キャスター隊の活躍とマルレーネの怒り
ドラゴニアの兵士は基本的に夜の相手は現地調達で行っていた。
ただ、北部戦区のように膠着状態に陥ってしまった場所では略奪する村や街がないので、その住民を犯したり自分の奴隷にする事が出来ず、軍内の不満も溜まってしまうために、軍が過去に略奪で得た売春婦を行軍に同行させているか、もしくは軍と契約を結んだ派遣業者が自ら所有する性奴隷を軍に同行させるかで対応していた。
今回、スピスカ=ノヴァに攻めてきていた第七中隊も御多分に漏れず、20人ほどの性奴隷を連れてきていた。
彼女達の多くは今、第二大隊が駐屯している付近の村々で調達した女性たちであったのだが、傭兵隊なども必要があれば彼女たちを買うことで欲求不満を解消していたわけだ。
今回、雅彦の配下となった「茶色の戦斧」傭兵隊には数名の女性もいるし、これは昔から言われている事だが、「男色は武士の嗜み」とも言うので、まぁ色々あるのだろう。
ここは触れないでおこう。
だが、この傭兵隊を女性ばかりの村に同化されるのは、色々と慎重に進める必要がある。
まず、元々ドラゴニアで育った彼らは我々とは常識からして違うことは間違いがなかった。
村人を見れば、襲うし、犯すし、略奪するのが当たり前として暮らしてきた人達なので、いきなり彼らを村人と混ぜてしまうのはリスクが高かったのだ。
「相手の同意なく村の女性に手を出したり襲った場合は容赦なく殺す(男性的に)」と脅した処で間違いは起こってしまうものだ。
そこで間違いが起こってしまわないように予めいくつか策を施すことにした。
まず、「村人と傭兵隊を物理的に接触を控えさせる」
先程、傭兵隊に食事を振る舞った際に村の女性や子供達に用意をさせたのだが、その彼女たちを見る彼らの目は、やはり油断ならないものがあると感じさせられた。
(女の子だー!と無邪気に喜ぶ傭兵もいたが)
まぁ、ゆくゆくは接触の機会を増やしていけば、村人として同化していくのだろうが、ここは慎重にしなければならない。
次に「体力的に追い込むことで、要らぬ気が起こらないようにする」
これは若い子を部活などに専念させることで精力を発散させることに似ている。
そこで戦いがない時以外は積極的に演習と訓練を行い、余分な精力は発散させると共に、我々が持ち込んだ新たな戦術や兵器に慣れてもらおうということにした。
次に「性奴隷以外の性の発散が出来る物を用意する」
まあ、最前線となっている関所跡はネットがまだ繋がらないが、彼らの宿営地となっている村の前に広がる広場はネットが繋がるので、ここに帰ってきている兵士はそういうサイトでも見てもらい勝手に発散してもらおう。
次に「酒は当分、控えさせる」
今はまだ戦時中ということもあり、酒は控えているが、当分は間違いが起こらないよう、酒は極力控えさせ、先に徹底して我々のルールを守るよう教育をしていく。
最後に「暇な奴には日本語を学ばせる」
余計な時間があると悪事に走る傾向があるのなら、暇な時間は日本語を学んでもらい、余計な事が考えられないようにしてやろう。
彼らへの教育係は村の女の子から選抜することになるが、彼女にちょっかいを出さないよう、ゲルハルトに徹底させよう。
…ひとまず、雅彦が考えた傭兵隊の同化策はこんな感じだ。
つまり、ここでも戦闘はもう少し継続してもらう必要があるという結論に至ったわけだ。
明確な敵が目の前にいれば味方は団結し融合もしやすくなるが、敵が居なくなってしまうと、バラバラに分裂してしまう恐れもあったのだ。
傭兵部隊が森の中に残していた武器が傭兵隊の手に戻っていた頃、北の森の中では戦闘が開始されることになった。
前日の戦闘で不甲斐ない闘いをした責任を取らせる形で、最前線で部隊の指揮を取っていた下士官に逃亡兵150名を率いさせて森の中を迂回させ村を襲わせようとしたのだ。
実はこの軍を迎撃したのは二人の女の子たちであった。
マルレーネ率いる特殊部隊のうち、最年少の女の子二人で組まれたキャスター隊が、150人の進撃を阻止していたのだ。
方法としては前回、傭兵部隊を迎え撃った時と同じく、ポータブルスピーカーから流れる子供達の笑い声や男性の断末魔の叫びとか、ゴ○ラの咆哮などの音をあちこちから敵に聞かせることで敵を恐怖のどん底に陥れて、夜陰と迷彩服の威力で敵から見えにくくしておいて更に、ナイトビジョンや赤外線スコープによる体温での索敵、霧に紛れた強襲で、接近してきた敵兵をダース単位で討ち取っていった。
彼女達は深夜に湖の東を出発し、湖の向こう岸をぐるっと廻る形で敵兵を叩いていき、湖の西を廻って味方の陣地に帰っていった。
この夜中から早朝にかけて行われた強襲で敵軍は潰走状態に陥り、敵軍は森の入り口付近まで撤退していったのだった。
マルレーネが前線に帰った頃にはキャスター隊は戻ってきており、何ごとも無い風を装って先日は敵を監視せていましたと報告していたのだった。
これは少し後でバレることになったのだが、マルレーネの怒りは相当なものとなる。
彼女は秀明から「くれぐれも単独行などをして無駄な被害が出ないように」と忠告されていたからだ。
口や表情には出さなかったが、マルレーネは秀明を信仰するレベルで慕っていたのだ。
彼女は父親から狩りの技を幼い頃から仕込まれていたのだが、その父親はドラゴニアの最初の襲撃で亡くすことになった。
元々、ファザコン気味であった処に父親のように頼りがいのある秀明が現れ、しかも神の技とも思えるような数々の武器や画期的な戦術などを彼女たちに惜しみなく与えてくれたのだから、彼女のファザコン病が悪化したのも無理はないことであったのだ。
歳の差でいうと、27歳もの差があるので秀明などは「雅彦と歳の変わらない娘みたいな存在」としか認識して無かったのだが、マルレーネの方からしてみると、出来ることなら一緒に暮らしたい愛されたい、いや妾の一人でいいので一生囲われたいと思う父親以上に尊敬できる大事な男性だったのだ。
余談であるが、秀明から見て祖父にあたる男が秀明の親父さんを産ませた相手は当時、25歳の女優であった。
祖父が当時60歳であったらしいので歳の差はなんと35歳にもなる。
またその偉大な祖父は腹違いの息子が8人いて、秀明の親父さんが末っ子であったのだ。
その腹違いの息子たちが相続したのが川北重工や川北マテリアル、川北自動車などそれぞれ日本を代表する大企業になっていくのだが。
で、その相手の25歳の女優をしていたらしい女性は祖父の最後の妾さんだったそうなので、親父はその女性の姓である「小畑」を名乗っているわけだ。
(その女優業をしていたらしい女性については子供を産んだ後に亡くなっているので詳しい話は残っていない)
秀明はそんな祖父を嫌っている部分もあるので「自分がマルレーネみたいな若く年頃の女の子に手を出すことは考えられない」と思っているということは一応説明しておこう。
そんな事情を知らないマルレーネは秀明への熱い想いを募らせていたわけだが、彼女の隊で彼の意向を裏切るような行動をとる隊員には容赦がなかった。
後日、戦闘がひと段落した時にキャスター隊の二人はマルレーネの猛烈なシゴキにあうことになる。
キャスター隊の二人はマルレーネをこれまた信奉しているので問題にはならなかったが、これが原因で隊の中では「勝手なことはしないようにしよう」という雰囲気が生まれたのだった。
さて時間は少し遡り、関所後の前線で敵の様子を観察していた比呂は、崖の上での監視を村の女の子に任せて、ドローンで周囲の偵察をすることにした。
このドローンは、ガソリンエンジンが4機付いているということもあるのと、元々はプロトタイプであることなどから、メンテや調整などに多少の手がかかるのが難点で、それさえなければかなり便利に使えるのになぁと思う比呂であった。
具体的に言うと、このドローンは姿勢制御を独自開発の光ファイバーを使ったレーザー・リング・ジャイロスコープという方式を使っているのだが、これは開発中のバージョンを使っているため、起動時には毎回初期設定とキャリブレーションをしなければならず、これに少なからず時間がかかるのだった。
軍に納入されているマスプロモデルはそういう不具合は解消しているそうなのだが、まあタダで貰ったような物なので文句は言えないかな、と思っていた。
いつものように初期設定を終わり離陸させたが、崖の上からは見えない所でドラゴニア軍はとんでもないことをしていた。
森の木は大量に切り出され、大きく森がえぐられていたのだ。
このまま放置していると西のテトラ山まで続く広大な森林地帯が消滅してしまう恐れがあった。
この森の存在があるからこそ、マルレーネ率いる特殊作戦隊がゲリラ戦を繰り広げられるわけで、「これは少々、マズいことになったな」と思ったのだ。
マルレーネに森の中から敵を攻撃させるか?
いや、いくら彼女たちが優れた兵士たちだとしてもわずか8人ではさすがに攻撃力が不足している。
かといって攻撃力を補うために火炎瓶など使うと周囲の森まで燃やしてしまう。
ここで新たな戦端を開いてしまうと、敵の矛先がこの森へと変わってしまうと何かとマズいことになる。
なんとかして敵の目を関所跡に向かねばならない、そしてその上で森を切り拓くことは辞めさせなければならない…。
さて、どうする?
大量の木が必要になるのは、関所跡に堀と鉄条網の防衛ラインがあるからだ。
彼らはその木材を原料に
ならば堀や鉄条網を撤去して村へと続く道をむき出しにしてやれば彼らの目は自然とこちらに向かうのでは?
もちろん、これには大きなリスクを伴う。
せっかくの障害物を埋めるのだから、林道の入り口まで敵は障害物なしにやってこれるのだ。
村から最終防衛ラインとなる林道の入り口にある橋までの距離はあっても数十メートル。
橋から林道出口の関所跡までの距離はあっても2キロ程度だ。
一方で、村から北にある森を抜けて大きく迂回するルートは10キロ以上はある。
だから直線距離で言うと林道を抜けてくるルートが圧倒的に近いのだが、肝心の金が採掘出来る金鉱は森を迂回するルートからでも行けないことはない。
森の木を全て切り倒していけば、ゲリラ戦に悩まされることなく、大軍の圧力で押し倒すことが可能なのだ。
「撤退戦を仕掛けるか?それともここで徹底した挑発を行なって敵の攻撃を誘発させるか?」
これは大きな悩みどころであった。
それらを思案し始めた頃、前線に新たに雅彦の配下に収まった傭兵隊が雅彦やヴィルマたちと一緒にやってきたのだ。
雅彦は、比呂の所有物となるランクル80を乗って来ていた。
比呂「お!それはもしかして俺の新しい愛車になるハチマルか?」
雅彦「おうよ、『メルボルン トヨタ』のシールがある通り、オーストラリア仕様の逆輸入車だぜ。
オレの車のエンジンと基本同じだけど、ラクソン・ターボが付いている分、めっちゃ走りそうだな!
ミッションのフィーリングも乗用車っぽいので乗り易いな。
とりあえず、用事が済んだら乗り回してみろよ!」
比呂「おう、届くの早かったな。
本当の事言えば、先に改造してから乗りたかったんだけど、時間が無かったから仕方ないな」
雅彦「装甲でも追加するつもりか?」
比呂「いや、まさか。
オレのハチマルはグランドツアラーだぜ。
敵の矢面に立つつもりはないね。
あくまでも長距離遠征用さ」
雅彦「長距離遠征ってどこに行くつもりだ?パイネか?」
比呂「おう、そうさ。ビスマルク王国のリンツ卿が治めているというパイネという街さ。
距離的には100キロ程度なんで兄貴の車でも無給油で往復は容易いんだけど、将来的には何度も行き来することになるかもしれないし、他の街にも行くことになるかもしれないから、航続距離は長い方がいいし、乗り心地が良い方がいいだろ?
クルマの中で何泊もするかもしれないしな」
雅彦「なるほどな、ところで後ろから付いてくる部隊は、さっき無線で連絡した通り、『茶色の戦斧』傭兵隊だ。
村の女の子の代わりでこちらの防御に当たってもらおうと思っている」
ハチマルの後ろにゾロゾロ着いてくる集団は雅彦が言っていた通りの、みるからにバイキングそのものと言った雰囲気と装備をしていた。
比呂「おー、凄いね、なんか壮観だな!
彼らには早速、戦闘してもらわなければいけないかもしれないけど、兄貴、ちょっといいかな?」
比呂は先程考えていた話を雅彦に聞かせるのであった。
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