子供たちの避難計画と比呂の悪巧み
前回の襲撃では避難が間に合わず人質になってしまった子供たちであったが、二度とそういうことがない様に彼らの避難計画も立案された。
計画を立てたのは比呂で、先日発見した事を利用して子供たちを安全地帯へ誘導する方法が導入されることになった。
先日発見した事というのは、「日本人の誰かと接触、もしくは同じクルマに乗っていれば日本側に転移出来る」というものだった。
比呂はアレクシアとダム湖に行った後、アレクシア以外の子たちや、雅彦などにも手伝ってもらい色々試したのだが、日本人の三人なら問題なく村の子たちを日本側に転送出来たのだ。
これは村を護る上で大きな発見であった。
最悪、村の住人を全て日本側に移動させてやればいくら巨大な敵が攻めてきても彼らが手を出せない逃げ場があるということだからだ。
だが、逆に言うと村に残されたすべての物は破壊され、場合によっては敵に完全に占領され、異世界に行きたくても行けなくなってしまう。
それに、この事実を村長のエマさんに伝えたところ「いざとなったら逃げるが、戦える人は村に残って戦う」という。
この気持ちは分からないでもない。
そもそもドラゴニアは村の男達を虐殺した憎き仇だし、先祖代々住んできた村をカンタンに手放したくないという想いがとても強いからだ。
ましてや、以前のように多勢に無勢というような絶望的な状況ではなく、我々日本人の協力でかなり強力な防衛力を得ることが出来つつあるからだ。
こうしてみると最初から村の防衛力を高めたりせずに村の住人を全て日本に避難させた方が良かったのか?などとも思うのだが、「異世界人も日本人と一緒なら日本に行ける」ということは後から偶然分かったことなので、時すでに遅し、という感が強い。
まあ、なるようになれだ。
村の住民で非戦闘員は戦闘が起こった場合には一箇所に集まり、それから村の南側、つまり畑などがある広場とは正反対にある壁の抜け穴を通って避難所になっている洞窟を目指すことになっていたのだが、
緊急時には村の宿屋の付近に置いている4トントラックの荷台に全員乗り、ランクルで牽引しながら一気に坂道を駆け上がり、そのまま日本へ突入することになった。
ただ、この方式だと牽引するランクルに日本人が一人、そして4トントラックにも最低もう一人の日本人が要ることになるので、本当に追い込まれた後でこの方式は危険が大きい。
敵との交戦が始まる前に、前線に一人誰か日本人を残しておいてその隙に、村の子供達を全員、4トントラックごと日本に送り届けるのが最善だと思われた。
日本に子供達を送り届けた後は、またランクルとトラックを切り離してランクルだけ異世界側に戻れば良い。
子供たちには、鉱山の事務所で大人しくしてもらっておこう。
そこで、エマさんには子供達の避難訓練もしてもらいつつ、他の大人たちは武器を使った訓練を行うことにした。
最終防衛線となりそうな村の前の開けた土地の端にある橋の周辺も徹底してユンボでイジりまくった。
橋の向こう側、つまり関所側の林道の周囲の木は刈り込み、火炎瓶などで森に延焼しないようにして、また遮蔽物になりそうな岩なども撤去した。
小川の中には鉄条網が仕掛けられ、川の堤防を転がり落ちた敵は鉄条網に引っかかるようにした。
また川の手前側はユンボにより高い土の堤防が作られ、その堤防の上には矢を防ぐ盾が用意された。
関所跡を突破し、林道を抜けてきた敵は、橋の前の開けた場所に来ると、まずは堤防の上の盾の陰から弓矢で攻撃される。
盾などで守られた兵士には火炎瓶が投げ込まれ、慌てて水の中に逃げようとした敵兵は川の中に仕掛けられた鉄条網にひっかかる。
橋の手前にはユンボが立ちはだかり、橋を渡ってこようとする敵兵を文字通り払い除ける。
ユンボのキャビンには即席ながら防弾板が張り巡らされており、多少の弓矢や投石ではびくともしない防御力を持たせている。
また、場合によっては高圧洗浄機で催涙水を敵兵に対して放射したり、インパルス消火銃で物理的に敵をぶっ飛ばすことも可能。
また、敵が林道に縦一列に並んだということは、ランクル73で突撃を噛ませて敵をなぎ倒すなどもやろうと思えば可能だ。
リスクが大きいのでこれは最終手段だが、雅彦はこの方法をマジで実行するつもりらしく、何やら色々クルマに改造を施しているようだった。
また、ランクル73にはヴィルマとイングリットという雅彦のフィアンセ二人組(これは比呂が面白がって名付けた)を荷台に乗せて、彼女たちに槍やインパルスなどを持たせて敵を走りながら攻撃する練習を散々やっているようだった。
先日の襲撃の時、敵の騎馬兵をランクルで追い回す際に、雅彦はインパルスを片手に持って走り回っていたのだが、これがなかなか敵に攻撃を当てるのが難しく、結局、クルマで敵の騎馬に直接ブチ当てて落馬させてからのクルマによるダイレクトアタック(要はひき逃げ)が非常に多かった。
つまり、攻撃力が不足していたのと、攻撃範囲が狭かっため、周囲の敵兵を効率よく倒せなかったのだ。
そこで、荷台に乗った人が長槍などですれ違いざまに攻撃したり、追いかけてながら敵を背後や側面から攻撃すると攻撃方法に幅が出る。
長槍の長さが4メートルほどあれば、3メートルほど離れた敵にも攻撃が当たる。
運転手は運転に専念でき、また荷台の兵士は周囲に近寄ってくる敵兵への攻撃に専念出来る。
最終防衛ライン、つまり橋が突破された後は、ランクルによる機動戦がほぼ唯一の対抗手段である。
開けた土地をひたすら走り回りながら、敵と交戦をする。
もし、味方の撤退が遅れた場合は、これでひたすら時間を稼ぎつつ、敵の侵攻を遅れさせねばならない。
あと、親父の秀明は、ここ数日、マルレーネたち狩人部隊と共に森に入り、具体的な迎撃方法などを直接教えているようだった。
おそらく近々起こるであろう敵の本格的な侵攻は、おそらく兵力差だけでいうと、こちら側が最大40名なのに対し、敵は数百から1万くらいなので最悪、250倍もの差があると思われる。
いくらこちらに銃やランクルなどがあったとしても、純粋な力比べでは絶対的に部が悪い。
敵捕虜からの情報では出張ってきている敵軍にはドラゴンなどの大型モンスターは居ないらしいが、そんなのはウソの可能性もある。
ドラゴンやゴーレムなど大型のモンスターがいないとしても安心は出来ない。
どこぞの軍隊みたいに前衛隊の後ろに督戦隊がいて、逃げる兵士や戦意が低い兵士をバシバシ殺すようなイカレた軍隊が相手の場合には、たとえ空掘りや鉄条網が死んだ兵士で埋め尽くされても次から次へと敵兵が屍を押し除けて押し寄せて来る可能性もあるし、
こちら側には魔法はないのだが、もしかすると敵側は魔法だの魔術師だのがあって、狂乱する魔法なんかをかけてバーサーカーみたいになった敵が押し寄せてくる可能性もある。
地球上の敵ならまだ考えや動きが読み易いのだが、常識が通用しそうにない異世界だと、心配しなければいけない事が爆発的に多くなる。
またこちら側は「損害をゼロに抑える」という絶対条件がある。
撃退出来ることは当たり前、その上で味方の死者数をゼロに抑えるのが僕ら日本人全てに共通する目標だからだ。
現時点では襲撃を撃退して一週間経った。
想定していた最短時間では流石に襲っては来なかったのだが、まだまだ油断は禁物だ。
…と比呂はこんなことを考えながら、自分のゲーミングPCに向かい、戦略を練り直していた。
モニターには彼が手書きした村周辺の地図と防衛ラインや罠などが書き込まれたものが映し出されていた。
比呂「うーん、まだ足りない。圧倒的に敵の情報が少ないんだよなぁ」
敵の軍の規模や編成、ドラゴニアという国がどんなものなのかは先日の捕虜への尋問である程度は掴めていたが、敵の考えが手に取るように分かるにはまだまだ情報が不足していた。
出来れば今後のことを考えると敵に自分たちへ協力するスパイを潜入させたい。
そういう意味では捕虜を解放したことは間違いだったのか?
…いやいや、アイツらはどう考えても信用ならない連中だった。
あの手この手で懐柔して、こちらの協力者に仕立てて敵に送り返して情報を抜かせるなどという方法もあったのかもしれないが、結局肝心なところで裏切られるような気がする。
弱味を握って動かすという手もあるかもしれないが、どうせそういうことをやるのなら、もう少しマシな連中を使いたい。
そんなことを考えたら情報部が必要になってくるんじゃなかろうか?と。
まあ、分かりやすい例でいうと、アメリカのCIA(中央情報局)みたいなものが必要となってくるんじゃないか?
また、敵のスパイがこちら側に侵入してくることも想定したカウンターインテリジェンスも充実させる必要がある。
今はまだ敵の協力者がこちらに侵入していることは考え難いが、仮にこの村に敵への協力者がいると仮定すると、敵はどう動く?
オレなら、日本からもたらされている物資の独占を考える。
その為に手っ取り早い方法はいくつか考えられる。
例えば、
*日本人を拉致して無理矢理自分たちの要求を通す。
*村人を拉致して日本人を言うことを聞かせる。
*全員を降伏させて無理矢理協力させる。
こんな処だろうか。
オレなら、村人や日本人たちが絶対思い付かないようなルートで精鋭部隊を送り込み、要人を拉致して降伏させるか、言うことを聞かせるかだろう。
では、我々が絶対思いつかない敵の侵入ルートって何処だろうか?
村の西はテトラ山の頂があるが、この山はどちらかというと山脈に近い。
四つか五つのピークを尾根が結ぶような形状をしていて、南北に細長い形状をしているように見える山なのだが、中腹にある村から見上げてみると、ものすごく険しい壁の様にみえる。
アレをわざわざ超えてくるのはまず想像しにくい。
我々の世界では優秀な防寒着や登山用品、登山に関するノウハウが充実しているが、中世レベルの文明のこちらの世界でこの時期の山越えはそれこそ命がけを通り越して自殺行為だろう。
だが我々の技術力なら不可能ではない、割とカンタンに突破出来る。
エンジン付きのライトプレーンを丘の上から飛ばして、山を飛び越えてやればいいだけ…なのだが問題点も多かった。
まず、我々の中でライトプレーンを操縦出来る者が居ないこと。
仮に操縦免許を取得する、などしてもいいかもしれないのだが、肝心の時間がない。
もう一つ言うと、この世界ではたまにだがワイバーンなどの大型の飛行可能なモンスターまでいる。
丸腰で機動力も耐久力も皆無のライトプレーンは命取りになる可能性が高い。
それならランクルであちこち偵察に行く方がよっぽど現実的だ。
…ということで、「これは必要だろう」と新たに目星を付けているものがある。
「偵察用の大型ドローン」だ。
これもいくつか条件がある。
なるべく国産で、対空時間や行動半径が広くて、高性能なカメラを装着していることだ。
まず国産にこだわるのは、外国製だとドローンで得られる情報が他国に抜かれる可能性があるからだ。
この世界のことは特に「お隣の国」には絶対にバレてはいけない。
どんな風にこの世界を悪用するか想像すると恐ろしくなるからだ。
人権無視は当たり前の話で、こちらの世界の住民を全て奴隷化、環境破壊など一切考慮に入れない無謀な資源の採掘、奴隷化した住民のDNA情報を無断で取得して臓器売買用の牧場と化す。
話を聞くとドラゴニアも彼の国と良く似たところがあるな、とは思うがこっちの方が遥かに恐ろしい国だからだ。
…ということで情報を秘匿する点を優先して、なるべく国産品で調達することにする。
対空時間が長く、行動半径が広いという条件を満たすのはやはりエンジン付きの農業用ドローンか、もしくは軍事用に開発されている物の民生品かどちらかだろう。
金銭的には最近は少し余裕があるので、面白そうな機種を二つほどピックアップしてポチってみた。
早いものは一週間もすれば届くらしい。
さあ次々。
えっと、村の西にある山越えはさすがに無理があるとして、村の南の崖を登ってくるルートはどうだろうか?
村の南側は高さでいうと数十メートルはある崖が延々と広がっている。
崖というか岩がゴツゴツした地形で、大雨でも降ると岩が落ちてきそうな怖い地形だ。
ここなら確かに登って来れないことはないが、見張りが一人でもいれば、接近するのも困難なほど遥か遠方まで見渡せるので、ここを登ろうとするのもかなり無理がある。
とりあえず、村人から数名ピックアップして、村の南側や林道の出口の関所跡にはそろそろ交替で見張りを立ててもらった方がいいだろう。
「あ」
何かを思いついた比呂はパソコンのモニターにパチパチとある言葉を打ち込んだ。
「アニキに村の南側を見てもらう」
何かを企むときよくする悪ガキの顔をした比呂がそこにはいたのだった。
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