ドラゴニア侵攻開始
ドラゴニアの東部戦区所属 第二軍、兵力約1万は主人公達がいるビスマルク王国の北西部に位置するテトラ山の中腹にある、スピスカ=ノヴァの北北東約60キロの地点に駐屯していた。
ここは本来ならビスマルク王国に所属していた村があった場所なのでドラゴニアはビスマルク王国の領土を侵犯していることになる。
ドラゴニアは党が国を牛耳る国であるが、国は大きく分けて五つに分かれていて、大まかに言うと最大の兵力と資金力、食料生産力を持つ「北部戦区」を中心に、西方の海上交易を仕切っている「西部戦区」、南部に広がる山岳地帯を勢力下に置いている「南部戦区」、中央政界のコネの強さと国内の治安維持に絶対的な力を持つ「中央戦区」、そして今回ビスマルク王国に侵攻を始めている「東部戦区」がある。
この国は、それぞれの戦区の絶妙なパワーバランスの上に成り立っている軍閥の集合体でもあるのだ。
それぞれの軍閥は独自の経済的な基盤を持ち、軍隊でもあり大規模農業の運営母体でもあり、また大商人でもあるのだ。
一応、戦区の中にも「格」があり、中央政界を牛耳る中央戦区は規模の割には大きな権力を持っていて、他の戦区に対して指示や監督を行う立場にある。
また他の戦区も規模が大きくまた戦闘経験が豊富な北部戦区の格は他より一段高く、東部戦区は最も格が低いとされていた。
元々、歴代の国の代表とビスマルク王国との関係はそれほど険悪ではなく、双方の国民の交流や交易は非常に盛んで、大きな穀倉地帯を抱えている東部戦区からは主に穀物や畜産物の輸出が盛んで、それに対してビスマルク王国は鉱物資源や酒類、木工製品などの輸出が盛んだった。
これはスピスカ=ノヴァ付近の山でも言えるのだが、金の産出量はビスマルク王国は特に多く、金そのものの産出もそうだが、金細工製品の生産も周辺諸国よりずば抜けて多かった。
このように東部戦区とビスマルク王国は双方が補完する関係にあったのでこれまで比較的、友好関係が続いていたのだが、現在の東部戦区のトップが中央政界の横槍によって失脚したことから様相は一変した。
何十年も続いていた北部戦区と北方に広がるバイキング系諸国との間に和平が成立したことにより、これまで最も周辺諸国への侵略が手緩かった東部戦区に喝が入れられる形でトップの交代劇となったのだった。
ビスマルク王国に侵略を開始した第二軍は総兵力1万で数千の奴隷を従えているのだが、この軍にも北部戦区の精鋭部隊が一部派遣されてきていた。
当然、元々東部戦区にいた部隊は彼らを毛嫌いし、その北部戦区の精鋭部隊は東部戦区の連中を「ヘタレ野郎」「お荷物戦区」と蔑んでいたのだ。
これらの内部対立が、東部戦区全体を好戦的にさせていたことは想像に難くない。
実際のところ、「経済規模」だけで見ると東部戦区は他の戦区と比べ悪くないどころか頭一つ抜き出すほど良かった。
理由はやはり他の戦区ほど戦争に明け暮れてなかったせいで軍事費の負担が少なかったこともあるし、何よりも隣のビスマルク王国などとの交易が非常に盛んで、東部戦区が実質的にドラゴニアの交易の窓口のようになっていたからだ。
だから、ドラゴニア、特に東部戦区を拠点とする商人のネットワークはビスマルク王国などにも張り巡らされており、今回の侵攻に際しても相当の内部工作が商人経由で行われていた。
ビスマルク王国側の商人などもドラゴニア領内での商売を許してもらうにはドラゴニアに協力しなければならず、多くの商人たちはビスマルク王国内部での浸透工作などに従事していたわけだ。
このようにもう随分前からビスマルク王国は実質的にドラゴニアに半分乗っ取られているような状態だったのだが、ビスマルク王国内部にもその様な動きに抵抗する勢力が居た。
代表的な存在としては、ドラゴニアに直接面した領地を任されているリンツ卿などが挙げられる。
ここは数年前に親ドラゴニア派であった領主が逝去したことで、反ドラゴニア派であった現当主が跡を継いだ。
領内のドラゴニアに協力的な商人や貴族などを排除したことで、ドラゴニアは彼に対して「宣戦布告」を行ったのであった。
この動きに対してはビスマルク王国の王家は完全に無関係を決め込んで傍観者の立場をとっていた。
ビスマルク王国内にはリンツ卿の考えに同調する者もいたので援軍を派遣してくる者もいたが、それらを併せてもせいぜい1万に満たない数なので、守りに回らざるを得なかった。
一方、ドラゴニアの東部戦区所属の第二軍が直接、ビスマルク王国内部に侵攻し、15ほどの村々を壊滅させたが、ドラゴニア各地から集めた多くの奴隷達を使い、それら壊滅させた村への入植を始めていたのだ。
ドラゴニアの侵攻が一見すると緩慢なのは侵攻して住民を虐殺するのが当面の目的ではなく、敵対するリンツ卿を経済的にも孤立させ、自滅を誘う戦略に基づくものだったのだが、軍の内部にもそれらの動きは生温いと反発する勢力がいた。
その代表例は先程も言った北部戦区から派遣されてきたバリバリの精鋭部隊などだったわけだが、彼らへの反発もあり、たとえ1部隊の敗北なども許さない雰囲気が軍の内部にあった。
東部戦区第二軍は、周囲の村々を略奪したことで得た多くの奴隷たちから、南南西にあるテトラ山には金の鉱脈があることを聞き出していた。
金そのものの埋蔵量は大したことはないのだが、山の中腹にはスピスカ=ノヴァ=ベスという城が以前は建っていて、その城が背後にある鉱山を守る役目を担っていた。
だが、金の産出は元々それほど多くないことや、戦略的な重要性も低くなったことで城は荒廃し、現在では小さな村が残されているだけだと事前の報告ではあったのだ。
それゆえ先遣隊を再度、送り込んだが今回はそのうち約半数が殺され、半数は逃げてきたり一時期捕虜として捕らえられていたが、解放されて帰ってきたのだった。
村を征服する許可を得た千人隊は、彼らから村の様子を詳しく聞き出していた。
「見たことない形の戦車がいた」「水を操る魔法を使う魔導師がいた」「その水の飛礫をぶつけてくる魔法にやられた落馬した」「200エル(約100メートル)離れた重騎士の鎧を一撃で貫通する攻撃をする魔導士が敵にいた」「敵の戦車はこちらの馬が疲弊するほど走り回っても、全く疲弊する様子がなかった」「敵の戦車はこちらの矢や槍の攻撃を全て跳ね返した」「敵の戦車は恐ろしい唸り声を上げて走り回っていた」
これらが帰還した兵士からの敵状報告だったのだが、それ以外にも「涙が止まらなくなる液体をかけられ拷問を受けた」「突然痺れる魔法で拷問を受けた」「くしゃみが止まらなくなる粉をかけられ拷問を受けた」などという不可思議な方法での拷問方法の証言も得られた。
当初は逃げ帰ってきた二人の兵士の世迷言だと思われていたが、捕虜として捕らえられていた隊長達も同様の証言をしたことで「もしかして現実味のある話なのか?」と彼らの上官である千人隊隊長は思った。
「面白い、これまで我々は雑魚の相手しかさせてもらえず、略奪した村から奪った女どもを犯す以外に楽しみはなかったのだが、少しは歯応えのある敵があの村を守っているというではないか!はっはっはっは!!」
言ってることはザコボスのヘドが出そうなセリフだったのだが、軍を率いる者としては、定期的に部下たちに「娯楽」や「餌」を与えることも必要なことなのだ。
この第二軍も大量の奴隷を連れてきているが、物資を本国との間を往復して運んでいる輸送用の人員や、土木作業員、そして兵士たちの「夜の相手」をさせている慰安婦などを多数連れて来ていた。
その中でも千人隊の隊長クラスとなると専属の性奴隷を二人連れてきていた。
だが、それらも同じ女ばかりだと飽きるので、新たな女を仕入れなければならない。
スピスカ=ノヴァが狙われたのも、以前の侵攻時に女ばかり残っているハズの村がテトラ山の中の城砦跡にあるハズだという情報を仕入れていたからだ。
千人隊隊長は強行偵察隊の隊長から、「村には多くの女どもが居ました」という情報も得ている。
また、その城砦跡の裏には金の鉱脈もあるはずだとの情報も得ていた為、「俺らの千人隊だけでスピスカ=ノヴァ=ベスを占拠し、なんやかんやと言い訳してそこを拠点にいて金の採掘なども行えば、金と女の双方が手に入る」という考えに至ったのだ。
かくしてドラゴニア東部戦区第二軍所属、第七中隊は奴隷や傭兵隊なども引き連れ、スピスカ=ノヴァに向けて進軍を開始したのだ。
具体的な編成は、
重装槍騎兵がおよそ200騎、
軽装弓騎兵がおよそ300騎、
大型の盾と長槍を装備した重装歩兵が300人、
軽装弓兵が200人。
これらがドラゴニアの正規兵たちであった。
正規兵だけでおよそ1000人ということになる。
次に50人のバイキング系傭兵部隊。
かれらは丸型の盾と片手持ちのビーキングソードやバトルアックスを主武器とした屈強な兵士たちだ。
北部戦区と長らく戦っている北方民族の中には敵国であるドラゴニアに雇われて戦っている傭兵たちであった
また彼らは小型だが強力な合成弓も装備していて、非常に優秀な狩人でもあった。
これらに工兵や輸送隊には合計で100名あまりの奴隷と20人の性奴隷が同行する。
この軍隊は襲撃から一週間後に出発を開始していた。
村との距離はおよそ60キロ程度しかないのでゆっくり行軍しても2〜3日後の到着となる。
かくして雅彦たちが想定していた敵の本隊は遂に動き始めたのだった。
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