第49話 神と悪魔と大鬼
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ルナは、床に座りながら見ていた。インフィニティが自分を助けるためにと起こした事態をただただ呆然と眺めていた。
憎いと思っていた、自分も殺したいと思っていた敵の無残な末路に言葉が出なかった。なんだこれは、私が望んだ復讐の行きつく先はこうなのかと眺めていた。
人が瞬時に燃え盛り消え去った最後を。
「こ、こんな事が私の望んだもの……」
ルナは、頭を抱えて床に擦り付ける様に伏した。眼前で起きた狂気の祝宴がとても恐ろしくて、これは自分がやった事に違いはない。私は何故こんな事を望んだんだと肩を震わせていた。
「ルナ、しっかりして」
ルナの中にいたインフィニティが、妖精の姿に形を変えて現れ側に佇んでいる。その声にルナは顔を上げた。
「さっき私が望んだ事を再現したんだよね」
「そうだよ」
「インフィニティの力が、こんなに凄いだなんて……。命を簡単に消し去るなんて思いもしなかった」
「うん、使い方次第でどうにでもなるんじゃないかな。再生でも消滅でもルナも自由にするといいよ」
「バ、馬鹿な事言わないで、見てよこの手や体を、自分のだけど血まみれだよ。これじゃあまるで悪魔よ! 私に、そうなれと言うのと同じだよ……」
「そうだとも、君の魂が望むままに好きにすればいい。でも、一つだけ、さっき聞こえた神様の声は忘れないようにして欲しいね。ルナならもっと上手に使えるようになるさ」
「神と悪魔の力に、上手も何もないよ! 怖いよ……、またやっちゃうかもって思うと」
「悩む事ないさ、愛があればね。君は慈悲を持つ運命の子だろう?」
「それもよく判らない……、なぜ自分にこんな事を求めてくるの……」
「う~ん、私もわからないね。それより早く行かないと、上でガスパルとパルネが待ってるよ」
「あっ、そうだ! すっかり忘れてた!」
大切な目的を思い出したルナは、やっと立ち上がったが、もう一つ大事な事を忘れている。ルナが床に伏して二人が会話を続けていた隙に、マスターセイドがそっと小部屋から這って逃れていたのだ。
彼はルナとインフィニティの行った事に恐怖したが、どうすれば逃げられるかを必死に考えて行動に移していた。
――なんてことだ、全く信じられん。結界はどうしたんだ。なぜ、侵入できた!? それに妖精のような者まで操るとは、あの娘もやはり異界のモノかもしれぬ。このままでは不味い! やはりあれしかないか。
結論に達したセイドは即座に腰の革袋を探った。中から手にしたのは砦跡の部屋の錠を全て開ける事の出来る鍵と赤黒き球、”鮮血の鬼”だった。
セイドは息を切らしながら、這いずるように小鬼の牢屋も巡っていた。牢屋の中ではルナの血の匂いに興奮しきった彼らが、首の鉄鎖をちぎらんばかりに騒いでいる。
セイドの鍵を開ける手が震えている。本当にこんなものを使っていいのかと、聞かされた効能を思い出すと寒気がした。いや、でも今使わなくては自分の身もウヌムの様に滅ぼされてしまう。なんて恐ろしい事だ、逃げるにしても保身の算段が必要だと思直して牢屋の鍵を開けた。
「クギャギャガギャ! ゴウッガッガガガッ!」
ひとつの部屋を開けると中の小鬼が大声を上げて威嚇してきた。この人体実験を始めてからは見たこともない姿だった。棒を振り上げれば委縮するそんなイメージが壊れていく。
「ちっ! なぜこんなに興奮しているのだ。……まあよいわ。これはこれで丁度いいのかも知れぬ」
そう呟くとセイドは、手にしていた赤黒き球を二つ入り口から小鬼めがけて転がした。
「キ――――――ッ!」「ギャ――――――ッ!」
二匹の小鬼は、奇声をあげると即座に反応して赤黒き球を手に取る事もせずに、這いつくばり床に口を当て、それを貪り食っていた。初めて与えた様子にセイドは見入っている。
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガ。ゴクッ。
扉から覗いていると腐った臭いがする牢屋の中で、彼らの爬虫類の蛇のような目が瞬く間に赤く染まり見開かれて更に吊り上がるのが見えた。目以外にも反応が起こり手足だけでなく全身が震えているように見えた。いやもっと暗がりに目をこらすんだと。こんな時でも学士の血が騒ぐセイド。
「ギャギャギャギャ――――――ギッ!」「ガキャキャキャキャ――――ギッ!」
二匹の小鬼が苦悶の声を上げたかに見えたその時、体が変化してい行った。濃い黄土色が赤黒く染まりなにやら体が成長している! 骨格から全てが大きくなっていくのが判る。汚い爪や牙までが伸び、だらしなく開いた口からは伸びた舌や涎を垂らし始めた。付けていた首輪がそのまま首にめり込みそうになった時、彼らはそれを両手で掴み押し広げようとしていた。
「うわわわわ! こりゃいかん! いかんぞ!」
そう言うとセイドは慌てて戸を閉めたが、カギもせずに急いで次の牢屋へ移動した。
――まずいまずい、急がねば。こんなに凄いとはなんと恐ろしい! 異界の小鬼とはこんなにも異常な生物だったとは!
そうした事を頭の中に巡らせては、次々と牢屋を巡り同じように赤黒き球を小鬼達へ与え続け、最後の部屋が終わると一目散に上階へ向かって駆け出そうとしたが、足が動かずにつんのめって転んでしまった。
「あたた! 痛たたたたた!」
小部屋でルナの様子を見ていた時に、突風で飛ばされ転び腰をしこたま打ちつけていた痛みが腰と足へ伝わり、痛みと痺れに襲われたのだ。寄る年波で自然と体の弱っていたセイドを襲ったのは俗に言うぎっくり腰だった。
小部屋から出て来たルナは、向かいの牢屋から聞こえる異様な声に驚いたが、ひっくり返っているセイドも目にする。
「もう一人がいた! それに何この大声は!?」
「ルナ待ってくれよ! この声! 牢屋にとんでもないモノがいる!」
「なんですって! それよりあの男をなんとかしないと!」
ルナは裸足で駆けだしたが、同時に通路へ自分の血の匂いをまき散らしている。この臭いが牢屋の中の小鬼達に、更なる刺激を与えてしまい興奮して雄たけびを上げた。
「グワアアアオオオオオオオ――――――ン!」
「ガルルルルルルルルル――――――!」
「ゴワワワワアアアアアア――――ン!」
牢屋にいた小鬼達は、すでに体を倍以上の3ヤート程まで巨大化させ、興奮による怪力で簡単に鉄首輪を引きちぎった。
赤い大鬼が今解き放たれる。
注)3ヤート;約3m程。
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