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第47話 涙なき復讐


 自らの力が甦ったインフィニティは、即座にルナへ飛んだ。同時に死の淵にいたルナが反応し、その体が原初の素粒子(インフィット)に包まれて煌めきだしてゆく。


 パルネとの別れをもたらした悲劇。雷鳴轟く豪雨の中での運命の営み、インフィニティとの出会いが再現されたのだ。


 ルナを包む球状の煌きらめきは、さらに球体の中からあふれ出る輝きにうながされて光度を増しながら回転しルナのすべてを包みこんでいく。


 その光の中でルナとインフィニティの二人は心を通わせた。


 ……お待たせルナ。

 ……やっぱり来てくれたね。

 ……一緒にいるとホッとするよ。

 ……私もだよ。インフィニティ。

 ……一つになろうルナ。

 ……うん。


 地下二階いる事など全く関係なくインフィットは収束する。傷つき瀕死のルナを癒す為に半径2ヤートほどのまばゆいい光体は、一瞬、地下室の空気を巻き込み鳴動させたが、ルナとインフィニティの二人の強い絆によってコントロールされた今、暴威までを振るう事なく、周囲の空気を弾き飛ばしはしたが穏やかに輝き続けた。


 キュウイイィィ――――ン!


「ひいい、なんだこれは! この光はなんだ!」

「うおおお!」


 突如、ルナを包み光りだした球体と発生した突風に怯えたウヌムが後ずさりしながら悲鳴をあげ、側にいたマスターセイドは、突風に突き飛ばされると声を上げて倒れると腰を抜かしてしまった。


 煌めく光に包まれたルナは、インフィットの収束により切り刻まれた肉体が、瞬く間に修復されてゆく。失われた多量の血液さえも骨髄の造血幹細胞が促進されて補われた。インフィニティのもたらしたモノは神をも凌駕する恐るべき力だ。


 床に伏していたルナは瞬きを一つすると青い瞳を開き、周囲に沸き立つ風にブロンドの髪をなびかせて立ち上がる。


 インフィニティとの繋がりと自らの巫女の力から成る金色の光を放つ血染めの少女の姿は、ウヌムとセイドの目には如何様に映った事だろうか。


 荘厳なる金色を放つ姿からは天上の神か神の使徒を、全身を血に染め甦った姿からは地獄からの使者、悪魔を想像していたのかもしれない……。


「ば、化け物だ、もう死ぬはずだったのに! まてよ、なんだこれは、この光は一体なんなんだ!?」


「こ、金色の光! お前は神か、いや神の使徒なのか!?」


 ウヌムとセイドは、おのおの口にした。ルナの驚愕の姿に少しは研究者らしい言葉を発したが、これが精いっぱいだった。目の前で起きている事は、この世界で学士として研究をしていた彼らにとっても異端な事態だった。


「私が、なんだっていいでしょう。さあ、パルネを返して」


「馬鹿な事を言うなよな! アレは俺の玩具になったんだからな!」


「なんだって……私だけでなく、パルネにも酷い事をしたんだ……」


 ウヌムの心ない回答に自分の気持ちを逆なでされたこの時のルナの感情は、心の奥底から吹き出す怒りと憎しみであふれていった。ウヌムを睨みつけながら肩を震わせて強く噛みしめた唇からは血が流れ落ちている。


 ルナが本来持っていた慈愛の心や理性は、憎しみでかき消えてしまい、自らが愛した者へ酷い仕打ちを行った敵が憎い! この感情だけに支配されてしまったのだ。


 ――もうだめだ、ガスパル、イサベラさん。我慢が出来ない……。


 ――私のことは、いい。死んでもいいんだ。でも、パルネへは許せない。


 ――私はゆるさない! 許さない! コイツらは絶対に許せない!


 この強烈なルナの魂の叫びに、初めて人間の持つ大切な者を愛するが故の怒りと憎しみの感情と、それから生じる殺意を深く理解したインフィニティはルナを諌める事を放棄して無言のままだった。


 ルナは爛々と憎しみで燃え盛る瞳を眼前の憎い敵へ手を向けた……。


「待て、何をするつもりだ!」


「炎よ!」


「な、なんだと! うぐっ!?」


 ルナが殺意を込めた言葉を放つと、ウヌムの前身は一瞬にしてインフィットに包まれた。目に見えぬそれは生物の水分であれ構成するすべての原子・元素に働きかけることが出来た。樹海に入る前に河原で火を起こして見せたルナ。まず、ウヌムの着ているローブにインフィットを用いて振動を集めると木切れと同じように熱を持たせて発火させた。


「うあ、なんだ! 火だと! ああ熱つつッ! 何故だ、止めろ――!」


 ウヌムは突如燃え出した炎に包まれた。体に焼ける痛みを覚えると慌ててローブをぬぎ捨ててルナを見た。金色の光を発しながらルナの表情は冷たく凍りつき、吊り上がった青い瞳だけが怪しく輝いている。


「なんだその目は! お、お前がやったのか!? 本当に化け物なのか!?」


 ルナへ罵声を上げたウヌムは、今まで味わった事の無い恐怖を感じていた。側にいたセイドもルナの異様な姿に声を失い呆然と座り込んだままだ。もう思考する事すら出来ずに恐怖していた。


 そんな二人の様子を見ていたルナだったが、自らの意志で理性を捨て去った心にはもう涙はなかった。憎い敵を殺す。これだけだ……。


「燃えろ!」


 ルナは言葉と共にウヌムのシルバーの髪へ意識を集めて再び発火させた。


「ぎゃあああ――――――!」


ウヌムの頭髪は一瞬にして燃え上がり、立ち尽くしたまま頭を両手で掻きむしったがもう遅い。頭皮が焼けるあり得ない恐怖に包まれたウヌムは床に倒れ込んでしまい、体をゴロゴロとさせたが炎を消す事はできなかった。


その様子を見つめるルナの口元が歪んでいる。


そこには、すでに敬虔な優しい修道女ルナの姿は消え去り、悪鬼の形相をまとった一人の少女が立っている。


「ひいいいい! 助けてくれ! もうやめてくれ! 俺が悪いんじゃない!」


ウヌムの下半身は既に小便を漏らしてびっしょりだった。


「あんた、いまさら何を言うの……くぅ」


 この時のルナはウヌムの全身へ、その肉体を構成する全ての物質を振動させ高温を発生させようとしていた。この行為は体内全ての温度が上昇し続け、沸点を超えてしまえば、口や耳だけでなく穴とういう穴全て、毛穴一つ残らずに蒸気が噴き出し悶絶死する事だろう。さらに高温を誘発させれば、ウヌムを瞬時に炎で包み消し炭にする事さえたわいのない行為だった。


「くぅ……、ふふ、あは……あははははは!」


 ルナは自らが望んだ殺意と狂気に自我を失い、敵の怯えた姿から圧倒的な優越感にも包まれた。インフィニティのもたらした悪魔の力に導かれそれに囚われてしまった。


「あはははははははは! 死ね! 死んじゃえ!」


 ルナは、怯える男二人を前にして高らかに笑う。

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