↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/3

2話:生きたいと願う時


……さて。「幽霊」とは、なんであろうか。


人は死んだら「幽霊」になる?

死んでしまったら、2度と会うことは無い?


……と、ほんの数十分前までは思っていた。


そう……。数十分前までは。


この現状。……取り敢えず、言っておきたい事がある。



(そこのハゲ! なぜ気づかない?)



棺桶の周りに戯れる、スーツ姿の集団。彼女の務めていた会社の、上司や同僚と言ったとこだろうか。


俺と目が合った白い人影は、その直ぐ手前に腰掛けている。



その、死んだはずの女性は、こう言う。



『うーん。やっぱり見えてないのかなぁ……』



(いや、見えてます。しかとこの目で、ハッキリと)



『あ、やっぱり見えてるんじゃん!』



(……!)




何故か、会話のようなものが成立した。




(なぜ思考が読まれている……?)



『そりゃあ、そんなブツブツ言ってればわかるよ』



(言ってないんだが……)



『うーん……。あ、心の声ってやつ? でもそっちもそっちで、話乗ってるよね?』



(…………)



『あれ、シカト?ひっどい』




前代未聞、幽霊との対話に成功しせり。


ネット社会に浸透した者ならば、スレットの1つや2つ立てそうな案件だが、生憎と自分は知恵袋でお腹いっぱいであるが故、そして人見知りが故、心の奥に留めておくことにする。




(…………)




……確かに姿は見えるし、今に至っては声が聞こえる。会話が問題なく成立する程度に。


ならば、



(なぜ気付かない!? そこのハゲっ!!!)



未だ先程の場所から動いていないスーツ姿の男に、再び強烈な念を送る。……しかし、やはり彼女の存在には気付いていないようで……



(そんな近くにいて……目の前の仏さまが見えてないのかよ!)



棺桶に座り、プラプラと脚をゆする。見覚えのある白い人影。


ここで、ひとつ分かったことがある。


そう。それは___



……どうやらこの女性。「俺」にしか、見えていないようだ。



と、言うことである。


それを踏まえ、もう1度その存在を観察しようと、目を向ける。



(あれ?あいつ……どこいった?)



だが次の瞬間、それは消えていた。



(さっきまで……確かにいたよな……?)



しかし。



どうやら___この疑問(こえ)は。



「彼女」に、聞こえていたようだった。





『ここ……だよ……』





隣に、その顔があった。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





よくテレビの特番などでやる「心霊特集番組」。


中には明らかに「作り物」、であるものが混じっていたりするが、なかなかに楽しめる。


しかし。


「作り物」があるならば、もちろん。「実物」も存在する。


画面の中___平面ならではの恐怖。(井戸から這い出てくる奴は除く)


だからこそ__それで済むからこそ、楽しめるのだ。



……そう。


これが……「本物」で、なければ。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「おぁぁうぐもももももも!」



そんな絶叫が、俺付近から漏れる。……というか、俺から吹き出す。


その絶叫が、後半意味を成していないのは、空席となった隣に突然現れた「何か」が、これまた突如として伸ばした手(?)によって抑え込まれ、絶叫が寸断されたからだ。



『ちょっと、驚きすぎ! 全く……いつまでもお子様じゃないんだからさ……』


(いや……これは大人でも腰を抜かすだろ!)


『そんな怖かったの? そっか、私……幽霊だもんなぁ……』


(落ち込まれも困るんだが……)



幽霊が居たら、普通の人間は何かしら恐怖感を覚える。……はずである。


しかし。この際恐怖ではなく、ただ驚いただけであった事に、違和感……いや、安心感といったところか。そんな、複雑なものを感じる。


……ちがう。今言いたいのは、そんな事ではなく___



(で、だ。言いたい事は膨大にあるが……)


『うん』



こちらの気も知らずに、脳天気な返事を返す、幽霊。



(……まず1つ。俺の口押さえてる手を離せ)


『はぁい』


(……やっぱり手だったのか)



俺の叫びを中断せしめた物体が、彼女の手であったことが証明される。


その手に熱が……確かな温もりがあったことには、この時気付いていなかった。



(で、2つ目。お前は、誰だ?)



続いて、問いかける。声帯から発せられる声ではなく、心の声、とやらで。



『え? 分からないの? 私だよ、奈緒(ナオ)だよ?』


(まあ確かに見た目はそうだが……。死んだんじゃないのか?)


『うん。そうみたい、だけど……』



そう言うと一瞬、目を両親の方へと向ける幽霊。



『…………』



黙ってしまう幽霊に、ゆっくりと、質問を投げかける。



(……じゃあ、3つ目。お前は、「幽霊」になったのか?)



それに、視線をこちらへと戻し、再び答え始める幽霊。



『う〜ん……。幽霊って名称かどうかは分からないけど。多分……なった……みたい。それに___』



続く言葉を、先程とは打って変わり、自慢げに話し出す幽霊。



『なんかフワフワする』


(…………)


『見て見て、飛べるんだよ!? 凄くない!? 』


(……はいはい。すごいすごい)


『うっわー……すごい棒読み……』


(…………)



想像して頂きたい。


この情報社会の中、幽霊(仮)が隣におり、しかも会話が成り立っている。


そしてその相手はハイテンション。



……という、混沌(カオス)な状況を。



そして、もう1つ。


俺は、決定的な事に、気付いてしまった。



(なあ……ナオ……)


『なに?』


(……あの人達……生きて……無いよな……)


『うん。そうだね』


(じゃあ……なんなんだ……?)


『ああ、あれ? そうだね、あれはね……』








……幽霊、だよ?








そう笑顔で言われては。認めざるを得ないであろう。



俺の視線の先、この建物の至る所に浮遊し、闊歩する老若男女。



葬に出席する、黒い喪服でなく。鮮やかな着物、洋服、中にはフリフリのドレスを纏った、十人十色な人々。




(ああ……あれが……)




どうやら。


俺_____幽岬(ゆうさき)見霊(みれい)は……




(そうなの……か……)





「幽霊」が、見えるようになった。




と、いう事を。






***********






短くも長くも思えた葬式を終え、自宅へと帰るその夜道。まばらに点灯する街頭が、歩く人々の影を、アスファルトへと映し出す。



「…………」



自分の足元からは、紛れも無い、自身の影が伸びる。


だが、実際のところ、この場には「2人」居るわけで____



(ただ付いて来てるだけなら……いいけど……)


『どうしたの? さっきから何も話さないけど』


「…………」


(憑いてきて……ないだろうな……?)



そんな俺の心配を気にする様子もなく、俺の周りを浮遊する幽霊が、肩をポンポンと叩いてくる。



『元気だしなって〜』


「んな事言われてもなぁ……」


(人の葬式行ったあとハイテンションだったら人間性を疑われるだろ……)


『うーん。ま、それもそうだね〜』


「あのその思考を読むのやめろって。考え事も出来ない」


『別に読もうとしてる訳じゃ無いんだけどなぁ……。勝手に聞こえてくるっていうか、なんか不思議な感じ』


「…………」


(不思議に思ってんのは……俺の方だけどな)


『…………』


(これは、読まれないのか……)



試行錯誤の末、「独り言」ならば読み取られない___ということを発見する。

……だが、問題はそこではなく。



「はぁ……」



なんと言っても、俺は『幽霊』が見えるようになってしまったのだ。加えて、会話も出来るというおまけ付き。



『♪♪♪♪』



呑気に鼻歌なんて歌っている幽霊の横顔を見て、更に考える。

これが赤の他人の幽霊であったのなら、


「頼みます、俺から離れて下さい。……いや、今すぐ離れろどっか行け!」


……と、冷たく突き放すことも出来たはずだ。聞き入れくれるかどうかは……まあ、別として。



「お前……どこまで付いてくるんだ? 体の方は箱の中だろ? 離れてていいのかよ」


『うーん。戻っても動かないし……それにさぁ……』


「それに……なんだよ?」


『あの体……すぐ太るし……』


「そんな理由で切り捨てる!?」


『だって、こうなってからいくら食べても体型変わらないんだよ!? 女子にとってこんな嬉しい体はないよ~!』


「しらねぇよ……」



しかし、幽霊(あいて)は、幼馴染みである。……かも知れないのだ。それも、人見知りな俺の、数少ない理解者の1人である。



(んな簡単に……断ることもできないしな……)



「てかお前さ、成仏とかしないわけ? 念仏の存在意義を疑うんだが……」



締まったネクタイをわずかに緩めながら、問いかける。それに幽霊は、先程同様、フワフワと俺の周りを飛びながら答える。



『うーん。なんか分かんないけど…… 「しない」 じゃなくて 「出来ない」 ……みたいなんだよね』


「は?」


『あ、ほら、よく言うじゃん? この世に未練があると成仏出来ないー、みたいな?』


「……じゃあなんだ? お前の事だから死ぬ前に激辛グルメ制覇の旅に出たかった、みたいな?」


『なにゅうっ! なんで私が近頃ハマってる物知ってんの!?』


「そりゃ分かるだろうよ。ご丁寧に写真付きで投稿してたんだから」


『み……見たの?』


「たまに。暇つぶし程度にだけど」


(前カフェ行った時に……自分で言ってたんだけどな)



と、口には出さず突っ込む。



「で、もう1つ質問。……お前は本当に、足立(あだち)……奈緒(ナオ)なんだよな?」


『も〜! いい加減信じてよ! 何なら、ゆうちゃんの恥ずかしい黒歴史、1から語ってこうか?』


「俺が悪かった。頼むからやめてくれ」



ふふふっ、と笑い声を漏らす幽霊。


と……この様に、にわかにも信じ難い、幽霊との会話 (?)を楽しんでいると。


いつの間にか、自宅近くに佇むコンビニエンスストアの明かりが姿を現す。



「……奈緒」


『ん? なに?』



久し振りに名前で呼んでもらえて喜ばしいのか、弾んだ声で答える、幽霊。



「……ちょっと、コンビニ寄っても良い?」


『うん。もちろん』



機嫌のいい音楽が鳴り、自動ドアが開く。


買うものは、既に決まっている。


2リットルのお茶と、パンに塗るジャム。それと、懐中電灯に入れる単三電池。



「…………」



電池とジャムを棚から手に取り、ドリンクコーナーへ。


ウォークの取っ手に手をかけ、そこで気付く。



(……やっぱ幽霊って、鏡写らないんだな)



目に入ったガラスショーケースには、俺が写っているのみ。


隣に浮かぶ、幽霊の姿はない。





『そう言えば! ここのコンビニでさ、高校時代一緒にバイトしてたよね。懐かし〜』


(そうだな……)



店員から釣り銭を受け取り、またもや鳴り響くドア開閉音を背に、コンビニを後にする。



「はぁ……」


『子どもの頃はコンビニ店員ともまともに話せてなかったよね。ゆうちゃん』


「……やめろ。自分が悲しくなる」


『うふふ』



相変わらず、街頭が作る影は俺1人分だけ。


夜空を見上げ、ふと呟く。



「お前さ……家には帰らないのか?」


『えっ?』


「いや……体は無くても……幽霊って存在として、帰れる事は出来るんじゃないか?」


『…………』



初めて、俺の質問に言葉を詰まらせる、幽霊。


その瞳は、彼女の名字___「足立(あだち)」の表札が掲げられた家へと、まっすぐ向けられている。



『…………』


「……どうした?」



その無言の意味を理解出来ず、思わず声をかける。



『……事にする』


「え?」


『うん! そうする』


「え? 今なんて……」



1人頷く、幽霊。


角度的には、和らぐその表情を垣間見ることしか出来ない。


だが、



『……家には、帰らない。ママとパパの泣いてる顔……見てられないから』


「…………」



その答えに、今度は俺が、言葉を失う。



『……ママもパパも、あんなに泣いてさ。普段はずっと……笑ってばっかりいるのに』


「泣く……だろ。……子どもが___お前が、死んだんだから」


『うん……。そう……なるよね』


「…………」



静かに我が家を見つめる幽霊___奈緒の瞳から溢れ出た何かが、街灯に照らされ、煌めく。





『私さ…………まだ…………生きてたかったな…………』





そんな小さな言葉が、しかし確かに、俺の鼓膜を震わせる。



俺はどこかで、今目の前の女性を……奈緒のことを、「偽物」___言わば作り物かと思っていた。


だって……そうだろ?


人は死んだら生き返らない。2度と会えない。


そう、暗黙の了解が敷かれていた。



……だが、どうだろうか。


その死人が、幽霊として目の前に現れ。 「生きたい」 と望み、涙を流す。


生きることを放棄し、何かに依存し、その命を燻らせるだけの人間が腐るほどいるこの世の中で、死んだ人間が生を欲する。


そんな事が、目の前で起こっている。



信じざるを得ないだろう。



この俺、幽岬(ゆうさき) 見霊(みれい)は、



鏡に写らない存在___幽霊が見えるようになった。



そして、目の前の彼女が、



正真正銘、俺の初恋の人であった幼馴染み____



足立(あだち) 奈緒(なお)であると。





coming soon……



お読み頂きありがとうございます。


次の更新もお楽しみに!




現在改稿作業中です。不整合な点は御容赦ください。


予定していた次話投稿ですが、クオリティアップと整合性の調整のため、もうしばらくお待ちくださいますようお願い申し上げます。


お待たせして申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。