第四話 色欲が大罪でも、ゴモリーは受け止めてる(終局・一)
……アラヤには、サクスの態度は卑屈で在り続けるものだという見え方が強く――彼はそれを苦手だと感じていた。
しかし彼女がこちらに対し、素直に己の敗北を認めた事については、尊重はしてやろうという気持ちだったのだ。
アラヤには元々、勝負の敗者を詰り悦に浸るような趣味は無い。
――こいつは、自分の弱さを自然の内に認めているのか。……大体の奴らは自分の弱さを、ひた隠しにしたがるもんだと思ってたがな。
そういう者達が強がってみせている時は大抵、その眼つきが濁っていたものだった。
……これはあくまで、かつてアラヤが知り合った人間達の事であったが。
しかしその人間達に比べ、このサクスはそこそこだが綺麗な眼をしている。
それはきっと己の弱き精神を見て見ぬ振りするのでは無く、開き直るのでも無く――その精神性と一生付き合っていくという、そんな一つの覚悟が彼女の瞳に現れているからなのだろう。
「……ゴモリー、困った事が起きた。敵となる悪魔は全員殺す位のつもりで居たのに、俺は今こいつの事を気に入り始めてる」
アラヤはゴモリーに向けてそう口走った。
リョーコが「えっ!?」と派手に驚いたが……。
しかしゴモリーは、彼の言葉には優しい笑みを見せるのだ。
「そう、貴方にはこのサクスの良さが分かるのね……。なら、私はこう進言する。アラヤ、サクスを貴方の軍団にしなさい」
ゴモリーのその言葉に、リョーコがさっき以上の驚愕の顔になった。
「ちょっ! えっ、本当にそれで良いの!?」
そう言ってくるリョーコに向けて、ゴモリーは彼女に対し、最初に頭を垂れてみせた。
「……貴女の気持ちは分からなくも無いわ」
「な、何がっ!?」
「彼となんらかの縁で結ばれ、その傍に居る事になる――自分の他にそんな女が居て、その上更に増えるなんて、きっと嫌でしょう。……折角、半年振りに逢えたというのにね……」
ゴモリーの言葉に、リョーコは背筋が凍る思いをした。
自分の隠しておきたい生の気持ちに、否応無しに迫って来られたような、そんな怖さを感じたのだ。
しかもそうしてきたその相手は、リョーコから半年間アラヤを遠ざけていた張本人なのである。
「そ、そんな事……」
――この女、なんなの!? この部屋に入ってすぐの時は、私に親しげに笑い掛けてきたり……そうかと思えば今は、自分がアラヤ様を奪っていったと自覚しておきながら、私に、同情してきてる!?
喧嘩を売られているとか、挑発されているとか、そんなものとは全く次元が違っている。
まるで掌で踊らされているようだ――そんな事をリョーコは今、同じ女であるゴモリーに対して思わされている。
ゴモリーはリョーコを、憂いを帯びた眼で見つめている。
――何処までも私に振り回されてしまう、可哀そうな女……。だけどもし、この場であっても貴女が自分の想いをより高められる程に純真であったとしたら、私はそれを邪魔したりはしないわ。
重ねて言うが、ゴモリーは人間の恋愛に絡む感情、気持ち――時に執着故の悪心さえ付き纏うそれらを識り司る悪魔。
……だから、若い人間の女の情は手に取るように分かるのである。
リョーコはそれを知らないが、しかし本能的にこう思う。
――この女は、私なんかとは女としての格が違う!!
リョーコはゴモリーに対して、自分からアラヤを取ったという風に思っていた。
しかしそのゴモリー自身にとってそれはついでの事であるに過ぎず、彼女は徹底してアラヤの為になる事こそを優先しているだけなのである。
もし自分以上にアラヤを大事に出来る者が現れたなら、ゴモリーは喜んで彼をその者へと差し出すだろう。
しかし自分の眼で見てそれが居ると判断出来るまでは、何がなんでも自分が彼という男を立ててみせるのだ。
貞淑にして苛烈……黒のドレスに似た衣服と、赤く蠢くようなロングヘアの彼女の事を、リョーコは今初めてとてつもない存在だったと気付いた。
少なくとも、今真っ向から彼女と何かを話そうなんていう気には、とてもなれない。
――(二)へつづく――




