、お前みたいな心の強過ぎる奴に居られたら、俺なんかは惨めな思いをしちまうんだよ! ……悪い事してたのは謝る……けど俺を怒るなら、このちっぽけな心をただ潰すだけにしてくれ。正そうとかはしないでくれよ」
「お前をちっぽけだなんて風には思ってない。お前が本当は優しい奴だってのは知ってる」
「やめろって! そうやって受け止めようとされるのが、一番惨めになるっていうんだよ!!」
「佐山! ……くそ、行っちまった。なんだよ惨めって。……大体言葉遣いとか関係無いだろ、お前はお前なんだから……」
未成熟な中学二年生であっても、阿頼耶の心はクラスメイトのそれとは比較にならない程強かった。
しかし彼が正しい事の為にその強い心を発揮すると、必ず何処かで別の大事なものが傷付いてしまったのだ。
夜、家で両親にその話をしても――
「お前が不必要に他人を構ったりしなければ良いだけの話だ。大人になったら、他所様を気に掛けた奴程要らん苦労を背負う事になるんだぞ」
「晴人、阿頼耶にそういう汚い話はしないでっていつも言ってるじゃない。この子はまだ中学生なのよ」
「阿頼耶の強さは本物だ、その強さを親の俺達が伸ばしてやらなくてどうする」
「強過ぎる人は、私は嫌いよ……」
「愛美、俺はお前の事は守る。だが阿頼耶はこれからの人生で、自分が本当に守らなきゃいけない物を見付けていくんだ。その時の為の力が、阿頼耶には必要になるんだぞ」
「でもね、晴人。貴方がそうやって阿頼耶を躾る程、阿頼耶は本当に、私にさえ甘えてくれなくなっていくのよ。そんなの、寂しいじゃない……」
――こんな風になってしまう。
きっと大事なものを守る為に自ら何かを切り捨ててきたのであろう父と、愛する者への慈しみの心が強過ぎる母。
阿頼耶には二人の言っている事の半分程も理解出来なかったが――俺の所為で二人は苦労してるんだろうな――と、それだけは理解して、心の中でそんな両親を気遣っていた。
――もう、二人には俺の話をしないで居た方が良いのかもな。
どちらかの言葉に寄り添おうという気は少しも無かったが……。
自分が切っ掛けで両親が喧嘩をするみたいな感じになるのは凄く嫌な事だと、阿頼耶は思っていたのである。
自分にとって心を強くしていく事は何も特別なものでは無かったし、母もそれでも自分に構うのを止めるような人じゃないと分かっていた。
数日後、クラスで藤宮がシカトをされる事は無くなっていて、背中まであった髪を切った佐山は、阿頼耶を避けるようになっていた。
阿頼耶は学校終わり、なんとなく家に帰るのが嫌だという気持ちで、下を向きながら歩いていた。
その日は母の仕事が休みで、この時間でも家に居るからなのは分かっていた。別に、阿頼耶を叱ったりする訳でも無いのに……。
「ねえ、キミ?」
ふと声を掛けられて顔を上げると、そこには艶めく深紅のストレート・ロングヘアをした大人の女が立っていた。
女はダークブラウンの瞳で優しく微笑み掛けてくる。
とても淑やかな表情と佇まいだったが、しかし阿頼耶にはその笑みが、何故か妖しいものに見えた。
――(二)へつづく――




