ノン・リーサルウェポン
(前回の続き)
前回は比呂が村の女の子たちに装備させようと思った武器を秀明と雅彦に紹介する処で終わりました
比呂が開いたサイトは英語で記載されているサイトで、トップにデカデカと画像が表示されていた。
それは「クロスボウ」であった。
そのモデルは弓の両端に滑車が付いていて、弦を引く際にはストックに取り付けられている折りたたみ式のハンドルをクルクル回すことで比較的軽い力で引くことが出来るようになっていた。
クロスボウというのは弓に銃のような発射装置が取り付けられているもので、メリットとしては一般的なアーチェリーと比べて素人でも目標物に矢を当てやすいことや、
威力を強くすることが比較的簡単に行えるので腕力が弱い人でも強力な矢を発射出来る点がある。
デメリットとしては弦を引くにはかなりの力が必要だったり、アーチェリーと違って馬上では弦を引けないとか、連射が困難などの問題もある。
だが、今回想定されている敵兵の多くは頑丈な甲冑を付けているので強力な矢が発射でき、訓練をほとんどしてない女性が使うことを考えたらアーチェリーよりクロスボウの方が適していると考えたわけだ。
このクロスボウには弦を軽い力で引けるようにハンドルを回わす方法が採られているのも採用しようとしたポイントだ。
また、このクロスボウの上面にはピカティニーレールが取り付けられていて、ワンタッチで市販のスコープやダットサイトなどを取り付けれるようになっていた。
全体は迷彩色で塗装されていて、それを見た雅彦は「それ、俺が欲しいわ!」と思わず言うほど格好良かった。
比呂「ただ、オレはクロスボウを実際に使った事ないからコレが良いか悪いか分からないんだ」
サバゲの経験もあり、また猟銃も所有している秀明が感想を述べた。
秀明「俺もクロスボウには興味がなかったけど、コレは見るからに凄いな。
ピカティニーレールが標準で付いているとか、実銃でも最新鋭の銃 顔負けの装備じゃないか」
秀明や雅彦はサバゲもしてるのでサバゲで使っている電動ガンにはどれもピカティニーレールが取り付けられている。
それぞれ使い慣れているスコープやダットサイトなどをクロスボウに取り付けてもいいかもしれない。
ちなみに秀明が所有している実銃のショットガンやレバーアクションのライフル銃にもピカティニーレールは付いている。
比呂「ただ、これを導入するのにはいくつか問題があって、まずは価格の問題。
一丁が40万円とか実銃が買えるわ、と。
次は本当にこれが使える物なのか分からないという点。
出来れば一丁だけ試しに輸入してみて、敵が使っている甲冑に試射して貫通するか試してみたい所だね」
比呂はこのモデル以外にも数々のクロスボウ、アーチェリーなどを表示してみせた。
雅彦「日本人と言ったらやっぱりコレでしょう!」
パソコンのキーボードを叩いて検索して見せたのは「和弓」のサイトだった。
雅彦「弓のことは正直分からないので、一通り買ってみて、実際にどれが良いかテストしてみようぜ」
比呂「弓に関してはこんな感じかな。
長槍や矛についても実際に太さや長さや材質など、アレコレとテストしてみるしかないね」
秀明「織田信長は、当時率いていた兵があまりにも弱兵だったのでいろいろ工夫して戦ったと言われている。
有名なのは馬を柵で食い止めての火縄銃による三段射撃だが、それ以外にも敵より長い槍を兵に持たせることで戦いを優位に進めたのは有名なんだ。
古くはアレキサンダー大王の長槍兵も五メートルほどの長い槍を使っていたことで敵より優位に立ったことはよく知られている。
ただ、長い槍は当然重くなるし、折れる可能性も出てくるので、彼女たちに使えるかどうかは微妙なところだろうな」
雅彦「じっくり準備して出来る時間があれば良いけど、彼女たちから聞いた感じでは、次にいつ敵の襲撃があるかわからないよな。
最大の敵は時間かもな」
雅彦はそう言いながら、彼の頬を張り倒したヴィルマという美しい女性のことを思い出していた。
正直、彼女に対して特別な感情はなかったが、顔見知りが死んでしまったりしたらあまりにも寝起きが悪い。
とりあえず何をするにしても急がないといけないな。
比呂「俺からの戦術の提案はこんなところかな。
買う物のリストとしては、鉄パイプ、鎌、鉈、弓矢の数々、唐辛子、わさびなどかな」
そう言いながらパソコンに買うものリストを打ち込んでいく。
秀明「ほんじゃ次は俺の番かな。
Anti-Access つまり接近阻止戦術に関しては異論はない。
オレがメインで考えているのはノン・リーサルウェポンを使った戦術だ。
ノン・リーサルウェポンというのは日本語では非致死性兵器のことで、敵の殺傷を目的とするのではなく、敵の抵抗力を効率的に奪う兵器のことだ。
ヒロが言っているインパルス放水銃などは正にソレで海外では暴徒鎮圧で使われている例もある。
ただ、それは一丁しか持っていないので、別の物を用意する。
それは催涙スプレーだ。
液体を敵に直接掛けるものや霧状に噴射するものがあるが、催涙スプレーなら比較的安価だし小型軽量で装備し易い構造の物もあるので、村人全員に持っておいてもらおうと思っている。
次に俺が用意したいと思っているのは痴漢撃退用のブザーだ。
基本的に村から外に出る者にはかならずコレを携行してもらい、何かあればブザーを鳴らせば他の村人に伝わるようしておけば、危機を未然に防ぐことが出来るかもしれない。
とりあえずブザーと催涙スプレーは人数分は必要かな。
さっきヒロがインパルス放水銃で使用する水にカプサイシンを混ぜて目潰しにする、というような話をしたけど、インパルスは一つしかないので、効率よく水を撒く別の方法も考えないといけない。
そこで考えたのは、高圧洗浄機を持ち込み、それを使って敵にカプサイシン入り催涙ミストを噴射させるという方法だ。
例えば村の正門にこれを設置するとなると、水を入れた大型のタンクを設置して、丘の上まで引っ張っている電源を下まで延長しないといけないなどの手間はあるが、村に電気を通すのは必ずしないといけないことなので今のうちに始めた方がいいと思う。
村に電気を送るのは案外手間がかかる作業で、まず日本側の送電設備の容量を増やさねばならないな。
あと是非購入したいのは、大型のディーゼル発電機だな。
これを村に運び込めばある程度は自由に電気を村で使う事ができるようになる。
燃料は日本から持ち込まないといけないが、うちの鉱山の敷地内には給油所もあるので、燃料自体はすぐ手に入る。
タンクは大型トラックの燃料タンクを数個調達してやれば問題ないだろう。
アレは一つで90リッター入るから、トレーラーにそのタンクを10個ほど載せてやれば、一気に900リッターはあちら側の世界に燃料を送り込めるぞ」
ということは、高圧洗浄機、水を貯めるタンク、それを設置する足場、大型のディーゼル発電機、燃料タンク数個、トレーラーってところか。
雅彦「親父、トレーラーはすぐ手に入らないが、20万円も出せば四駆の軽トラがすぐ買えるで」
秀明「ああ、その方がいいかもしれないな」
ちなみに車屋から借りてきた代車の軽トラはスバルのドミンゴトラックで一応これも四駆だった。
比呂「催涙スプレーとかカプサイシン攻撃とかするなら、味方に被害が出ないようにゴーグルやマスクなども買った方がいいだろう」
雅彦「ああ、絶対必要だな。
それと親父、親父のランクルの改造はどうするんだ?」
秀明「俺のクルマは基本的には、軽量化の方向で行こうと思う。
運転しながらインパルスやクロスボウ、ショットガンやライフル銃を使うとするならやはり運転席のドアは邪魔になる。
そこでワンタッチで取り外せるようにしてドアは外せるように加工する。
あれ一枚で20kgはあるので結構な軽量化になる。
そうなると人間の方に被害が出る可能性があるのでボディアーマーや腕や足を保護するプロテクターを着けることで防御力はカバーしたい。
ボディアーマーはサバゲ用の装備で元々あるから、プロテクターは何か探さないといけないかな」
なるほど、クルマ自体は軽量化させ走破性や機動力をアップさせ、足りない防御力は人間の装備で補うのか。
雅彦「俺がいましているのは親父とは逆に防御力マシマシにして、敵と接近戦をする為の改造だ。
おそらく敵の騎馬兵とかに対して攻撃力は決定的に不足すると思う。
鉄条網、塹壕、インパルス、催涙放水銃、長槍、火炎瓶、クロスボウやアーチェリーや和弓、これらは敵に直接的な打撃を与えるチカラが足りないと思っている。
火炎瓶などはある程度優秀だけど味方が近くにいると使えないなど欠点があるしね。
俺は最大の攻撃力はクルマの重さと速度を利用した運動エネルギー攻撃だと思っている。
塹壕や鉄条網、その為の手段で敵を足止めしてやっておいて、そこにランクルで突っ込んで敵を跳ね飛ばす、これこそ俺らが持つ最強の攻撃法だろう」
秀明「多分、敵兵を直接撥ねとばすと、敵兵とかが車軸に巻き込まれたりしてすぐ身動き取れなくてなると思うぞ」
雅彦「ああ、だから基本的には直接ヒットさせるのは最低限にしてやり、敵にギリ当たる程度で敵を横に跳ね飛ばすって戦法だね」
秀明「そこでカンガルーバーか?」
雅彦「いやー、カンガルーバーじゃないけどほぼ正解だね」
カンガルーバーというのはオーストラリアみたいな野生動物が多く存在する土地で使われるクルマの前面を金属パイプで強化されたバンパーのことである。
雅彦「ランクル70系に個人的にはカンガルーバーは似合わないと思ってるんだよねー、そこでボディそのものに鉄板を貼りまくって強化しようと思ってるんだよね。
見た目はノーマルボディなのによく見たら装甲が1センチの厚みがあるとか、凄くね?」
うむ、変態さんだね。
と顔を見合わせる秀明と比呂の二人であった。
まあ手間はかかるけどその方法なら敵の剣や槍、敵兵そのものが車体に当たってもある程度は傷も入らないだろうと思われた。
変態チックな考えだが的外れな改造というわけではなさそうだ。
というか正直、何が正解か分からないので色々試行錯誤は必要だ。
マジで色々やってみるしかない。
秀明「よし!案も出てきたので、早速調達を始めるぞ。
比呂は購入リストに沿ってネットで注文してくれ、会社名義のカードを使ってくれたらいい。
高圧洗浄機の選定は任せるけど、ディーゼル発電機は専門家の意見を聞きたいから注文は保留にしといてくれ。
購入はなるべく国内のショップを使ってくれ、届くのが早くなるから。
あとメーカーもなるべく国産を選んでくれ。
それと雅彦、お前は俺と一緒に異世界へ行くぞ」
そう言って自分のランクル70に乗り込む秀明であった。
いよいよ、村を防御する準備が本格的に始まりました。
敵の来襲が先か、雅彦達の準備が整うのが先か、今後の展開が気になるところです。
次回の主な舞台はまた異世界となります。
お楽しみに!
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