本格化する異世界攻略
「うーい、元気してっか〜?」
三日ぶりの休みになった雅彦は、仕事が終わったその足で秀明の鉱山に来て、いつもの挨拶を秀明と比呂にした。
秀明と比呂は事務所のパソコンを眺めながら悩んでいた様だったが、スーパーで買ってきた土産を彼らに渡して自分もその輪に加わった。
秀明「おう、乙。待ってたで。
買い物リストを作っていたからお前も加われよ」
お?資金はどこから出てるのか気になったので親父に聞いてみたら、投資用の資金の一部を充てるのだという。
雅彦「投資用ってそれはマズいんじゃない?」
秀明「例の交渉も成功したし、資金繰りの目処も立ったから問題ないわ、
それよか比呂が会社を辞めてきたぞ」
比呂「ということで昨日から川北鉱業(株)に就職しました、待遇は主任です、よろしくにいちゃん」
雅彦「うわー、舐めたオトコだわ、この子!」
またしても戯れ合う二人。
雅彦「腹立つー!先に辞めやがって、まあいいや、買い物リストって何だ?」
秀明「当然、異世界攻略で買わねばならない物よ。
比呂はさっさと有刺鉄線を自費で買って来てたけどな」
比呂「兄貴と違って金貯めてるもんね」
またしてもじゃれ合う二人。
雅彦「おう、それなら俺も色々考えてたで!まずやりたい事としてはランクルの改造だな!」
秀明「ほう、どんな改造だ?」
雅彦「俺のランクル73は重装備にするで!
まずホイルを友人が売りたがっていたビードロックホイールに替える。
これは親父もした方がいいぞ」
ビードロックホイールとは、タイヤのサイドウォールとホイールを固定してしまう特殊な物だった。
利点としてはパンクしてもタイヤとホイールが外れてしまうことが無くなる点。
異世界みたいに簡単に修理が出来ない環境では「トラブルが起こっても自走して帰ってくる」という能力は非常に重要となってくる。
ビードロックホイールはその点非常に優秀でタイヤの側面も保護してくれるし、多少のパンク程度なら自走も可能になる。
またタイヤのエア圧を極限まで下げてグリップ力を稼ぐときなどもこれなら使い易い。
欠点としては、取り敢えず重い(タイヤとホイルだけで軽く50kgオーバー)ことや、タイヤのバランスが崩れ易いの
で高速走行が苦手となることだが、異世界で高速走行をする機会はまずないから問題ないだろう。
雅彦「親父にも要るだろうから、調達してくるで?」
秀明「いや、俺はいいわ、ブラVをそのまま使うし、アチラでもスワンパーを履くから」
ブラVというのはブラッドレーVという古くからのクロカン車乗り御用達のホイールで軽量な割に頑丈でシンプルなデザインが特徴のあるものだ。
スワンパーというのは米国のスーパースワンパーという泥に特化したこれまた古くからあるマッド系タイヤだった。
アチラの世界の土質がイマイチ分からない状態なので慣れた組み合わせで行きたいのだという。
確かにグリップ力が強過ぎるタイヤや重過ぎるホイールなどを使うと駆動系に負担をかけてドライブシャフトやデフの破損を招くこともあるし、親父はアノ組み合わせでこれまで走り込んできたので変えるのには抵抗があるのだろう。
雅彦「ほんじゃあ、ボディの強化はするんだろ?」というので、
秀明「いや、逆に軽量化する」と言った。
へ?弓矢とか投石とか、場合によっては剣や槍などで攻撃されることがあるかもなのに軽量化?
秀明「基本的に接近戦はしない、敵の攻撃範囲外にいる」
まあ、いいや。何か考えあってのことだろう。
雅彦「俺は早速、ボディの強化を始めてるで。車屋にランクルを入れてきたわ」
秀明「どんな風に改造するんだ?」
雅彦「出来てからのお楽しみだね、今日はそういうことで代車でここまで来たわ」
ふと外を見ると見慣れない軽トラが停まっているのはそういうことか。
秀明「先にここに来てから改造しても良かったかもな、場合によっては予算は上限無しだぞ」
雅彦「な、何〜?!」
今月分の給料の残りを全てを投じた改造計画が無駄だったとは…
まあいいか、必要があれば後から追加してもいいしな。
秀明「取り敢えずここに座れよ、クルマの改造云々する前に防衛戦略を立てる必要がある。
戦略も決めずに動くのは無駄が多いぜ」
そりゃそうだ、ウンチク大王の親父と戦略大好き比呂君の二人がいるのでこの展開は当たり前と言えよう。
秀明「ほんじゃ、比呂君、戦術の説明からして」
パソコンを操作しながら比呂は説明を始めた。
比呂「オレが考えた基本戦術はAnti-Access、つまり接近阻止戦術だ。
村人の大半は女性たちで実戦経験はほとんどない。
その状態で完全防備の騎馬兵と戦うなんて自殺行為に等しい。
実際、最初の襲撃では槍や剣などで武装した男性達が瞬殺されてるしね。
そこで敵を味方に近付くことを制限することが最優先の課題だと思う。
オレがそこで選んだのは第一次世界大戦でドイツやイギリス・フランスなどが行った、塹壕と有刺鉄線を組み合わせた拠点防衛を行う戦術だ。
親父と兄貴にはユンボで塹壕を掘ってもらい、更に有刺鉄線で鉄条網を塹壕前面に設置することで、敵の接近を遅らせて、その間にこちらは離れた所から敵を範囲攻撃する」
雅彦「範囲攻撃?」
比呂「そう、範囲攻撃。
今のところ考えているのは火炎瓶とインパルスだ」
雅彦「火炎瓶とはまたこれ凄いな、でインパルスってのは何だ?」
比呂「火炎瓶についてはもうプロトタイプが完成している」
そう言って彼がテーブルの上に出したのは日本酒が入っていた瓶にガソリンを詰めたものであった。
比呂「保管するときはこんな感じで保管しておき、使う時はキャップを外して布切れを突っ込んで、火を着けて投げればオッケーだわ」
なるほどこれなら比較的安全に保管出来そうだ。
比呂「金属のキャップが口に付く瓶は割に少ないので入手するのは今のところ割高だけど、まあそれはなんとかなると思う。
次はインパルス消火銃だが、それは親父の方が詳しいと思う」
秀明「インパルス消火銃は、ドイツで開発された水を圧縮空気で一気に打ち出す消火銃だが、海外ではこれを暴徒鎮圧用で使っている事例もある」
そう言って取り出して背負ってみせた。
背中には大小二本のボンベを背負い、手にはバズーカ砲の様な銃を構えてみせた。
秀明「全備重量は30kgにもなるが、五発くらいまでなら連射も出来るし、5mくらい離れた人なら昏倒させるほどの威力があるで。
尤も昏倒させることだけが目的じゃないけどな」
比呂「一応、これを持って戦うことも出来るけど、車にボンベを載せて、エアコンプレッサーを動かしながら使えば原理的には載せた水の量だけ撃てる計算になる。
また、今回コレで打ち出す水にはコレを混ぜてやるんだわ」
そう言って彼が取り出したのは「唐辛子」と「ワサビ」だった。
比呂「具体的にどれをどの位混ぜればいいのか分からないけど、これでインパルス催涙放水銃ってことになるかな」
秀明「究極の暴徒鎮圧兵器だな」
雅彦「おぉ、すげぇな、早速使い方を教えてくれ!」
比呂「まだまだ言いたい事あるから話を先に進めるな。
インパルスは一丁しかないから、これはここぞという時にだけ使うことにする。
使うのは兄貴がしてくれたらいいよ。
タンクは車に載せてやれば運転しながらでも発射出来るんじゃないかな。
まだまだ有効なアイデアはあるけど、村人に持たせる武器も考えてみた」
そう言ってパソコンの画面に映し出したものは、ホームセンターの資材館で販売されている長さ4メートルの鉄パイプだった。
雅彦「これは何だ?」
比呂「文字通り鉄パイプだけど、細い物なら女性たちでも辛うじて振り回せるくらいの軽さだった、
だったというのはまだ買ってないし、実際に女の子達に振り回してもらっていないからだ。
これに、同じくホームセンターの農機具の処で売っていた鎌を先端に括りつけたら古代中国の戦車で使われていた矛になり、鉈を取り付けると長槍になる。
敵兵の中心が騎馬兵なら長槍は非常に有効な武器になる。
騎馬兵の持つ槍は長さはせいぜい2メートル程度のランスだろうから、遥かに遠くから攻撃出来る。
また、ランクルの荷台などに乗る人には先端に鎌を取り付けた矛をもたせたら、敵を引っ掛けて引き倒すことも出来ると思う。
まあ、速度を出せばただの鉄パイプも凶器になるけどね」
おいおい、我が弟のながら恐ろしいヤツだ。
本気で怒らせるのは辞めておこう。
比呂「それから、村の子たちにはこれを装備してもらおうと思ってるんだ」
そう言いながらタブの一つをクリックして、英語で書かれたサイトを二人に見せるのであった。
(続く)
今回は比呂の戦術を披露する回となりました。
三者三様の戦術があるので、次回以降も益々熱い議論となりそうです。
次回をお楽しみに!
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