傭兵隊の降伏と寝返り
ドラゴニア東部戦区 第二軍 第七中隊の約千人の部隊は火炎瓶と催涙水のコンボ攻撃により、二度目の後退を余儀なくされた。
一度目は鉄条網と泥沼化した堀による後退で怪我人は多勢出たのだが死者はいなかった。
しかし二度目の攻撃では最前列の部隊は火炎瓶による範囲攻撃を受けた後に、催涙成分がたっぷり入った水をかけられたことで戦闘不能に陥り、さらに後方部隊も催涙水の影響で一時的に目が見えなくなったり、呼吸困難に陥る兵士が続出、
さらに小川で火を消そうとしたり目や口を洗おうとした兵士も川の中に入れられた催涙水によって更に症状は悪化して完全に戦闘不能に陥り、前線は完全に崩壊して野営地まで退却した。
この戦いは火炎瓶による火傷や丸太の下敷きになり圧死した兵士が25名ほど出てしまっていた。
更に迂回攻撃をする為、スピスカ=ノヴァの北の森の中を進ませていたハズの傭兵部隊50名は行方不明になっていた。
また、一日かけて用意した大量の丸太を敵の防御ライン付近に全て放置せざるを得ない状況になってしまい、第七中隊の隊長は激怒していたのだ。
この大惨敗の責任が自分にあることがどうしても認められない隊長は部下に責任を押し付けるため、最前線で重装歩兵の一団を率いていた部隊長を問答無用で切り捨てていた。
また、行方が不明になった傭兵隊にも敗戦の責任を擦りつけ、「もし奴らが帰ってきたら残らず縛り首にしてやる!」と全部隊に通達していた。
「このままでは、自分の処に火の粉が飛んできてしまうな」と考えた副隊長は、一つの案を隊長に提出した。
それは「全ての奴隷を前面に押し立て、その背後に督戦隊を随行させ、逃げようとしたり動きの遅い奴隷は容赦なく殺すことで、「肉の壁」を使い敵の防衛ラインを無理矢理突破させようというものだった。
これは「悪魔の作戦」であった。
前面に配置された奴隷たちは進んだら鉄条網や火炎瓶、催涙水、矢などの犠牲になり、逃げたとしても督戦隊に殺される運命だからだ。
副隊長は逃げ帰ってきた兵士を徹底的に尋問し、「燃える水」による攻撃や、「目や口に入ると行動不能になる霧」への対抗手段を真剣に考えることにした。
まず「燃える水」についてだが、これは正直防ぎようがないと言う結論に達していた。
盾などで防いだとしても盾ごと燃やされるわけだし、鎧兜も燃え盛る炎を防ぐことは出来なかったからだ。
そこで「濡らした布を盾に貼り付け、それで防ぐのはどうか?」という案が出たのでそれを実行する事にした。
幸い、水はすぐ近くに小川が流れているので大量に樽などに入れて前線に持ち込んでやれば例え火が着いても消せるだろうという考えも出た。
ガソリンがどのようなものか知っている現代の我々はそんな程度ではガソリンの引火を防ぐことは不可能だと知っているが、石油などを見たことがない彼らがそう思ってしまうのも無理のない事であったのだ。
更に「目や口に入ると戦闘不能になる霧」への対処法としては、「奴隷に頭から麻袋を被らせておいて目の処に小さな穴を開けておけば防げるのではないか」という案が出るのであった。
これも現代人なら「そんな程度で防げるわけない」ってのが分かるが、文明レベルが中世辺りの彼らにそんなことは分かるわけがなかったのだ。
催涙ガスによる攻撃を本気で防ごうとするのであればガスマスクが必要だ。
軍で使用されているガスマスクが手に入らないのであれば、機密性の高いゴーグルと有機溶剤をストップさせるフィルターが付いた防毒マスクは最低でも必要となってくる。
これならホームセンターでも入手可能だし、価格も随分安上がりだ。
これらは秀明や比呂が大量に通販で購入していたので雅彦たち前線の部隊も全員持っていた。
現時点では火炎瓶や催涙水などの攻撃は敵に対して極めて効果大なのだが、多用することで敵が対処法を見つけてしまうのはマズいと考えられていた。
そこで、それらだけでなく、他の方法も万遍なく使うことで、敵の対処を困難にさせる方針を雅彦などは考えていたのだ。
毎回、ワンパターンな迎撃方法を使うのではなく、敵の出方などにより攻撃方法を細かく変えていく。
その為に、火炎瓶や催涙水だけでなく、数多くの秘密兵器や戦術を準備していたのだ。
比呂は雅彦がいる防衛ラインとなっている関所跡にやってきていた。
前回の防衛戦で火炎瓶をほぼ消費したと聞いていたのでその補充と雅彦から戦いの様子を直接聞きに来ていたのだった。
雅彦「今回は敵兵の死骸を回収に来ないな、これは最後まで放置するしかないかな?」
比呂「季節的にそれほど気温が高くなる訳ではないから疫病が蔓延することはないだろうけど、常に死体が見えるのはあまり気持ちいいもんではないな。
最悪、このままの状態で火葬するしかないかもしれないな」
比呂は火炎瓶を指差しながら言った。
雅彦「あぁ、それでも最終的には誰かが集めないといけないから、その為にも防護服なども用意しといてくれよ」
比呂「あぁ、分かった、注文しとく」
雅彦「で、親父は何してるんだ?」
比呂「兵站を担ってくれてるよ。
あの人は日本側でする仕事が多いから、飛び回っているみたいだけどな。
今日もどっかに出かけるから、こちら側で何か変化があったら連絡してくれと言ってたわ。
明日には帰って来るって」
雅彦「そう言えば、親父はジープ乗りの影山さん引き込んできたらしいな」
比呂「あぁ、こちらに来た時に少し会ったよ。
相変わらずあの二人、悪口を言い合ってたよ(笑)」
雅彦「ホンマ、仲良いよなあの二人。
いつもお互いに煽りまくってるんで観てたら楽しいけどな。
って言うか、あの人ってそう言えば病院経営してたんな。
オレも足首怪我したとき、あそこの整形外科に通った事あるわ。
あの病院も怪しい四駆乗りが他にも三人ほどいるぞ、ほとんどランクル乗りだけどな」
比呂「人を増やすのは慎重にしたいと言ってたから、その彼らまでこの世界に引き込むのかどうか疑問だけど、四駆持っていてオフロードを走った経験があるのは心強いな、しかも全員『医者』だし」
雅彦「いや、看護士とか医療事務なんかもしてたと思うから皆が医者ではないと思うけどな。
まあ、俺も知り合いは多いけど、誰一人としてこの世界の事は教えてないから、協力者を増やすのは親父に一任してもエエような気がするんだけどどう思う?」
比呂「あぁ、俺は人の事はよく分からないから、親父が適任だと思うよ。
そういえば、次に引き込む人はもう決めてるみたいよ。
親父の弟の秀二さんね。
確か建築業してる人」
雅治「おう!叔父さんね。
昔はよく会ったけど最後見たのは葬式の時かな?
あのゴッツイ人よな?」
比呂「ああ、面白い人よな。
まだお年玉くれてたりするよ。
二十歳になったからもうくれないかな?」
雅彦「親父と秀二さん、今は普通に話してるみたいだけど、叔母さんの話では子供の頃はあの二人、ものすごく仲が悪かったらしいで」
比呂「マジか、そんな風に見えないな。
そういえば、叔父さんは昔、剣道で全国二位くらいになったと言ってたっけ?原因はソレか?」
雅彦「ああ、よく知らないけど、親父や影山さんがキャンプとかで酒飲みながら昔の話しているのを聞いたことあるぞ。
親父や影山さんは昔から張り合ってたらしいけど、強さ的には大したことなかったと言ってたっけな?
だけど秀二さんはガタイも良かったこともあって鬼強かったらしいで、中学生になった頃には負けないようにするので二人とも必死だったとか言ってたわ」
比呂「出来過ぎる弟ってことかな?それならうちらも仲が悪くないとおかしいよな?」
雅彦「ヒロちゃんが可愛いからそんなことにはならないよね?」
比呂「まあうちらは歳が5歳離れてたから喧嘩はしなかったよな、マジで。
あそこは確か2歳差だったから仲が悪かったんかな?知らんけど」
雅彦「秀二さんの件は親父に任せるか。
好きなようにするでしょ。
だけど建築系のことが分かる人が合流するのはマジでありがたいな、この世界をグレードアップさせるのに建築業の助けはマジ必要だからな!」
比呂「あぁ、それからオレ、ランクル買ったぞ!
明日、一応届くみたいなんでお披露目するわ」
雅彦「マジか!やっぱりランクル80(ハチマル)系か?」
比呂「そうだよ、それもオーストラリア仕様のドッカンターボ付きディーゼルエンジンのフル改造車。
元は兄貴も知っている人が乗ってたとか親父は言ってたよ」
雅彦「あぁ、多分分かるわ。
白でシュノーケル付けたクルマだわ。違うか?」
比呂「そうだよ、エアコン直してたから納車が遅くなったと言ってたけど、ひとまず後方で人員輸送で使うには最適なクルマかもしれんよな、乗り心地良さそうだし」
雅彦「あぁ、ナナマルとか軽トラで慣れてたらマジでビックリするで、フワフワな乗り心地で」
比呂「マジか、今から楽しみだな。アレクシアと早速デートせにゃならんな」
雅彦「ほー、そりゃそりゃ。仲の宜しいことで。
いきなり子供とか作るなよ?親父は孫の顔見たがってたけど」
比呂「するわけないヤン、まぁヘタレの兄貴もヴィルマに手を出しそうにないけどな」
雅彦「お、おう、そやな」
昨日の出来事を思い出して口籠る雅彦であった。
比呂「あ、そうだった、言わないといけないことがあったわ。
マルレーネさんがいるやん?『森の主』とか親父は言ってたけど。
あの人の部隊、例の部隊を森の中で散々追い回して降伏させたそうだよ。
今はまだ森の中で拘束してるそうなんだけど、戦闘が一旦落ち着いたら彼らと話してもらいたいと親父が言ってたで」
雅彦「え?降伏させたの?マジで?
戦闘が終わったら、また前回みたいに尋問して解放すればいいんじゃないの?またエマさんに対応任せておけばいいんじゃない?」
比呂「いや、それが何かおかしな話になってるそうなんよ。
マルレーネさんが言うには『こちらに寝返りたい』ってことらしいんだわ。
というのも、彼等はそもそも傭兵部隊で敗れた場合は給料が出ないことがあるだけでなく、今回は多分オレらが生贄にされるかもしれないから戻れないとか言ってたらしいわ」
雅彦「マジか!金払えば戦ってくれるとかありがたいんだけど、信用出来る相手なんかな?」
比呂「要はソレよな。俺もそこが一番の心配なんよ。
敵の謀略ってことも往々にしてあることだしな。
だけど一般兵って言うのではなく傭兵ってことなら案外、アリなんかもしれないんかなと思うわ」
雅彦「うーん、で、その傭兵隊って何人いるわけ?」
比呂「50人」
雅彦「へ?50人?」
比呂「そ、50人。8人の部隊で50人のプロの戦闘集団を森の中で追いかけ回して降参させたんやで。
マジで耳を疑うやろ?
マルレーネさんとか、どんだけ凄い人なんよ?って思うわ」
雅彦「想像を絶する強さよな。
元から凄いハンターだった処にもってきて、親父から現代戦術を叩き込まれて最新装備を使って集団戦が出来るようになったんだから、それくらい出来て当然なんかもよ。
問題はその人数の多さよな。
うちは子供合わせても40名ほどなのに、いきなり50人も増えたら反乱起こされたらあっという間にやられちゃうよ?」
比呂「あぁ、それよな。
で、親父から兄貴への伝言な。
『お前が傭兵隊を率いろ』だって。
なんでもマルレーネさんもそれを望んでいるらしいんよな」
雅彦「俺が傭兵隊を率いるだって?またオヤジもムチャ言うな。
オレなんかより親父がやればいいんじゃない?
どうせ村人たちの扱いって親父の会社の社員扱いなんだしさ。
オレみたいな若造の言うこと聞くもんなんかね?
ハッキリ言って自信ないわ」
比呂「いや、俺もアニキがやるべきだと思うよ。
うちらは確かに歳は若いけど、日本からやって来たってだけである意味チートな存在なんだよ、オレら。
村人からも相変わらず神様扱いされてるでしょ?
だからマルレーネさんも雅彦に率いて欲しいって言ってるらしいもんな」
雅彦「ま、いいや。なる様になるでしょ。
ひとまず彼らと話をしてみないことにはな。
で、彼らをこちら側に引き込むとして、具体的な策は考えてるのか?」
比呂「当たり前よ、もう考えてるよ」
そう言ってニヤッと笑う比呂であった。
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